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    sk_saniwa

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    sk_saniwa

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    いくにちょR、お疲れ様でした!
    イベントからもう一週間以上も過ぎてしまったので、ぽいぴくさんに、そっと投げます。
    お題発表会の「朝ご飯」をメインに、お泊まり会を匂わせ程度。
    年末に向けてのお話です。

    クリスマス、まだ来てないんだけどな(ΦωΦ)

    #くにちょぎ

     月が変わり、一年最後の師走がやって来た。
     月初めこそ、政府より、出陣奨励である催事があったが、それが落ち着いてしまえば、年末と年越しに向けての準備が、一気に加速する。
     所謂、大掃除である。
     厨や、各部屋の掃除、倉庫にある備品の手入れなど、皆がそれぞれ手分けをして、事に当たる。
     それは事務関係も同じこと。
     例年は部屋に缶詰で、屍累々たる有様ではあったが、事務仕事を担える松井の加入や、作業補助として、政府所属刀達が手伝ってくれることもあり、今年は多少残業しようとも、徹夜で缶詰になることは無かった。
     その分、例年なら手伝えない、他の買い出しや清掃、手伝いを頼んでいた、物品在庫の棚卸しなどに、手を回すことが出来た。
     慌ただしい中、充実の師走だった。
     ――くしゅん。
     そんな、ちいさな音を聞いた。
     「――山姥切?」
     「ああ、偽物君、か。」
     脱衣所に入った瞬間の事だった。
     既にそこには、夜着に着替えた長義が立っていたが、他には誰もおらず、そのくしゃみが、彼から漏れた物だと分かる。
     「写しは偽物では無い、が…大丈夫か?」
     歩み寄った国広は、そう言ってするりと頬に触れるが、良く温まってきたのだろう、湯上がりの肌は温かく、しっとりとしている。
     「大丈夫だよ、しっかり温まってきたところだからね。お前が扉を開けた拍子に、くしゃみが出ただけだよ。」
     「なら、良いんだが」
     そう言って、長義は緩く、国広の手を退けさせる。
     「お先に失礼するよ、今日は少し疲れた」
     「お休み、山姥切」
     するりと、自分の側をすり抜けていくその背を、少しの寂しさを感じながら、国広は見送った。
     この数日、大掃除が本格化してから、余り長義とゆっくり話せていない。
     元から、そんなに日がな一日一緒に居るわけでもないし、遠征によっては数日に渡って会えないこともあるのだが、その姿を見かけていながらも、その忙しさから、碌に言葉を交わせずに居るのは、少々こたえていた。
     自分は力仕事と、外回り。
     長義は、事務仕事と、屋内関係。
     得意とする物が違うのだから、仕方が無いと言えばそうなのだが。そろそろ、二振りだけの時間が欲しい、と思ってしまうのは、欲目なのだろうか。
     少し疲れた、そう言った横顔に、微かに疲れが滲んでいた事が気になったが。
     今、その背を追えば。
     きっと、ただ話すだけでは、満足できないだろうから。
     国広は、一つ溜息をついて、脱いだ服を脱衣籠に放り込み、何やら賑やかな喧噪が漏れ聞こえてくる、浴場へと向かった。





     その翌日、朝餉の席に、長義の姿が無かった。
     疲れの滲んだ横顔と、小さなくしゃみが脳裏を過ぎり、国広は、長義の部屋を訪れた。
     「山姥切、起きているか?」
     障子戸のところで声をかけるが、返事は返らない。
     「山姥切」
     もう一度呼んでみるが、反応は無い。
     疲れて、眠っているだけか?
     様子を伺うように耳を澄ませば、小さく、こん、と咳き込むような音。
     「…失礼する。」
     それに、一声掛けてから障子戸を開けると、部屋は暗いまま、布団で就寝している長義の姿がある。
     静かに歩み寄り、枕元に膝をついた国広は、ひたりと優しく、その額と、頬に触れる。
     「……山姥切、聞こえるか?」
     少しばかり、熱っぽい感じがして、国広は静かに呼びかける。
     「山姥切」
     「……ん……ぅ…っけほっ」
     小さく咳を漏らして、それにつられたように、長義が目を開く。
     「偽物…くん…あれ……今、何時?」
     「具合はどうだ?」
     「……少し…だるい…喉…痛い……」
     寝起きもあってのことか、返事の声が、何時ものそれより、かさついているのに加え、朝に弱いのは知っているが、何時にもまして、反応が鈍い。
     「わかった。薬研から薬を貰って、食事を持ってくる。もう少し、寝てても良いぞ。」
     それに長義が頷いたのを見届けて、国広は立ち上がると、長義の部屋から厨に向かい、事情を話して雑炊を準備して貰い、薬研から風邪薬を受け取る。
     大掃除の陣頭指揮を執っている長谷部に、今日は長義を休ませたい旨を伝えると、分かったと返事が返された。
     厨に戻ってくると、ふわりと出汁の香りが香る。
     「ああ、もう少しで出来るから、待っていてくれるかな。」
     戻って来た国広に気付いた歌仙が、そう声をかける。
     くつくつと煮立つ土鍋に、溶き卵をさっと回しかけ、熱の入り具合を見守っていた歌仙は、程良いと見極めたところで火を止めて、土鍋に蓋をすると、直ぐ側のテーブルに用意していたお盆に載せる。
     「出来たよ。」
     「済まない、助かる。」
     「もし、夕餉も雑炊か粥が良ければ、早めに教えてくれれば用意するよ」
     「ああ、有難う。」
     手にした盆には、出来たての雑炊が入った土鍋と、水とお茶が用意されており、それらを零さぬよう、国広は静かに運ぶ。
     「山姥切、開けるぞ。」
     「ああ、うん」
     やっと聞こえてきたその返事に、国広は少しほっとする。
     障子戸を開けて中に入れば、夜着から内番ジャージに着替えた長義が、そこにいた。
     「起きていて大丈夫なのか?」
     「軽い風邪だよ。重病じゃ無いし……寝坊してしまったけど、この程度なら…」
     「今日のあんたは休みだ、山姥切」
     「は?」
     「長谷部に休みを貰ってきた。勝手は重々承知だが、風邪は軽い内に治すに限る。軽いとあんたは言うが、今無理をすれば、拗らせるだけだ。」
     「拗らせなければ良いだけだ。それにお前、長谷部君に無理を言ったんじゃないのか。」
     「全体の進捗は順調だそうだ。快く、休ませてやれと言われた。」
     「…」
     それに、長義は、それ以上何も言えなくなり、不満げな顔だけが残る。
     「そんな顔をしないでくれ。喉も痛いのだろう?何時ものあんたの声と、少し違う。」
     持ってきた盆を卓袱台の上に置き、国広は言った。
     「兎に角、朝餉を食べよう。温まるぞ。」
     そう言って、土鍋の蓋を開ければ、立ち上った湯気と共に、雑炊の香りが広がった。
     「態々作って貰ったのか」
     「事情を話したら、作ってくれた。温かい内に食べてくれ。」
     ふわふわの溶き卵に、蟹の解した身が入っている。
     蟹雑炊のようだ。
     「…美味しそうだな」
     「そうだな」
     土鍋を覗き込んだ長義の言葉に、食欲はあるらしいと、安堵する。
     取り皿に、雑炊を盛り付けた国広は、そのまま長義の前に置こうとして、ふと、その動きを止める。
     「偽物君?」
     怪訝そうな声。
     ああ、その呼び名だって、聞くのは酷く久し振りな気がする。
     「どうかしたのかな」
     「……いや。」
     そのまま、国広は器を渡すことはせず、自分の手元で、雑炊を冷まし始める。
     その様子を、ああ冷ましてくれてるのかと、ぼんやり眺めていた長義は、そこでふと脳裏に過ぎった物に、まさかなと思う。
     が。
     うっすらと、湯気を纏う程度に冷まされた雑炊を盛ったレンゲが、ずいと差し出されて。
     「そら、あーん、だ。」  
     「…」
     「冷ましてあるから、大丈夫だぞ。」
     「そんなことは心配してない、自分で食べられる。」
     「あーん」
     「偽物君」
     「あーん」
     「…」
     「腹、空いてないのか?」
     「空いてるよ」
     「なら、口を開けろ」
     「だから、そのレンゲを寄越せと言ってるんだよ」
     「何故」
     「だから、一人で――」
     「冷め切ってしまうぞ?」
     この状況に、何の疑問も抱いていない、その様子。
     寧ろ、口を開けない長義の方がおかしいとでも言いたげだ。
     全く聞こえていないわけでもあるまいに。
     「山姥切?」
     口を開けない自分に、遂に困ったような顔をする国広に、長義は一つ溜息をついた。
     なるほど、わかった。
     これは、国広なりの甘えなのだろう。
     素直に甘えられないというか、甘え方を知らないというか。
     暫く、ゆっくり二人の時間を持てていなかっただけに、構い、構われたい気分なのだろう。
     こういうときの国広は頑固で、退くことを知らない。
     「え」
     レンゲを差し出すその手を、唐突に長義の手が掴むと、その手を引き寄せ、長義は身を乗り出すと、レンゲの雑炊を一口で収める。
     そのまま、雑炊を暫し噛んで飲み込んだ長義は、国広を見据えて言った。
     「…何て顔してる。」
     「え、あ」
     「その手から食べろと言ったのは、お前だろうに。」
     どこか、驚いたような、呆気にとられたような、顔でじっと見詰めるその顔を見返して、長義は言った。
     「次。」
     「次?」
     「気は済んだのか?なら、レンゲを寄越せ。お腹が空いてるんだよ、俺は。」
     「わ、わかった。待ってくれ!」
     次とは、引き続き食べさせろ、という意味だと理解した国広は、慌てて次の一掬いを装って差し出す。
     今度は、何か不満を口にすること無く、差し出されたレンゲから、雑炊を口に運ぶ。
     そしてそれを咀嚼して、飲み込むまでをじっと見遣りながら、国広は神妙な面持ちで、次の一口をレンゲによそう。
     そうして、取り皿一杯分を食べ終えたところで、長義は、国広の手からレンゲを絡め取った。
     「満足したかな。」
     「…少し。」
     「少し?俺にこれだけ譲歩させておきながら、贅沢だな、偽物君」
     少し呆れたような物言いで、長義はそう言いながら、取り分け皿に雑炊を取り分ける。
     ふわふわの卵と、優しい出汁の味が染みたご飯、そこに蟹の解した身と、蟹の味が合わさり、優しい味わいながら、少し贅沢な雑炊だった。
     風邪と聞いて、作ってくれた歌仙に、長義は少しばかり申し訳なくなる。
     理由は、この風邪の原因にある。
     昨日、大浴場の掃除を手伝っていたのだが、掃除に飽きてきた鯰尾の悪ふざけから、全身ずぶ濡れになり、掃除が終わる頃には、少し躰が冷えてくしゃみが出てきていたのだ。掃除上がりの一番風呂で、よくよく躰を温めたつもりだったが、見事に風邪を患うことになり、なんともばつの悪い気持ちだった。
     「…余り、好きな味では無かったか?」
     「まさか。贅沢な雑炊で、申し訳なくなってるよ。」
     「何故だ。」
     「こんな時期に、風邪など引いて…情けない。」
     「だがそれは、きちんと風呂掃除をしていたからだろう。」
     「…は?」
     「昨日、大浴場で会っただろう。あの後、鯰尾から聞いた」
     くしゃみしていたから少し心配だと、湯船に浸かった国広の側にやって来て、それとなく鯰尾が言ったのだ。
     「年末の風呂掃除は、結構大変だからな。途中でどうしても道が逸れ易いんだ。去年、俺が当番だったら時も、そうだったからな。そうしたら、今朝、朝餉にあんたの姿が無かったから、もしかしてと思ったんだ。そこまで酷くはなさそうだから、良かったが」
     ということは、去年も同じことになったが、そう言う覚えは無いから、国広は風邪を引かなかったと言うことか。
     つまらない違いに、面白くないものを感じた長義だが、鯰尾から、何があったかを国広が知っていたことに、はたと気付く。
     「お前まさか…長谷部君に」
     「言ってはいないから、安心しろ。ただ風邪気味だと言った。歌仙にもだ」
     「そう…」
     「それを食べて、薬を飲んで、温かくしていてくれ。風邪は、ひき始めが肝心だからな。」
     「…」
     国広の言うことは、至極もっともだ。
     もっともだが。
     長義にも、予定があったのだ。
     勿論それは、大掃除の一貫ではあったけれど、正直それを、少しばかり楽しみにしていた。
     暫く、二人で過ごす時間が少なかったと感じているのは、自分もそうだった。
     それとなく、予定を組めた。
     そう、思っていたのに。
     昨日、うっかり鯰尾の挑発に乗って、羽目を外した代償がこれか。
     因果応報とは、笑えない。
     きっと長谷部は、今日の自分の予定を、他の誰かに割り振るだろう。
     残っている何かで、同じような予定が組めるだろうか。いやもういっそ、さっさとありとあらゆる物を終わらせる方が早いか?
     「……どうしたんだ?」
     不意に、そんな声をかけられて、長義は国広を見遣る。
     「どう?」
     「さっきから、ずっと不満そうだ」
     そう言われて、長義は、口に運んだレンゲに、それと悟られないように歯を立てる。
     「…別に。」
     「今日、何かあったのか?」
     「ないよ」
     「ない、という顔では無いな。」
     全く、こんな時ばかり、察しが良い。
     素直になりきれず、内心で、への字に口元が歪む。
     「何か気掛かりなことがあるのか?」
     「…もういいから、お前は仕事に行きなよ」
     「あんたのことが気掛かりで、仕事にならない。」
     「それはお前の勝手だよ。食べ終えたら、薬も飲むし…」
     「その上で、何故あんたがそんな顔をするのかが、気掛かりなんだ。」
     「…」
     「俺では、役に立てないか?」
     「そんなことは言ってない」
     「それなら」
     食い下がってくる国広に、長義は溜息を一つ落とすと、その顔を暫し見遣って。
     「………今日、お前と仕事をする予定だったんだ。」
     「え?」
     「資材置き場の棚卸し。力仕事を手伝わせようと思ってたんだよ、お前に。」
     少しばかり、投げやりな言葉は、彼の不機嫌の素がそこにある事を示していた。
     「折角…………お前と二振りで仕事が出来ると………思ってたのに。」
     二振りの時間が足りないと。
     そう感じていたのは、自分だけでは無く、彼もまたそうなのだと分かって、国広は、ぐ、と胸が苦しくなる。
     その苦しさは、不快な物ではなく、込み上げてきた嬉しさが胸一杯に広がって、行き場を無くしても膨らんでいく、溢れる喜びだ。
     「それなら、長谷部に言う。明日、山姥切とやらせて欲しいと。」
     「作業の進捗を送らせるのは、本意じゃ無い」
     「でも」
     「余計なことをして、勘ぐられるのは嫌だ。」
     「…」
     「……片付けは自分でする、薬もちゃんと飲む、大人しくしてる。だから、もう行けよ」
     ここで、国広がこうしていることからも、余計な好奇を持たれたくないのだ。
     「…わかった。」
     そう言って、国広は立ち上がったのに、長義は内心、安堵の息を付くが。
     「一先ず持ち場に行く。何かあれば、呼んでくれ。」
     「はいはい」
     「それで、夜、泊まりに来る。」
     「…は?」
     その言葉に、長義は、国広を仰ぎ見る。
     「俺も、あんたと一緒の時間が欲しい。だから、夜…泊まりに来る。」
     「俺、病人なんだけど?」
     「だから、看病に来る」
     「病人だけど、そこまで重病ってわけじゃ…」
     「病人でも、重病で無くても良い。少し、あんたと話して、一緒に過ごす時間が欲しい。」
     「……」
     「…いいだろう?本科」
     何も、二人の時間は、掃除の合間で無くても良いし、機会が合わないなら、作れば良い。
     現に、長義はそうしようとしていたのだ。
     それなら今度は自分の番だと、甘えるように、許可を求める国広に、少し沈黙を落として。
     「……誰にも気付かれないように来られるなら、良いよ」
     そう言って、何でも無いことのように、雑炊を口に運んだ。
     「じゃあ、夕餉と風呂を済ませたら来る。」
     「好きにしなよ」
     「ああ、そうする。では、行ってくる!」
     そう言って、足早に出て行った国広の気配は、どこか弾んでいるようで。
     「……」
     静かになった部屋で一振り、長義はレンゲから手を離すと、もう押さえ込めないとばかりに、朱が昇った顔を両手で覆った。
     仕事を間に挟んで、共に時間を過ごすより。
     何でも無い、他愛のない話をしながら、共に過ごす時間の方が良いに決まっている。
     真っ直ぐに、素直に求められて、甘えられるのは、悪い気はしないし、同じ気持ちだと分かれば嬉しくなるし、自分の中に、少しくらい、甘えたい気持ちだってある。
     ただ、それを素直に見せるには、まだ自分には時間が必要で、もう少し、年上としての矜持を守っていたい、つまらない意地を張っているだけだ。
     喜ばせられた自分を、素直に見せるには、まだ気恥ずかしくて。
     「…」
     感情の高まりをやり過ごして、一つ息を付いた長義は、気を取り直して、残りの雑炊を平らげ、風邪薬を飲んだ。
     食べ終えた膳を手に厨に向かうと、長義はそのまま食器を洗い始める。
     「あれ、大丈夫なのかい?長義君」
     そんな声が掛かって長義が振り返ると、光忠が戻って来たところだった。
     「騒がせて、済みません。少し熱っぽいだけで、他は元気なので。」
     気遣われるほど酷くは無いのだと、少しばかりの申し訳なさを感じながらそう言うと、やって来た光忠が、長義の顔をまじまじと見やると。
     「もういいから、部屋に戻って休んでおいで。」
     「え?」
     「何だか、少し顔が紅いよ。熱が上がってきてないと良いけど。」
     「え、あ」
     「薬は?」
     「飲み、ました…」
     「そう。じゃあ後はやっておくから、ゆっくりお休み。」
     「はい…有り難う…ございます」
     素直に、濡れた手を拭いて、長義は礼を述べると、ぎこちない顔付きで、厨を後にした。
     数歩廊下を歩いて、そこから早足で自分の部屋に飛び込むと、長義は布団を被って丸まった。
     




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