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    ニッカ

    @kirornchr27

    保管用に立ち上げました。物置き。

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    ニッカ

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    1作目続編。単発としても読めると思います。本誌に触発されて取り敢えず倉庫に投げ込みます。kiはやっぱり最高の男でした。新作書きてえ〜!

    #腐ルーロック
    rotatedLubeLock
    #iski
    iskas
    #潔カイ
    resolute

    ぼくらの言葉を紡ぐミヒャエル・カイザー。サッカー強豪国ドイツの最強クラブチーム、バスダードミュンヘンの圧倒的エースストライカー。プラチナブロンドの髪にラピスラズリ色のグラデーションが綺麗なミディアムヘア。誰が見ても端正な顔立ちをしており、サポーターからの人気が高い。そんな彼と俺、潔世一は今度結婚することになった。
    俺的には交際1日目に、カイザーにとっては交際5年目に結婚することになった。まぁ結婚するとなる前に色々あったのだが今回は省かせて貰う。結婚するということは家族になる、ということなので勿論親に報告しなければいけない。だが考えてみて欲しい。勘違いにより――本当に色々あった勘違いだったのだが――俺は交際していると思ってもいなかったが結婚する。という流れになったわけなのだが、つまりはそう。カイザーと付き合っていた。という事を親に伝えていない。
    一人息子はサッカークラブのチームメイトと交際していてそして結婚する――ドイツでは法的に婚姻を結ぶことができるんだってさ。――という衝撃的事実を突きつけることになる。もし俺が逆の立場だったら間違いなく卒倒する。世一はスマホを握りしめたまま、かれこれ1時間ほど苦悩していた。

    世一が家で留守番することになる少し前の話。
    カイザーに「お前のご両親に挨拶行かねえとな」と言うと「あ〜、別に必要無い。」とバッサリと言い切られた。カイザーはあまり身内の話をしたがらないので、そういう境遇の人もいると理解しているので深くはつっこまない。ドイツと日本。恐らく両家顔合わせは不可能に近いので、せめて自分たちだけでも挨拶がしたい。カイザーはそれを察してか「世一ィ、いつ日本に行く?」とノートパソコンを片手にリビングへとやって来た。航空券の予約だろうか。その前に両親の都合を確認しなければいけない。ということは報告しなければいけないわけなのだが。

    「あ〜…ちょっと待ってな、親に色々報告しないとなんだよ…」
    「結婚の?それとも来日の?」
    「……交際も結婚も言ってないからまずそこから……」
    「中々ハードだな」

    他人事のようにいいやがって。悪態をつきたくなるが決まってしまったものは仕方がない。それにいつか必ず直面する問題なのだから今やるべきだ。わかっている。分かってはいるが指先が連絡先を表示した先から進まない。するとカイザーがテーブルにノートパソコンを置いた。パタンと閉じられたそれを見てからカイザーを見上げる。

    「ジョギングに行ってくる。」
    「今から?俺も行こうかな…」
    「世一、お前はお留守番だ。頼んだぞ」

    カイザーは着替えに自室へ戻って行った。留守番だ、と言われると言うことは着いてくるな。と言うことだろう。恋人である上に、ストライカーを競い合うライバルでもある。世一は「はいはい」とスマホに目線を戻して背もたれにに再度もたれ込んだ。

    暫くしてから玄関から扉の開閉音が聞こえた。恐らくカイザーが出て行ったのだろう。シン、と部屋が静寂に包まれる。電話、しようかな。部屋の静けさに心が少し落ち着いた気がする。スイ、とスマホの画面をいじった瞬間にハッと世一は理解した。カイザーが突然外出した理由。留守番を頼まれた理由。彼は思ったよりもしっかりしていてそして自分を思ってくれていることに気がつく。
    部屋に1人であっても、何処かに誰かがいると言う認識だけで少しだけだけれど気が紛れることがある。音、気配、温度。少しの要素だけで集中力が切れてしまうことなんて多々あることだ。多分――いやアイツの性格と意識からして確実に――邪魔をしないように、変に気を遣わせないようにと1人にしてくれたんだろう。今までだったら「緊張してんのか?世一ィ」とか何とか言って茶化してきていただろうに。あんなに絶対的に自分に自信を持ち、大胆不敵な彼がこんなにも自分を想って行動してくれるそれに、世一は思わず顔を手で覆った。ジワリと顔に熱が集まるのを感じる。

    「……あ〜、キスしてぇ」

    そして世一もまた、彼に首っ丈なのであった。



    「……お、おかえり」
    「……無事済んだみてえだな?世一」

    きっちり1時間半後、カイザーが額に汗を滲ませて帰宅した。世一はスマホを机に置いて準備していたタオルを彼に手渡す。汗で艶めく肌が色っぽいな、と汗を拭う彼の姿を眺める。カイザーがこちらを見下ろして視線が交じり合う。するとニィ、と口の端を上げて不敵に微笑む。そして世一の隣に腰を下ろして、世一の耳元に口を近づけた。

    「変態な眼になってんぞ、クソ世一」

    耳打ちされたかと思うと、至近距離でニッコリと微笑まれる。何だか腹が立つな。と世一が反論してやろうと口を開こうとすると、そっと世一の唇にカイザーの白い指先が触れる。形を確かめるように唇をなぞるそれに熱が上げられるのを感じる。煽られている。世一は逃げられないようにカイザーの手首を掴んだ。カイザーの肩が少しだけピクリと揺れたのを目の端で捉える。唇を這っていた指をそのまま口内へと招き入れる。指先、関節、付け根。べろりと味わうように舐めとると、びくりとその手が震える。カイザーが何度か息を詰まらせるような声を漏らす。あ〜、気持ちがいい。

    「……ッ、」
    「逃げんな、カイザー」
    「に、げてねェ」

    耳まで真っ赤に染めたカイザーが距離を取ろうともがく。許さないとばかりに腕を引いて距離を詰めるとフイと顔を逸らされた。カイザーは俺からの押しに弱い。このまま進められそうだな、とカイザーの首筋に唇を這わせた。

    「跡付けたら殺すぞ」
    「…撮影でもあんの?」
    「そうだよ、…ん、」

    耳朶に柔く歯を立てるとカイザーの身体が揺れる。そのままわざと音を立てて舐めると「ぅあ、」と声を漏らして弱々しく肩を押される。煽ってきたくせに中々に抵抗されるので、世一はソファーの上に半ば無理やりカイザーの身体を押し倒した。

    「ッおい馬鹿!待て!」
    「は?煽ったのお前だろ」

    チュ、チュ、と薔薇にキスを落としながら服の中を弄る。腰を撫でて尾てい骨を指先で強くなぞると「アッ」と腰が揺れた。お前ほんとココ弱いよな。世一が微笑むと思い切り背中を蹴られ、顎を肘で押し返される。

    「いっ…んだよ!」
    「クソ世一!待てって言ってんだろ!シャワー!」
    「ハァ〜?今?」
    「今。しかも何も準備してねェからそれも。」

    そう言われるとぐうの音も出ない。ボトム役をやって貰っているような状態で、そちらは負担も多いと言うのは重々承知している。その上、このような関係――どちらがどちらをやるか殴り合いレベルで言い合いをした――になった時に「今後ヤる前には絶対シャワーさせろ」とカイザーからの条件提示があった。なのでそう言われると仕方がない。
    ここまで来て…臨戦状態なんですが…と世一が情けなく項垂れる姿にカイザーがクスクスと愉快げに笑う。仕方がないのでカイザーの首筋に鼻を擦り寄せて大きく息を吸う。すると「は!?」とカイザーが肩を揺らせた。恐らく驚いたのであろう。顔を離して「猫吸いならぬカイザー吸い」と言うと、ゴミ捨て場を見るような目で見られた。カイザーの汗はどうしてだろうか、全く臭くない。というより何故かいい匂いがする。それを前に言った時、「お前マジでクソ変態だな」と完全に引いた目で言われたので心に秘めておくことにした。
    カイザーが世一の肩を押し退けてするりと脱出する。上気した彼の顔が惜しくって、世一はカイザーの肩をぐっと掴んで引き寄せる。そしてそのまま唇へ噛み付くようにキスをすると「んんん」と嫌そうな声が漏れた。上顎、歯裏、舌裏を舌先で順になぞっていく。乗り気でなかったカイザーから熱を持った吐息が流れる。あ〜今すぐ抱きたい。理性が持つうちに、と名残惜しいが唇を離す。とろんと溶けたカイザーの目が視界に飛び込んできて、思わず視線を逸らした。

    「……クソ世一……」
    「目に毒すぎんだって」
    「……大人しく待てしとけ、バーカ」

    ぐしゃぐしゃと髪を撫でられる。そしてカイザーはそのままリビングを後にした。彼がいなくなったリビングで世一は先程カイザーを押し倒していたソファーに倒れ込む。そして彼のことでいっぱいになった頭でぽつりとひとこと呟いた。

    「………結婚ってサイコーじゃん」


    世一はカイザーに首っ丈であった。




    「久しぶり母さん、…うん元気だよ。そっちはどう?」
    「あ〜うん…いや…実はさ、実家に今度帰ろうと思ってて。…いやいつも事前に連絡してんじゃん」
    「…いや…まぁあの中にいた時は連絡出来なかったじゃん…携帯取られてたし…うん、いつ皆いる?」
    「うん……………いや…あの……紹介したい人、いんだよね…」
    「……うん、そう。なんだけど、その、……男なんだ、相手。」

    そう言った瞬間、キャアキャアと騒いでいた電話口の母さんが息を呑む音が聞こえた。そりゃあそうだよな。いやだって今までそんな素振りすら見せなかったのに突然、ってなるだろ。世一がギュ、と膝に置いていた手を握りしめる。

    「ごめん、色々。でも本気なんだ。だから紹介したい」

    世一が言い淀むことなくそう言い切る。電話の向こうで母がいつでも大丈夫だから、楽しみにしてるね。と優しく包み込むような声で言った。目頭が熱くなって鼻がツンとした。ああ、愛されているな。
    カイザーがジョギングから帰ってくる少し前、こっそりとひとりでほんの少しだけ泣いた。


    数日後、片道約12時間。俺とカイザーは互いに一つずつトランクケースを持って日本に到着していた。世一はW杯日本代表としても出場経験もあり、U20選抜選手でもある。日本を代表する選手だからと念の為、キャップとマスクで最低限の変装をしている。
    カイザーはと言うと、同様に黒の色違いの揃いのキャップ――前に世一がいいじゃんと思って自分用に買って帰ったらカイザーの部屋に同じものを見つけた。偶然なので別にお揃いというわけではない――を付けて彼も小さい顔に不釣合いの大きめのマスク。服装はハウスチェック柄のチェスターコート、黒のタートルネックのニットに細めのストレートデニム。足元はタッセルの付いたローファーを履きこなしている。目の下まで完全に覆われているはずなのに、長い手足、艶めく長い髪、隠しきれないオーラで平日の空港内の視線を集めまくっている。ちらほらと「ねえ、あれってドイツの…」とか聞こえてくる気がする。
    同じようにチェスターコートを着ている筈なのに――中にパーカーなんて着てこなかった方が良かったかな――同じ種類のコートを着ていると思えないほどのスタイリングだ。因みに「あれって日本代表の…」という声は聞こえてこない。

    「ん〜、久しぶりの日本って感じだな。」
    「おい、行くぞ。こっち」

    カイザーには「紹介したい人がいるってのと男だってのを伝えてある」と言っている。カイザーは少しだけ目を見開かせて、唇に手を当てて少し考慮した後小さく「ふぅん、分かった」と頷き、こちらを見てフッと微笑んでいた。
    カイザーはあまり自分の考えを言わない。自分で考えて、結果が出てから実はこうだった、とネタばらしする様な行動をとる。確かに世一も聞かれない限りは言うこともないがよく「表情に出ててわかりやすい」と言われる。共有しないと分からないこともあるからいいだろうと開き直っているのだが。今回もそうなのかな、と世一はカイザーの端正な横顔を見上げる。何考えてるかわっかんねェ。精悍な顔つきの彼からは何も読み取れなかった。

    「父さんが帰ってくるのが夜だから、今から4時間くらい余裕あんだけどどうする?日本観光でもするか?」
    「ん〜………」

    カイザーが珍しく言葉を言い淀む。煮え切らない態度に首を傾げつつスマホでカイザーが好みそうな観光名所を探す。カイザーがフゥと小さくため息をついて「そこのカフェで買ってくる。何かいるか?」と聞いてきたのでカフェラテと言う前に「オレンジジュースな」と話も聞かずに去って行った。なるほど、いつも通りらしい。カフェを買いに離れたカイザーが、緊張から震える手を握り締め「…チッ」と舌打ちをならしている事に、スマホを弄っている世一は気付けないでいた。

    カイザーが飲み物を両手に戻ってきてから「取り敢えずホテルに荷物預けに行こうぜ」と飲み物を受け取りながら提案する。「そうだな」と飲み物に口をつけながらカイザーが遠くを眺める。やはり何処か上の空だ。何かあったのか?と尋ねようとした瞬間、後ろから「あの、」と細々しい声が聞こえる。振り向くとサッカーボールを持った小さな少年と、その子の肩に手を置いてこちらの様子を伺う母親であろう女性が立っていた。

    「いさぎせんしゅだ!」
    「すみませんプライベートだと思うんですけど、この子潔選手に憧れてサッカー始めまして…よろしければサインいただけませんでしょうか…」
    「あ、俺!?っすか…あ、ハイ」
    「、おい世一」

    反射でしゃがみ込んで少年からボールを受け取ると、カイザーが少し焦ったように世一を呼ぶが、そのまま何も言わずにフイと顔を背けられた。怪訝に思いながらもボールにサインして少年に手渡す。パッと花が咲くように少年が笑った。その素振りがあまりにも愛らしく思わずヨシヨシと少年の頭を撫でる。

    「いさぎありがと!がんばって!」
    「応援してくれてありがとうな、俺頑張るよ」
    「潔選手でしょ!もうすみません……後お連れの方…ミヒャエルカイザー選手、ですよね…大変失礼致しました…」
    「………いえ」

    カイザーがぽつりと日本語をこぼした。うわ、珍しいと言わんばかりに世一が勢いよくカイザーへと振り返ると、じろりと睨み返される。そしてカイザーは俺の腕を掴んで立ち上がらせると、「行くぞ」と力強く引っ張る。親子に「すみません!じゃあ」と言うと、申し訳無さそうに深くお辞儀をされてしまった。世一が顔を上げると、その親子の後ろの方にこちらの様子を伺っている人たちが思ったよりも多く群を成していた。さっきの制止はそれだったのか。1人に応えたら全員に応えざるを得なくなる訳で。「潔選手とドイツのカイザー選手じゃない!?」「やばい!私たちも」と言う声が大きくなる。トランクケースを片手に世一とカイザーは自慢の脚力をもって空港内を駆けた。先程、飲み物を買いに行ったカイザーを待っている時に送迎タクシーを呼んでいたのが功を奏した。留まっていたタクシーに乗り込んで――運転手さんが気を利かせて荷物を猛スピードで載せてくれた。ありがたい。――行き先のホテルの名前を伝える。チラリと横目でカイザーの様子を伺うと、ギロリと射抜くような目で睨まれる。そしてガッと顔を思い切り掴まれてカイザーの方へと無理やり向けられる。首がもげそうになるが今回ばかりは自分が悪い。

    「クソ世一ィ、俺が何であの時止めようとしたか分かったか?」
    「分かったよ、悪かった」
    「普通に考えたら気がつく事だろうが。まぁ求められる事に慣れていない上にちっちゃいガキにせがまれちゃあ優しい優しい世一クンは断るのは難しかったか。」
    「悪かったって。でも求められることに慣れてねえ訳ないだろ。」
    「へぇ?」
    「お前だっていっつも求めてくるくせに、なぁ?カイザー」

    カイザーがまるで心当たりがない、と言うように眉を顰めて少し考えた後、直ぐに目が大きく見開かれる。ブワッと音がしそうな程見事に耳まで真っ赤に染めたカイザーは顔を掴んだ手を離して俺の頭を叩いた。カイザーのいつも飄々とした表情を俺の手で崩せる瞬間が堪らない。カイザーは「クソが」と言い捨てて窓の外へと視線を向けてしまった。ドイツ語での言い合いだったから運転手には分かっていないだろう。
    運転席側に座るカイザーの左手が座席に放り出されていたので、折角だしと世一はカイザーの手に右手を重ねた。指先が少しピクリと動いたが、そのあと彼から指を絡めて手を繋いで来たので世一は目を丸くした。珍しいカイザーのデレ。1ヶ月に1度あるかないかのレアミヒャエルカイザーだ。思わず空いている手で顔を覆うとそれを見たカイザーがむすっと唇を尖らせた。

    「……んだよ」
    「いや…待て。いま勃ちそうなんだよ」
    「クソだな」

    クックック、とカイザーが嬉しそうに笑った。日本に着いてから様子が少しおかしかったが、調子を取り戻したようだった。ハプニングもたまには役に立つんだな。世一はタクシーが目的地で停まるまで手を離さないでいた。しばらくしてホテルに到着して荷物を預ける。どこに行こうか、と悩んでいるとカイザーが口を開いた。

    「世一、お前の思い出の場所に行きたい」



    夕暮れ。黄昏時。学校が終わって帰路に向かう学生服の子供達が2人の隣を過ぎ去っていく。思い出の場所、と言うには相応しくないかも知れないけれど。監獄に入る前、県大会で敗戦した帰り道、此処でどうしようもなく泣いていたことを思い出す。あの時俺がシュートを決めていれば、と言う思いが今へと繋がっている。大事な大事な俺の思い出。その場所だ。
    サクサクと互いに何の会話もないまま河川敷を歩く。水面が夕陽を反射して煌めいている。カイザーもそれを見ながら歩いていた。

    「足元気をつけろよ」
    「……余計なお世話だ」

    このまままっすぐ向かえば家に行けるな。なんて考えていたら数歩後ろでカイザーが足を止めていることに遅れて気が付いた。振り返って水面を見つめるカイザーに声を掛ける。

    「カイザー?どうした」
    「………ここが思い出の場所か。」
    「……うんそうだよ」
    「綺麗だな」

    夕陽に透かされてカイザーのプラチナブロンズが光のように輝く。碧の瞳が宝石のように光って瞬きの間に差す影すらも美しい。絵画のような彼の姿に思わず見惚れて言葉が何も出てこなかった。

    「世一、これが最後だ」

    水面に向けられていたカイザーの瞳がこちらを捉える。迷うことのないまっすぐな目が世一を貫いた。

    「今ならまだ、この前までの関係に戻れる。お前が望むのなら別にそれでいい。…まぁ別にセフレで無くなったっていい。ただのチームメイトでもなんでも。」
    「……は?」
    「これがラストチャンスだ、世一。お前がこの先、世間からそう言う目で見られると言うことに覚悟を持てるのか。……自分の親に対して昔憧れていた未来を諦めろと言えるのか。」

    俺とお前が結婚するってのはそう言うことだ。カイザーはハッキリと世一に告げた。欲しいものを得る代わりの代償。それを今ハッキリと告げられている。未来を捨てられるか否か。…ああ、本当に。

    「………馬鹿馬鹿しいな」
    「……何だと?」
    「空港での子供の件か?それとも俺が電話を渋ってたからか?何がきっかけか知らねえけど、カイザー。」

    ズカズカとカイザーへの距離を縮める。夕陽は殆ど隠れてしまい、空には夕闇が押し寄せていた。至近距離まで近づき、彼のコートの襟元をグッと掴み引き寄せる。

    「あんまり俺を見くびんな、ンなもん全部捨てたってお前が欲しいから俺はここに来てる」
    「……」
    「ミヒャエル・カイザー、お前は俺と結婚すんだよ」

    世一が凄んだ後、襟元を掴んでいた手をパッと離す。少しの間だけだったが、皺になってしまっただろうか。頭の端で少し心配していると、ブハッと目の前のカイザーが吹き出した。

    「最っ高だ!潔世一!さすが俺が選んだ男だな。」
    「はぁ?」
    「まぁそこまで言わせておいたんだから、もう互いに腹を括るしかない、世一。」
    「何なんだよお前のテンション…」
    「今からお前のご両親を口説き落とすが、いいな?」

    ニィ、と不敵な笑みを浮かべる。空を闇が覆い、星々の光が薄く瞬く。カイザーの髪が月のように照らされている。世一はハハッと笑ってから一息、カイザーに視線を向けた。

    「最っ高だカイザー、全員骨抜きにしてみろよ」


    その後、妙にハイテンションになった2人は道途中で手土産の菓子類を追加して――元々ドイツからのお土産も中々の量があった――世一の自宅へと向かった。今回自宅へお招きと言われており、日本に降り立った当初カイザーはいきなり自宅でご挨拶というシチュエーションに今までの人生にないほど緊張してしまっていたが、世一のペースにのまれて、自宅に到着していた時には緊張していたことすらすっかり忘れてしまっていた。
    さて、驚くべき事はここからなのである。

    「はじめまして、ミヒャエルカイザーと申します。」
    「えっ」
    「本日はお忙しい中お時間をいただき…」
    「いやいや、は?え?」
    「………何だ世一」

    家についてからカイザーのこの挨拶、全て日本語なのである。世一は驚きの余りカイザーの挨拶を中断させてしまった。世一からすれば翻訳機に徹する心算だったのだ。なのに発音まで完璧なまでの日本語に驚きを隠せない。

    「カイザーさんじゃない世一!こんなにお綺麗なのね〜」
    「確かにテレビで見るよりも遥かに良い男だなぁ」
    「いえいえ、そんな。ありがとうございます」

    その上猫かぶっている。めちゃくちゃ紳士的だ。誰なんだこいつは。日本語を話す紳士的な態度のカイザー、なんてカイザーじゃない。紳士的で謙虚なカイザーに母さんと父さんがニコニコと嬉しそうな様子で、「お前猫被るなよ」なんて水を差すような事は言えず、世一は黙ってカイザーを家の中へと招き入れた。
    4人で食卓――やっぱり日本と言えばお寿司でしょ〜!と見たこともないほど豪華な寿司がテーブルに並んでいる――を囲みながら、ドイツでの話、サッカーの話、監獄内での話。偶に言葉に詰まることがあることもあるが殆どを日本語で話すカイザーに思わず尋ねる。

    「いつから勉強してたんだ?」
    「あ〜…ネオエゴイストリーグの時にチームに日本人が混ざるとなってあの、イヤホンあっただろ。アレがいつ無くなるかも分からないから勉強をしろってノアが」

    だとすると結構前から…成程。確かに空港であの親子に話しかけられた時、「いえ…」と日本語で返事を返していた事に気を取られていたが、日本語を聞き取れていたという事だったのだ。もしかしたら中々ハイレベルの語学力なのでは無いのだろうかこの男は。高額年俸のプロサッカー選手で、シーズンオフ中にモデル業も兼業したりする程の美貌の持ち主で、頭脳明晰。とんでも無い優良物件によくこんな奴落とせたな…と世一は自分に感動を覚えた。

    「…聞いてんのか?世一」

    ドイツ語でカイザーが小さく呟いて顔を覗き込んでくる。宝石の様な碧の瞳が目の前でキラキラと光る。「あ、ああ悪い。感動してた」と言葉を返すと怪訝な表情をされた。褒めてるんだからもっと嬉しそうな顔しろよ、と思ったがパッと目の前に座る両親の方へと視線を向けると、じっと真顔でこちらを見つめていた。
    あ、と思った。来る、とも思った。いや当たり前だ。今日はそのために来たのだから。

    「あの、世一。カイザーさんはその…世一とそういう…」
    「あ〜、そう。それなんだけど母さん…」
    「世一の大切なお母様、お父様」

    腹を括り説明しようと身を乗り出すと、テーブルの下でカイザーの手が制止するように世一の膝に置かれた。両親の顔つきも真面目なものになる。続けて芯の通ったカイザーの声がリビングに響いた。

    「お…僕は、世一とお付き合いをさせていただいております。ドイツで一緒に暮らしてもいます。」
    「一緒に?そうだったのかい?」

    そいつは初耳だったなぁ。と父さんがフワリと笑った。その父さんの行動にカイザーの肩の力が少し抜けた様に感じる。膝に置かれたカイザーの手に、世一は自分の手を重ねた。大丈夫だ、と言う気持ちが少しでも伝わればいいと微かに震える手を握り締める。

    「あら、そうだったの?いつから?」
    「えっ…と、5年…前から…」
    「あらもうそんなに!」
    「母さん!話が逸れちゃうから!」

    カイザーも笑ってはいたが、母さんたちのマイペースさに完全に困惑している。母さんは「ごめんなさいね」とカイザーの飲んでいたコップ――いつの間にかほぼ無くなっていた。さっきも水をおかわりしていた様な――に水を注ぐ。カイザーは「すみません」と少し慌てたあと、ふぅ。と一息つく。
    とうとう言うのか、と世一は思わず息を呑む。カイザーはなんて言うのだろうか。息子さんをください?言わなさそうだな。幸せにしますかな…と変な期待を胸に抱く。しかし少しの間があき、シンとした静寂がリビングを包んだ。あれ?思わず世一が首を傾げる。

    「……カイザー?どうした?」
    Oh Mannやっちまった………世一、悪いが翻訳しろ」
    「ハァ…?今から?」

    緊張し過ぎて台詞が飛んだのか。カイザーが苦笑しながらこちらへと顔を近づけて耳打ちしてきた。しょうがねぇなあ、と世一が少しだけ頬を緩める。男たるもの、好きな人に頼られることほど嬉しいものはない。世一もまた例外ではなかった。その一連の流れを側から見ていた世一の両親はクスクスと微笑み満足そうだ。

    「じゃあ、世一。」
    「どうぞ、ゆっくり頼むな。覚え切れんかも知れねえから」
    「……かれこれ5年、この前は盛大なすれ違いもあったわけだがこうしてお前と結婚できることになって実は馬鹿みたいに喜んでいる。…偶には正直になろうと思ってな。」
    「か……は?」

    カイザーがこちらを向いて、それも両親が理解できる日本語で言葉を紡ぎ始める。これは完全に両親への言葉ではなく、この世界でたった1人、世一へのメッセージだ。

    「俺たちの性格だからぶつかり合うことしか無いかも知れんが…それでもここまでやって来れたのは、互いの愛と世一、お前のお陰だってことちゃんと分かってる」
    「………」
    「病める時も健やかなる時も、とは言わない。だけどこの場を借りてミヒャエル・カイザーは約束する。」

    そしてカイザーはガタンと椅子から立ち上がり、右手を左胸に添えて両親へと向き直った。

    「ご両親、俺は潔世一と一緒に幸せになります。今日はそのご報告に参りました。」

    そして挨拶が遅くなりすみませんでした。とカイザーが深々と頭を下げた。ポカン、と世一も両親も開いた口が塞がらない。カイザーは顔を伏せたまま「oh gottしまった、少しキザ過ぎたか…?」と母国語で小さく溢した。世一がハッとして両親へ視線を向けるとその瞬間、2人が大きく拍手を始めた。パチパチパチとリビングで広がる拍手に次はカイザーと世一が目を丸くした。

    「素晴らしい!素晴らしいな!カイザーくん!」
    「母さん感動しちゃった〜!」

    まるで一つのショーを見終わったかの様な反応だ。母さんに至っては頬を赤く染めて「本当にカッコいいわねカイザーさん」とうっとりしている。カイザーはフハッと破顔して「ありがとうございます」とこの家に来てから1番の笑顔を見せた。その笑顔に対して母さんは「キャ〜!」とアイドルを見たかの様な黄色い悲鳴をあげている。父さんも言わずもがな「眩しい笑顔だなぁ」ととても嬉しそうだ。

    「待って何この茶番感…!」
    「茶番とは何だ世一、父さんはカイザーさん気に入っちゃったぞ」
    「お母さんも〜!ユニフォーム買っちゃおうかしら」

    和気あいあいと雰囲気が流れる。その様子に安堵して肩の力を抜くカイザーが目の端に映る。腕を引いて再度座る様に促すと、カイザーの大きく薄い手が世一の頭を柔く撫でた。フ、と愛しいものを見る様に微笑まれるそれに今度は世一が頬を赤く染め上げた。今のはズルい、だろ!顔をプイと逸らすとクスクスと笑うカイザーの声が聞こえる。ガタンと隣に座り直すカイザーに、両親に分からないようにドイツの言葉で耳打ちをする。

    「お前、変にパフォーマンスみたいにすんなよ。いや、やっても良いけど事前に言っとけ」
    「ハァ?事前に準備なんてしてるわけねえだろ。お前の旧友のbieneミツバチからマイペースなご両親だって聞いてたし、ペース乱されるとわかってて無駄な準備はしない」
    「蜂…?蜂楽か?てか何で知ってんだアイツ…」
    「U20戦の時に親が仲良くなったとか何とか言ってたぞ」

    お前のリサーチ力凄過ぎねえか…と変に怖くなる。母さんがほらほら!イチャイチャしてないでご飯食べて!と世一とカイザーに寿司を勧める。恋人と居る姿を両親に見られるのにくすぐったさを感じながら、世一は多幸感に胸が溢れていた。


    日本にいる予定はカイザーは2泊3日。世一は1週間ほど滞在する予定である。シーズンオフの割に短いのでは無いかと両親に残念がられたが、片道で12時間以上かかる上、カイザーは先述していた様にモデル業も行っているので早々に帰国しなければならない。そうなの〜残念。と母さんがとても寂しそうに肩を落とす。…息子が海外へ旅立つ時よりも反応が濃いのでは無いか?世一はムスッと唇を尖らせた。

    「取り敢えず今日は帰るよ。カイザーが帰ってからまた来るから。」
    「カイザーさんも世一もいつでも帰っておいで。」
    「………ありがとうございます」

    ふわりとカイザーが笑みを浮かべる。「本当にお人形さんみたいに綺麗な顔ねぇ」と母さんも隣でウンウンと頷く父さんもとても嬉しそうだ。コイツ母さんと父さんのツボが分かってやがる。拗ねている世一の横顔を眺めながらカイザーが口の端をあげて笑う。この場ではカイザー以外気が付いていなかったが、カイザーの見目は潔家にとってとても好みだったのだ。カイザーは世一と同じ趣味をしている世一の両親で良かったと心の底から安堵した。

    世一の実家を出て、しばらく歩いたのち、カイザーの歩みがピタリと止まった。隣を歩いていた世一が不思議に思い、カイザーの顔を覗き込むとカイザーはその場にしゃがみ込んだ。突然どうしたんだ、と声をかけるとくぐもった声が聞こえてきた。

    「クッソ………有り得ねぇほど緊張した……」

    最後、飄々とした態度をとっていたものの、ひどく緊張していた様だった。普段から想像できないカイザーの姿に思わず吹き出してしまう。

    「おいクソ世一、何笑ってやがる」
    「いやいや悪い、お前も人間だったな〜と思ってさ」
    「ったり前だろうが」

    カイザーはその美貌と基礎ステータスの高さからどこか人間味が感じられなくなる時がある。それが今回、いい意味で打ち崩された様な感覚がして世一は内心喜んでいた。カイザーは心底それが気に食わなそうだが。
    しゃがみこんで頭を突っ伏しているカイザーの目の前に同じ様に世一がしゃがみ込んだ。

    「てかお前、日本語完璧なら言えよ」
    「……結構前からかなり勉強してからな、惚れ直したか?」
    「……かなり」

    世一が唇を尖らせながら認めると、フ、とカイザーが力無く笑った。相当気力を使い果たした様な様子に全然フォローができなかったな、と自分の非力さを申し訳なく思う。両親との会話も結婚の報告も全て彼ひとりにさせてしまった。しかも全くの初対面相手に。しかも相手は自身の恋人の親となるとそりゃあもう、想像を絶する緊張感だろう。何もできなかった自分の無力さに少しだけ心が切なくなっていると、カイザーが眉間に皺を寄せて思い切り世一の額を指で弾いた。

    「ッだ!?何すんだ」
    「クソ世一、何勝手に自惚れてんのか知らねぇが、コッチに着いてからお前の実家まではお前無しじゃ何にも出来なかったんだ。それすらも分かってねえならパパとママの待つお家に1人で寂しく帰りやがれ。ホテルは俺が1人で使ってやる」

    カイザーが矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。彼は立ち上がってポカンとカイザーを見上げる世一を放って先に歩き始めてしまった。言葉は悪いが「お前のおかげで助かった。だから気にしなくていい」の意だ。カイザーとこう言う間柄になってから読解力が身についた気がする。呆けている場合では無い、と世一は立ち上がってカイザーの後を駆ける。

    「カイザー、ありがとな」
    「………」

    返事は返ってこない。それでも耳が少し赤く染まってる彼がとても恋しくて愛しくて。コイツで良かった。と世一は今日何度目か分からない思いを胸に抱いた。





    「おい凪!見ろ!」
    「んえ〜、いま忙しい」
    「忙しいってゲームだろ、ほらこれ!」

    床に寝転がりながらゲームを続ける凪の上にピョンと玲王が飛び乗った。「ぐえ」と凪が潰されたカエルの様な声を漏らす。玲王の片手には絵葉書が握られている。ドイツからの国際便で届いた様だ。ゲームから目を離してその絵葉書に目を向けると、玲王が嬉しそうにニッと笑って見せた。

    「ふえ〜やるねェ潔」
    「だな!今度サプライズでお祝いにでも行ってやろうぜ!」

    玲王の持つ絵葉書には「結婚しました」の文字と、極秘でたった2人だけで挙げられた結婚式での白いタキシード姿の世一とカイザーの笑顔の写真が輝いていた。



    fin
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    ニッカ

    DONEiski 潔カイ 
    お前たちすれ違ってくれ〜!と思いを込め過ぎた。nsが凄いいい奴です。kisとnsは本作では友愛の域。保管用で掲載します。
    君の言葉を聞かせておくれ「そろそろ結婚について考えているんだがどう思う?世一」
    「は?お前結婚すんの?マジ?誰と?」
    「は?」

    怒涛の如く過ぎたリーグ戦が終わり、外には粉雪がちらつく。シーズンオフとなり甘い余暇を過ごしていた最中、その事件は起きた。柔らかい雰囲気で包まれていたピロートークに突然ヒビが入った。
    ブルーロックプロジェクトが完遂され、彼――潔世一がドイツの名門クラブに所属することになり、クラブのエースストライカーであり、世一の唯一無二の好敵手――彼には他にも糸師凛だったり凪誠士郎だったりまァ沢山いるのだが――とも言えるカイザーとかれこれ約5年ほど切磋琢磨し技術を高め合ってきた。
    そして世一とカイザーはブルーロックプロジェクト直後から同棲を始めた間柄でもある。つまりは『恋人』と言うことで、つい先ほどまで互いの熱を分け合い身体を重ねていたというのに一体全体どう言うことなのだろうか。いや、自分達以外にここに『結婚する』該当者がいるとでも思ってるのか?カイザーは世一の言葉を脳内で一周させグルグルと考えを巡らせた後、もしかしたら――まるで友達の結婚報告を聞いたような表情をしているが――そういう焦らしなのかも知れない、と結論し、口を開く。が、一歩早いのが彼、潔世一だった。
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    君の言葉を聞かせておくれ「そろそろ結婚について考えているんだがどう思う?世一」
    「は?お前結婚すんの?マジ?誰と?」
    「は?」

    怒涛の如く過ぎたリーグ戦が終わり、外には粉雪がちらつく。シーズンオフとなり甘い余暇を過ごしていた最中、その事件は起きた。柔らかい雰囲気で包まれていたピロートークに突然ヒビが入った。
    ブルーロックプロジェクトが完遂され、彼――潔世一がドイツの名門クラブに所属することになり、クラブのエースストライカーであり、世一の唯一無二の好敵手――彼には他にも糸師凛だったり凪誠士郎だったりまァ沢山いるのだが――とも言えるカイザーとかれこれ約5年ほど切磋琢磨し技術を高め合ってきた。
    そして世一とカイザーはブルーロックプロジェクト直後から同棲を始めた間柄でもある。つまりは『恋人』と言うことで、つい先ほどまで互いの熱を分け合い身体を重ねていたというのに一体全体どう言うことなのだろうか。いや、自分達以外にここに『結婚する』該当者がいるとでも思ってるのか?カイザーは世一の言葉を脳内で一周させグルグルと考えを巡らせた後、もしかしたら――まるで友達の結婚報告を聞いたような表情をしているが――そういう焦らしなのかも知れない、と結論し、口を開く。が、一歩早いのが彼、潔世一だった。
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