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    iduha_dkz

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    iduha_dkz

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    瀬と花と綾の手の話
    小6で綾が試合に出てて、かつ瀬と一回戦で当たった世界線
    あの握手の感覚を共有したかった花がいたらいいなと思ったんです

    道連れに選ばれて何度見てみたところで、決まった組み合わせが変わることはない。瀬田のチームが綾瀬川のいるチームと一回戦で当たる。それは何かイレギュラーなことでも起こらない限り、覆りようのない事実だった。
    これが三年じゃなくてよかった。そう切り替えるには、先輩達からの綾瀬川がどんな投手かという質問が邪魔で、瀬田はトイレを口実に人の輪の中から抜け出す。
    「綾瀬川は小五の時点で百七十センチもあって、成長が早かったから当時は有利でしたが、今は成長して差は縮まっているかもしれません」
    同じく質問攻めにあっている椿には少し悪いなと思うものの、少しも信じていない可能性を慰めとして語ることを瀬田はやりたくなかった。
    一通り運の悪さを嘆いたら「アレムリじゃね?」「ムリでも公式戦なんスよ」と言い合える空気に変わる。最高学年ではないのだから、割り切って立ち向かう空気に変えられるまでの少しの間、その場を離れることにしたのだ。

    晴れ渡る空から落ちる日差しを避けるため木陰に入った時、ポケットに入れていたスマホが震えた。急いで戻りたい理由もないので画面を開くと、一通のメッセージが目に飛び込んでくる。
    「初戦綾瀬川、御愁傷様。試合の時、握手してもらうといいよ」
    反対側のブロックに落ち着いた花房からのメッセージは、まぁまぁの煽りと少しばかりの愚痴なら聞くという気遣いが混ざっている。とはいえどちらも瀬田には不要で、煽り返しておくことにした。
    「おまえ暇なの?」
    「えー、忙しい中不運な瀬田ちゃんのこと気にしてあげたのにひどくない?」
    「奈津緒に打たれろ」
    「自分で打つから待ってろとはやっぱ言えないんだね」
    そのメッセージに「次待ってろ」と打ち返そうとして、今ではないなとスマホごと閉じた。既読スルーになるようなことを送ってくる方が悪い。そう責任を押し付けて、瀬田は先輩達のいる人の輪の中に向かう。彼らと一緒に強敵に立ち向かう前にその次の話をするのは流石にまだ早く、たとえ可能性がゼロでもこれは結果が出た後にすべき話だと感じたからだ。


    手加減してねなんて頼みが本気にされるわけもなく、綾瀬川は瀬田からあっさり勝利をさらっていった。これが順当な結果で、最初からそうなるだろうと予想できたことだ。先輩達には悪いけれど、これが三年じゃなくてよかったというのが瀬田の素直な感想である。
    負けて泣いている先輩達はしばらく動けそうもない。なら少しくらい時間はあるかと、瀬田は綾瀬川のところに向かう。「頼んでもそりゃ公式戦で手加減なんてないよねー」なんて敢えて軽く言って。それに綾瀬川が細めた目でごめんなんて言ってくるから。だから先輩達が聞いてないのをいいことに、「実力差なんだから気にしない、はい握手」とその手をとってしまったのだ。
    晴れ渡った空から降り注ぐ日光を遮る影は、グラウンドには存在しない。数秒間の短い握手は、瀬田の感情を波立たせる。握手するのが試合後でよかったというそんなどうしようもない感情が、沸き上がってきた感情の中では一番まともなもので。離してもしばらくは手に残る感覚を忘れられず、意味もなく右手を閉じたり開いたりしながらグラウンドを後にすることとなった。

    その日の夜、組み合わせが発表されてから一度も何も送ってこなかった花房から、再びメッセージが届いた。
    「あらためて、御愁傷様」
    先日は時期尚早で送れなかったメッセージを、ここぞとばかりに送りつける。
    「次の大会はおまえから打つし、一本も打たせねーから覚えとけ」
    「えー、俺何も悪くなくない? それより瀬田ちゃん、綾瀬川と握手した?」
    花房はなんてことのない風に質問を放り込んできたが、こんなことを急に話題を変えてまで聞いてきた時点で、握手がなんてことあるのだと自白しているようなものだ。
    どう返事を送ろうか、書いては消し、書いては消しを繰り返して。そして、瀬田は結局メッセージではなく通話のボタンを押していた。
    巻き添えにされた不服を文字に残すこと、それだけは今後のために避けた方がいい。それが通話を選んだ理由だ。
    「握手した。最悪。巻き込むなよ」
    繋がった瞬間に挨拶も無しに苛立ちを放り込むと、電話口で笑う声が聞こえる。
    「瀬田ちゃんにも、綾瀬川がどんな手してるか知って欲しくてさー」
    大きくて勝利をつかみ損ねるなんて起こりえない、そんな手に包まれた感触がよみがえってくる。道連れが欲しい気持ちだけはわかって、仕方がないので元気付けてやることにした。
    「別格相手に差を嘆いてるより、自分のレベルアップした方がいいだろ」
    「……負けた直後に言うね瀬田ちゃん。でもその通りか」
    「左ってだけで差別化できんだから、綾瀬川見てるより自分の強み伸ばした方がいいって」
    「うん。瀬田ちゃん巻き込んでよかったー」
    「オレまったく得してねーんだけど」
    「運の悪さ慰めてあげたじゃん」
    「いらねー。もう切る」
    「うん。じゃあまたどこかでね」
    花房がその言葉を言い終えると同時に通話は切られて、スマホが一気に静かになる。またどこか。それが大会序盤以外の場であればいいなと思いながら、瀬田は通話中に届いていた他のメッセージに画面を切り替えた。

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    iduha_dkz

    DONE綾と桃吾の高校での卒業式の話です。
    前半は1年時、後半は3年時。
    3年一緒に過ごすうちに色々理解して仲良くなり情も湧いたけど、それでも桃吾の一番は円なので綾の一番にはなれないことを最後に突きつける、一番のために他の大事なもの切る痛みを伴う別れが100通り見たくて書きました。
    最後の日を迎えて卒業式で久しぶりに会った二つ上の先輩は、綾瀬川と桃吾が二人で花束を持ってきたのを見て、はじめは落第点しか取れていなかった学生が百点満点を取った時の教師のような顔で微笑んだ。
    「二人一緒に来るとは思ってなかった」
    「元主将を心配させるなって、二年の先輩たちが二人で行けゆうてくれはったんです」
    「桃吾、それ言っちゃったら不安にさせるやつじゃない?」
    「大丈夫だよ綾瀬川。雛がどうしても俺に渡したかったって言えない照れ隠しなのはわかってるから」
    「主将ぉ!」
    「あ、ならよかったです」
    抗議の声を出した桃吾を綾瀬川はまったく気遣わず「ほら渡すんでしょ」と花束を差し出すように促す。長持ちすることを考慮してドライフラワーで作られた花束を二人から受け取り、鮮やかな花束に一度視線を落とした後、彼は自分より身長の高い後輩二人を見上げた。
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    iduha_dkz

    MOURNING話が進んで解釈変わる度に書き直される円桃。
    枚方シニア戦が終わったら完成します。たぶん。

    5/13追記
    13話で解釈が変わったので、この流れのままで書き換えるのはここで終了です
    今後はこちらで→https://poipiku.com/7684227/8748586.html
    枚方シニア戦の夜の円桃構えたところでピタリと静止し、そこに吸い込まれるかのように、豪速球が投げ込まれる。ミットにボールが納まる音だけが繰り返されて、U12と枚方ベアーズの試合は終了した。
    格上相手を当然のことのように抑えたエースピッチャーに対し、ある人は球威の凄さに圧倒され、ある人は球種の豊富さに目を奪われ、またある人はそのコントロールの正確さに魅了されていた。
    とにかく鮮烈だったのだ。綾瀬川次郎という才能は。
    だから、綾瀬川の活躍の裏で当然のことのように行われていた異常なことに気づいたのは一握りのよく見ていた人だけで、円が気づいたのも桃吾と常日頃から組んでいて、彼のことをよく知っていたからだ。
    枚方ベアーズ戦の桃吾のリードは、これまで円に対して行われたものより、ずっと厳しい要求がなされていた。ストライクギリギリの下半分に集められる投球は、打者にも打ちづらいが投手にだって投げにくい厳しいリードだ。
    1982