流浪はある強い吸血鬼の下で、魔力によって自我を奪われ、召使いとして奴隷のように働かされていた。
ある日、流浪の主である強い吸血鬼が抱擁にけんかを売り、怒った抱擁によって城を燃やされてしまう。
城に残された弱い吸血鬼たちもほとんど一緒に燃やされてしまったが、生存力の強かった流浪は生き永らえた。
主が去り、自我を取り戻した流浪は、わけもわからず抱擁に助けを求めた。
抱擁は流浪を家にお持ち帰りすることにした。必死に縋るその姿があまりに哀れで可愛かったので。
抱擁はその弱い吸血鬼に“ノートン”という名前を与えた。
長い間自我を奪われていたノートンは、外見上は成人男性であるのに情緒はまるで子供で、抱擁はずいぶん手を焼かされた。
またノートンは、外の世界の知識もほとんど無ければ、狩りの仕方さえ知らなかった。
抱擁は、ノートンに“吸血鬼として”の生き方ではなく、“人間として”の生き方を教えることにした。
吸血鬼として長い長い時を生きてきた抱擁が忘れてしまった感情をノートンは未だ持っていて、抱擁にもそれを思い出させたからだ。
すくすくと育ったノートンは、人間らしく反抗期を迎…自立心を芽生えさせ、抱擁の元を去る。
抱擁はちょっとだけ寂しく思ったけれど、いつまでも自分の手元においていたいと思うのは自分のわがままでしかないし、それではあのかつての流浪の主と同じになってしまう。これでよかったのだ…と、満足して彼の背中を見送った。
…はずだったが、その後もノートンは怪しい商人に捕まって売り飛ばされそうになったり、昔の主に見つかって火あぶりにされそうになったりして抱擁は手を焼かされるのだが、それはまた別の話。〈了〉