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    綾と桃吾の高校での卒業式の話です。
    前半は1年時、後半は3年時。
    3年一緒に過ごすうちに色々理解して仲良くなり情も湧いたけど、それでも桃吾の一番は円なので綾の一番にはなれないことを最後に突きつける、一番のために他の大事なもの切る痛みを伴う別れが100通り見たくて書きました。

    最後の日を迎えて卒業式で久しぶりに会った二つ上の先輩は、綾瀬川と桃吾が二人で花束を持ってきたのを見て、はじめは落第点しか取れていなかった学生が百点満点を取った時の教師のような顔で微笑んだ。
    「二人一緒に来るとは思ってなかった」
    「元主将を心配させるなって、二年の先輩たちが二人で行けゆうてくれはったんです」
    「桃吾、それ言っちゃったら不安にさせるやつじゃない?」
    「大丈夫だよ綾瀬川。雛がどうしても俺に渡したかったって言えない照れ隠しなのはわかってるから」
    「主将ぉ!」
    「あ、ならよかったです」
    抗議の声を出した桃吾を綾瀬川はまったく気遣わず「ほら渡すんでしょ」と花束を差し出すように促す。長持ちすることを考慮してドライフラワーで作られた花束を二人から受け取り、鮮やかな花束に一度視線を落とした後、彼は自分より身長の高い後輩二人を見上げた。
    「ちゃんと話せてるみたいだな。考えが合わなくて喧嘩するのは仕方ない。けど、同じチームでバッテリーなんだし、これからも意見が割れたら互いが何を考えてるかしっかり聞くんだぞ。お前らは溜め込むより隠さず話した方がいい。言いたくないなら言える範囲で言いたくない理由を話せ」
    二人が入学してから何度も言い聞かせてきたことを、もう必要なさそうだとは思いながらも彼はこれが最後だからと言葉にする。
    入学直後、理由を言わずに桃吾と距離を取ろうとする綾瀬川と、この学校を選んだ理由を頑なに話さない桃吾で、当事者以外はどうなることかとひやひや見守るような状況だった。そんな二人に主将だった彼が丁寧に話を聞き、間に入って一つ一つ取り持っていったのだ。その結果、学年が近い二年生から「お前たちが揃って花束を渡さないと卒業しても安心できないだろ」と譲られるくらい、綾瀬川と桃吾はこの先輩にさんざんお世話になっていた。
    「また、一緒に野球したいです」
    「次も同じチームになれるかはわからないけどな。でも、運良く同じチームになれたら、その時はよろしく!」
    彼は育成ではあるもののプロに向かう。プロで望むチームに行くには実力と数年間の努力が必要だ。それでも叶えようとすれば不可能というわけではないが、それを一番の目標にして他の道を捨てるほどの覚悟が必要になる。だから、どこまで本気かわからない綾瀬川の言葉に対し、彼は念のため自分を追いかけるなんて目標を持たないよう釘を刺した。
    綾瀬川の目が驚いたように少し大きく開かれ、それからぱちぱちと目を瞬かせながら目の前にいる先輩と隣の桃吾に視線を向ける。数瞬の間視線をさまよわせた後、綾瀬川は先輩をまっすぐ見て右手を差し出した。
    「その時は、また色々教えてください」
    「おう、一緒のチームになったら、その時な」
    別れの握手をしながら、叶う可能性が十二分の一以下の約束が結ばれる。
    「俺もまた同じチームになったら、そん時はお願いします!」
    綾瀬川との握手が終わると桃吾が自分もとばかりに手を出してきて、それでその場の空気がほぐれる。そして桃吾が握手をする間に、花束を受け取り終わった他の野球部の三年生が集まってきた。三年生どうしで話したいこともあるだろうと、綾瀬川と桃吾は先輩達に別れの挨拶をして立ち去る。
    「桃吾と大喧嘩したら、先輩に連絡してもいいと思う?」
    離れて声が届かなくなったところで綾瀬川が歩きながら突拍子も無い考えを話し出して、それに思わず桃吾は突っ込んだ。
    「なんでやねん。話したいなら普通に連絡したらええやろ。先輩の練習の邪魔になるほど連絡するのはあかんけど」
    言外に、大喧嘩したなどと連絡したら心配させてしまうだろうと桃吾は伝える。それに気づいて、綾瀬川も明るい話題に思考を切り替えた。
    「じゃ試合で勝った時とかかなぁ」
    「今週末から練習試合解禁やしな。明るい話題なら連絡きて先輩も嬉しいやろ」
    「例外が何か言ってるー」
    「例外?」
    聞き返した桃吾に対し、綾瀬川はわざわざ歩みを止めて隣を向いた。
    「桃吾は卒業した後、俺から試合勝ったって報告の連絡きたら自分が喜ぶと思ってる?」
    「連絡だけで嬉しくはならへんな。特別感がないねん」
    この一年寮の部屋まで一緒だったことで、二人はさんざんやり取りを繰り返してきた。他愛のない報告の連絡が綾瀬川からきただけで喜ぶのを想像できなくて、桃吾は本音をそのまま伝える。
    「なにそれ、俺は普通なの?」
    「お前が普通なわけないやろ! 連絡来るのがいつものことになっとるだけや」
    「そっか」
    綾瀬川は面白そうに笑ってそれから前を向きなおして歩き出す。桃吾もそれに合わせて前を向いて歩きだしたので、その後綾瀬川の顔に寂しさが浮かんだのを目にすることはなかった。

    その日の夜、桃吾が風呂から戻ってくると、綾瀬川が机に向かって作業をしていた。集中しているようで、桃吾が戻ってきたのにも気が付かない。
    「何しとるん?」
    「あ、もう桃吾風呂上がった? 早くない?」
    「いつも通りや。俺がおらん間に何するつもりやったん?」
    「もう完成だしいっか。ほら、これ作ってた」
    綾瀬川が体を避けて机の上を桃吾に見せる。そこには、ドライフラワーをうまく束ねて作られた、雛人形が二体置かれていた。形は整っているものの、バランスがうまく取れないようでお内裏様とお雛様が仲良くこてんと並んで机の上に倒れている。
    「は? これ作ったん? てかこの花なんであるん?」
    「生徒会が余ったから欲しい人どうぞって言ってたからもらってきた」
    卒業生に渡すように用意した花束の予備がしっかり予備として余ってしまったようで、処分する前に欲しい人がいたら渡そうとしていたからもらってきたのだと綾瀬川は説明する。
    「いやでもなんで雛人形作っとんねん」
    「明後日だしあってもいいかなーって」
    話しながら綾瀬川は机の壁際にもたれかけさせるように雛人形二体を並べて置いていく。単体ではバランスが取れていなくても、壁にもたれかけさせれば頼りなさげではあるものの一応倒れずに置くことができた。
    「この部屋に女子おらへんやろ……」
    「まゆのを毎年飾ってたから、何も飾らないの落ち着かなくて。俺の机の上に置いとくんだし、桃吾の邪魔にはならないでしょ?」
    「そらそやけど」
    ならなぜ、桃吾が風呂に入っていて部屋に不在のタイミングで作ろうとしたのか。綾瀬川の語る理由にはその説明がない。
    「俺は作るの邪魔したりせえへんぞ」
    そう思われていて桃吾がいないタイミングを狙って作り始めたのだったら訂正しておかなければと思って桃吾は言ったのだが、それを聞いた綾瀬川は予想外すぎる言葉を聞いた顔になり、それからこらえようとしているのに止められない笑い声がこぼれていく。
    「ふはっ、そんなこと思ってないって、あははは」
    「ならなんで俺がいない時に作ったんや」
    まったく見当違いな理由だったことはわかったものの、ならなぜ桃吾から隠れるようなタイミングで作ったのかわからない。だから尋ねたのだが、それへの綾瀬川の返事は予想外なものだった。
    「えー、なんとなく?」
    「なんとなくぅ?」
    「俺もうまく理由言えないんだもん。一人で集中したいとか、そんな感じかなぁ。桃吾だって宿題やってる時、話しかけられたら気が散るでしょ」
    「ほやな」
    普段やらないことをし出したら、確かに気になって話しかけたかもしれないと桃吾は思う。作るのを邪魔するのと何が違うのだろうと思いはしたが、綾瀬川の中では能動的に邪魔をするのと意図せず邪魔してしまうのは違うのだろうと、桃吾は納得することにした。聞いたところで、本人がなんとなくと言っている以上、これ以上細かいことがわかる気もしなかったというのもある。
    そうして綾瀬川の手でつくられた一組の雛人形は、二日後の三月三日まで寮の部屋に飾られて、二人の生活を見守ることになった。

    =====

    プロ入りして寮生活となっていても、流石に卒業式は優先される。久しぶりに戻ってきた高校は、校舎にまったく変わりはないものの別れを惜しむ空気で満たされていた。
    数ヶ月ぶりに会った同級生達は元気そうで、桃吾が不在になってから学校で起こったことを教えてくれる。三学期に起こった諸々に笑ったり突っ込んだりしていると、綾瀬川がやってきた。久しぶり、俺も何あったか知りたいと言って、輪の中に入ってくる。それで話は更に盛り上がって、卒業式が始まるまでの時間はあっという間にすぎていった。
    教師がやってきてまもなく卒業式だと伝えられると、みなそれに従って移動を始める。そんな移動の最中、歩きながら綾瀬川が桃吾に話しかけてきた。
    「桃吾、だし帰りちょっと付き合って」
    いつも通りに話しているようで、最後という言葉にどうも力がこもっている。同じチームでバッテリーを組んでいた時間はけっして短かったわけではない。だから、最後の最後に何かあるというなら、それに付き合うのを断る理由はなかった。
    「おん。どこおったらええ」
    「どこって部屋……あっ、もう出てたね」
    「引っ越したいへんやったやろ……」
    「だって桃吾と集まる時ってたいてい部屋だったし。じゃあ裏門で。そっちのが近いから」
    寮の同じ部屋で暮らしていた時は、部屋で待っていれば確実にお互いに会えた。もうそんな日々は終わったということを、綾瀬川は今うっかり忘れていたらしい。
    「わかった。じゃあ行くど」
    そんな綾瀬川が最後に自分と何をするつもりなのか。考えてもわからないということだけはこの三年間で桃吾もわかっている。それでも何をするつもりなのか気になって、桃吾は式中の偉い人の話の間、つい綾瀬川とした約束のことを考えてしまうのだった。

    卒業式が終わって、同級生や後輩と別れを伝えて、そして最後呼び出してきた綾瀬川と学校から駅までの帰り道を桃吾は歩いていた。正確にはまっすぐ駅に向かうのではなく、綾瀬川の目的地に寄り道中である。「こっち」とたまに方向を伝える以外に綾瀬川は一言も話さず、その沈黙は桃吾にも伝染した。
    無言のままよくランニングで走った川沿いを歩き、堤防から川岸に階段で降りていく。水流の側まで行くと綾瀬川は流れる水に手を浸し、次の瞬間「冷たっ」と言いながら慌てて手を引いた。
    「そら冷たいやろ」
    「夏は浴びたいくらい気持ちよかったのにねー」
    「そんで、ここが目的地なんけ?」
    「そう。二日早いけど、今日しかないし」
    そう言うと、綾瀬川は鞄を開く。少しごそごそした後に取り出されたのは、寮で部屋に飾っていたドライフラワーの雛人形だった。お内裏様とお雛様の二人が、葉っぱの上に寝かせられいるのをそのまま桃吾に渡される。
    「また作ったんけ?」
    「ううん、寮で飾ってたやつ」
    「は?」
    二年の時も同じ雛人形を出して飾っていたが寮の部屋を引き払う時にさすがに捨てただろうと思ったのに、持ち出していたのだと聞いて桃吾は驚く。何か飾らないと落ち着かないからという理由で用意したなら、寮生活が終わる時に持ち出す必要はなかったはずなのだ。
    「ほんとはね、今日流し雛したくなるかもしれないなって思って作ってた」
    だからなんとなく、作ってるところ桃吾には見られたくなかったんだ、と綾瀬川は続ける。穏やかな川の流れと同じくらいゆっくり吐き出された言葉は、三月のまだ冷たい空気を受けて真っ白な息と一緒に広がっていった。
    別れの日に雛桃吾と雛人形を川に流す。そんな言葉遊びに対して綾瀬川が意味を感じて実行しようと思ったのは、桃吾がそもそも綾瀬川のいる学校に来たからだ。桃吾でなければ、この日綾瀬川が三年間バッテリーを組んだ相手と迎える別れは、これが最後という区切りのものではなく何かしら次に繋がるような別れ方になっていただろう。
    「せえへんかったかもしれへんのけ?」
    「……桃吾の一番のチームが高校になってたら、まだ大事に持ってたかも」
    「チームだけでええんか?」
    「ふつうはさぁ、高校三年間バッテリー組んでた相手って、一生で一番大事な思い出になるものじゃない?」
    「……なら、流すって決まっとったな」
    「だよね」
    桃吾にとっての一番のピッチャーはずっと円だ。とはいえ別のチームである以上、離れている間のエースは所属しているチームの投手になるし、だから桃吾にとってのエースはこの三年間綾瀬川だった。そしてここから先の桃吾の目標は、プロで円と同じチームになり、一緒に優勝することだ。それはこの高校に来た時にはとっくに決まっていた夢で、その夢を目指している以上、他の誰かが一番になる余地はない。
    「……悪いとは、思っとる」
    円のため、そして何より自分のために、綾瀬川を利用した。それに対する罪悪感はこの先も持ち続けることになるだろうが、それは綾瀬川が高校三年間組んだバッテリー相手に求めていたものとは異なっている。
    「知ってる知ってる。じゃあもう流しちゃお」
    寂しそうな笑顔に言葉をかける資格を桃吾は持っていない。綾瀬川を選んでいないのに、形だけ寄り添っても空虚なだけだ。高校の時に組んで甲子園にいったバッテリーなら、生涯自分の一番エースは綾瀬川だと思い続ける可能性も高かったのに、桃吾がそこに陣取ったせいで綾瀬川はそんな相手を得られなかった。自身の夢のために綾瀬川にとって大事なものを奪ってしまった以上、桃吾は綾瀬川に何も言えない。
    「せやな」
    かわりにしゃがんで、渡された一組の雛人形を川に近づける。綾瀬川も同じくしゃがんで、片手を雛人形が乗せられた葉っぱに添える。葉っぱは頼りなげなもののしっかりと水に浮いて、川の流れに乗って下流に進んでいき、立ち上がった二人の視界からも消えていった。
    「海までたどり着けると思う?」
    「あの頼りない舟やと途中で沈むんやないけ?」
    「そこは嘘でも海まで行くと思うって言ってよ」
    文句をつけた綾瀬川の諦めて寂しそうな顔が、桃吾の視界に引っかかって目が離せなくなる。太陽を背にして影になっているのに、川から反射する光が舞うように綾瀬川の顔を照らす様は、この世に本来存在しないものが今だけ形をとっているような印象を与える。
    それを見て、桃吾は何かを言わなければいけない気持ちに駆られて、そして、
    「お前と組んどったのが悪い思い出やったら、俺は今日ここに来とらん」
    つい、言う資格のない言葉を伝えてしまった。
    「だからひどいんじゃん」
    その言葉を静かに一刀両断した時の綾瀬川の顔は、桃吾の瞳に焼き付いた。見えたのは一瞬ですぐに綾瀬川はいつもの顔に戻ったのに、とても忘れられそうにないほど苦しげな笑顔は衝撃的で。
    「一生絶対忘れられないように、桃吾を流し雛にしてもいいんだからね」
    ふざけて物騒なことを言いながら、綾瀬川は桃吾の両肩に手を置く。
    「そんなんせえへんくても忘れへんわ」
    それに対し、このまま川に流されたとしても、今日の一番の思い出はさっき見た綾瀬川になるだろうなと桃吾は確信していて、だからそう伝えたのだが。
    「あのね、それがひどいんだって」
    また苦しげな笑顔で微笑まれて、桃吾は何も言えなくなった。肩に乗せられていた手の力が強くなり、言いたいことを綾瀬川も堪えているのだろうなと桃吾に伝わる。桃吾にできることはほぼない。根本的な解決ができるなら、こんな別れ方にはなっていない。それでも一つ思いついて、桃吾はとりあえずそれを伝えてみることにした。
    「毎年三月一日に連絡すれば、忘れてへん証明になるけ?」
    「……それ証明されても俺嬉しくないんだけど」
    いらないという言い方に手応えを感じて、桃吾は本音の更に底を突いてみる。
    「ほんまか? 一番やないと全部意味ない三年間やったんけ?」
    「ずっる……」
    そうじゃないから、だからイヤなんじゃんと綾瀬川は力なく呟き桃吾から手を離す。
    「いいよ勝手に連絡すれば。俺は待ってないけど」
    そして今までお別れをしていたこの川にもう用はないとばかりにくるりと方向転換して、川岸から駅へ向かって歩き出した。桃吾もそれを追いかけ、そして数歩先を歩いていた綾瀬川の隣に並ぶ。
    「誘ったんお前なんに置いてくなや」
    「もう用終わったし」
    「普通電車乗って降りるとこまで一緒の約束やろあれ」
    「まぁいいけど」
    「なんで俺が言うからしゃあないみたいな態度になっとんねん」
    雰囲気はすっかりいつものように戻っている。けれども二人の中には先ほどまでとは決定的に変わったものが確かにあって。
    「桃吾が言うからだよ」
    真面目な声で伝えられて返事に窮した桃吾を見て、綾瀬川は仕返しが成功したような顔をする。
    「ほんまなんやねんお前」
    「なんだと思う?」
    「わからんからきいとるんやろげー!」
    「ゆっくり考えたらいいんじゃない。今日がじゃなくなったし」
    川岸から堤防の道に戻る階段を、来る時とは逆で話しながらにぎやかに登っていく。
    ゆっくり考えた桃吾が「考えてもわからへん」とメールを送ってきて「なんでわかんないの」と綾瀬川が返事することになるのは、一年後の三月一日の出来事であった。
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    iduha_dkz

    DONE綾と桃吾の高校での卒業式の話です。
    前半は1年時、後半は3年時。
    3年一緒に過ごすうちに色々理解して仲良くなり情も湧いたけど、それでも桃吾の一番は円なので綾の一番にはなれないことを最後に突きつける、一番のために他の大事なもの切る痛みを伴う別れが100通り見たくて書きました。
    最後の日を迎えて卒業式で久しぶりに会った二つ上の先輩は、綾瀬川と桃吾が二人で花束を持ってきたのを見て、はじめは落第点しか取れていなかった学生が百点満点を取った時の教師のような顔で微笑んだ。
    「二人一緒に来るとは思ってなかった」
    「元主将を心配させるなって、二年の先輩たちが二人で行けゆうてくれはったんです」
    「桃吾、それ言っちゃったら不安にさせるやつじゃない?」
    「大丈夫だよ綾瀬川。雛がどうしても俺に渡したかったって言えない照れ隠しなのはわかってるから」
    「主将ぉ!」
    「あ、ならよかったです」
    抗議の声を出した桃吾を綾瀬川はまったく気遣わず「ほら渡すんでしょ」と花束を差し出すように促す。長持ちすることを考慮してドライフラワーで作られた花束を二人から受け取り、鮮やかな花束に一度視線を落とした後、彼は自分より身長の高い後輩二人を見上げた。
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    iduha_dkz

    MAIKINGぜんぜんまったく書いてる途中だけれどもこの会話出すなら今じゃない?となったのでワンシーンだけ抜き出したもの
    大学から一緒の学校になった花瀬花の、4年クリスマスの日に瀬田ちゃんが花房に告白してOKもらえたその少し後のワンシーンです

    こちらのその後的なものになります
    https://poipiku.com/7684227/9696680.html
    「花房さ、オレのせいでカノジョと別れたって前言ってたじゃん。確か一年のバレンタインデー前」
    「……よく覚えてるね」
    「その後からオレに付き合っちゃわないって言うようになったら、そら覚えてるだろ」
    「そっか」
    「やっぱオレのこと好きになったからってのが、カノジョと別れた理由なん?」
    「……そう。カノジョより瀬田ちゃんと一緒にいたいって思っちゃったのに、隠して付き合えるわけないじゃん。俺から別れ切り出した」
    「え、態度に出て振られたとかじゃなく?」
    「別の人の方が大事になっときながら、振られるくらい態度に出すなんてサイアクじゃん」
    「あーまぁ、確かに?」
    「ほんとにいい子だったんだよ……俺が野球最優先でもそれが晴くんだからって受け入れてくれててさ……でもだから、カノジョより優先したい人ができたのに、前と変わらずバレンタインのチョコもらうなんてできないじゃん」
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    iduha_dkz

    MOURNING話が進んで解釈変わる度に書き直される円桃。
    枚方シニア戦が終わったら完成します。たぶん。

    5/13追記
    13話で解釈が変わったので、この流れのままで書き換えるのはここで終了です
    今後はこちらで→https://poipiku.com/7684227/8748586.html
    枚方シニア戦の夜の円桃構えたところでピタリと静止し、そこに吸い込まれるかのように、豪速球が投げ込まれる。ミットにボールが納まる音だけが繰り返されて、U12と枚方ベアーズの試合は終了した。
    格上相手を当然のことのように抑えたエースピッチャーに対し、ある人は球威の凄さに圧倒され、ある人は球種の豊富さに目を奪われ、またある人はそのコントロールの正確さに魅了されていた。
    とにかく鮮烈だったのだ。綾瀬川次郎という才能は。
    だから、綾瀬川の活躍の裏で当然のことのように行われていた異常なことに気づいたのは一握りのよく見ていた人だけで、円が気づいたのも桃吾と常日頃から組んでいて、彼のことをよく知っていたからだ。
    枚方ベアーズ戦の桃吾のリードは、これまで円に対して行われたものより、ずっと厳しい要求がなされていた。ストライクギリギリの下半分に集められる投球は、打者にも打ちづらいが投手にだって投げにくい厳しいリードだ。
    1982