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    iduha_dkz

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    iduha_dkz

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    いたいけな生き物の力を借りて、桃吾の綾への態度を氷解させるターン
    ここだけ読めば大変平和
    一年経ったら元の飼い主のとこに帰る犬と高校卒業したら円の所に戻る桃吾、似たような存在です

    円←桃(無自覚)前提の綾→桃 そのいち「それで、今日は何? ボール倉庫に運べばいい?」
    「……ちゃう」
    「違うの? じゃあバット?」
    「……片付け終わったらちょお付き合え」

    試合で相手が活躍したら、それを労う。それすらもうまくできていない綾瀬川と桃吾に監督が言い渡したのは、試合でそれぞれが活躍した時に相手の頼みを一つ聞いてやれという指示だった。
    綾瀬川が完封したら桃吾が、桃吾が打点を挙げたら綾瀬川が、一つ相手の頼みにこたえる。もちろん際限なくなんでも叶えるというわけではなく、常識的な範囲にするようには言い含められていた。
    翌日監督に何を頼んだか報告する必要もあるので、あまり無茶な要求はできない一方、権利を使わないというのもやりにくくされている。
    これによってバッテリー間の会話が増えることと相手への感謝の機会を増やして冷え切っている関係が多少改善することを期待されているはずなのだが、始まってから数ヶ月、桃吾の綾瀬川への態度は一向に氷解しそうになかった。桃吾がその権利を毎回練習の片付けで使ってしまうので、会話も何もない状況になっている。綾瀬川もここまで露骨に野球以外で関わりたくないと示されると自分から距離を詰めるのもやりにくく、教室や寮での掃除の時に頼み事をして消化していた。
    そんな状況でやる意味があるのかと思わなくもなくなってきた時に、初めて桃吾が練習後の片付け以外を持ち出してきたのだ。
    どこに行くのか言わないのは不思議だったが、好奇心が勝って綾瀬川は何も聞かずについていくことにした。

    桃吾に連れられて綾瀬川が向かった寮の裏口には、一匹の大きな茶色の犬がいた。段ボール箱に大人しく収まっていた犬は、近くに寄った綾瀬川をじっと見上げてくる。
    「こんにちわー、触ってもいい?」
    「ワン!」
    「わー、ふわふわだー」
    拾ってきた桃吾ではなく犬本人に触っていいか聞いてみると、機嫌のよさそうな返事が返ってきたのでまず頭を撫でて、それからふわふわした胴体の毛並みに触れる。害意が一切ないのがわかるのか、犬は大人しく綾瀬川に撫でられていた。着けている首輪には「たろう」と書かれており、大事に飼われていただろうことがわかる。
    「大人しくてお利口な子だねー。桃吾このたろう君どこで拾ったの?」
    「ランニングしとったら、公園の入口にどうどうとおったんや」
    「ゴールデンレトリバーの大人なんて、こっそり捨てるとか無理だもんね」
    しゃがんで撫でながら話をしていると、桃吾が綾瀬川に紙を一枚見せてきた。
    「……捨てたつもりもないみたいや」
    そう言いながら渡された犬の絵が描かれたかわいらしい便箋には、まだたどたどしい文字で拾った人へのメッセージが綴られていた。
    『いちねんかんにゅういんするからめんどうがみれなくなりました。でもかならずむかえにいきます。それまでたろうをたすけてください。まゆか』
    まだ書き慣れない文字で、だが一生懸命書いたのだとわかるその手紙は、確かに本人には捨てたつもりがなさそうに見える。
    「これ……このまゆかちゃんって子が後先考えずにめんどうみれなくなるからって公園に置いてきた?」
    「親にも確認せず、勝手にやったと思っとる」
    「だよねぇ……」
    連絡先さえわかればなんとかなるが、その連絡先がわからない。桃吾がそのままにしておくこともできず、連れてきた理由もわかった。
    けれど、綾瀬川にはそれでも一つわからないことがある。
    「それで、俺は何したらいいの? わざわざ俺呼んだってことは、何か俺じゃなきゃいけないことがあるんでしょ?」
    「前教室で迷子の犬の飼い主探すポスター作って、飼い主見つかった話しとったやろ。こいつもちゃんと、家に返してやりたいんや」
    桃吾が求めてきたのは綾瀬川の経験と協力だった。そんなたわいのない雑談を聞いてたんだという驚きもあったが、真剣な桃吾を茶化すのも躊躇われて求められたことに答える。
    「まず警察に届けるのが大前提。そこで飼い主が見つかればすぐおうちに帰れる。帰っても大変な状況かもしれないけど」
    「すぐ見つからんかった時は?」
    「三ヶ月は預かり期間だから保護されるけど、その後はお迎えしたいって人がいたらそこの家の子になる。一年は、元の飼い主と連絡つかないなら待っててもらえないかも」
    入院の準備や看病と合わさるなら、どうしても探すのに使える時間は短くなる。まともに探せない間に預かり期間がすぎてお別れになる可能性はゼロではない。
    「帰れんのはアカン」
    「なら、警察に届けた後、保護は元の飼い主に返すって人がやるしかないんだけど……」
    普通は飼い主が探すものなのだが、こんな手紙と一緒に子どもが愛犬を公園入口に置いていくなら、その成果は芳しくなさそうだった。大型犬を預かれる人はなかなかいない。
    だが目の前にそれを願っている人が一人いる。話しかけられるのさえ少なかったのに珍しく頼られたことが嬉しくて力になりたかった。だから綾瀬川は、桃吾に覚悟を問いかける。
    「桃吾、この子の飼い主がすぐ見つからなかった時、犬一匹一年めんどう見る覚悟、ある?」
    金銭面を除いても、命を預かるのに責任は伴う。昔犬を拾った時に、自宅で飼いながら保護して元の飼い主を待つならこれだけのことをしなければいけないと、教えられたことを、綾瀬川は桃吾にたんたんと話した。結局綾瀬川の家では動物を飼えず、警察と保護センターに任せたが、この寮は少なくとも動物禁止ではない。それ以前の理由で誰も飼おうとしないだけで。
    「……ある。けど、飼う許可なんて出えへんやろ」
    「桃吾と俺が揃って頼みにいけば違うかも?」
    入学してから昨日までの野球関連以外で話そうともしてこなかった桃吾が、その綾瀬川と一緒に飼い主が見つからない場合飼いたいと迷い犬を連れてきたら少なくとも検討はされるはずだ。長期的には無理という判断が下されるかもしれないが、少なくとも数日間寮で見守るのは許されるだろう。
    「どうする? まだ監督いると思うけど、行く?」
    「おん。……行くどたろう」
    大きなゴールデンレトリバーを、桃吾は軽々と抱えあげる。腕に抱えられても大人しい太郎君は、桃吾のことをとっくに信頼しているらしい。すり寄るように頭を擦り付けられて緩む桃吾の表情は、綾瀬川には初めて見たものだった。何かに耐えているような不機嫌そうないつもの顔よりもこちらの方がずっといいなと、綾瀬川は思いながら桃吾と一緒に監督の元へ向かったのだ。

    結論から言うと、たろうの飼い主自体はマイクロチップに登録されていた情報ですぐに連絡がついた。飼い主としても、入院する娘が勝手にお別れしてしまった愛犬が無事見つかったことには喜びつつも、遠方の病院に入院する娘に付き添って群馬を離れてしまうため、一年間の預かり先には引き続き困っている状況だった。
    その結果、たろうは一年間主に桃吾と綾瀬川でめんどうを見るという条件で寮で飼われることになった。
    この日以降の二人の試合で活躍した後の頼み事は、しばらくの間たろうに絡むものばかりとなり、その後も練習の片付けで消費されることはなくなって、そしてついに監督からこの指示の目的は終わったからこれからはやらなくていいと言われるようになるのだが、それはまた別の話である。
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    iduha_dkz

    DONE綾と桃吾の高校での卒業式の話です。
    前半は1年時、後半は3年時。
    3年一緒に過ごすうちに色々理解して仲良くなり情も湧いたけど、それでも桃吾の一番は円なので綾の一番にはなれないことを最後に突きつける、一番のために他の大事なもの切る痛みを伴う別れが100通り見たくて書きました。
    最後の日を迎えて卒業式で久しぶりに会った二つ上の先輩は、綾瀬川と桃吾が二人で花束を持ってきたのを見て、はじめは落第点しか取れていなかった学生が百点満点を取った時の教師のような顔で微笑んだ。
    「二人一緒に来るとは思ってなかった」
    「元主将を心配させるなって、二年の先輩たちが二人で行けゆうてくれはったんです」
    「桃吾、それ言っちゃったら不安にさせるやつじゃない?」
    「大丈夫だよ綾瀬川。雛がどうしても俺に渡したかったって言えない照れ隠しなのはわかってるから」
    「主将ぉ!」
    「あ、ならよかったです」
    抗議の声を出した桃吾を綾瀬川はまったく気遣わず「ほら渡すんでしょ」と花束を差し出すように促す。長持ちすることを考慮してドライフラワーで作られた花束を二人から受け取り、鮮やかな花束に一度視線を落とした後、彼は自分より身長の高い後輩二人を見上げた。
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