悪夢 ある時、イサミはこんな夢を見た。
イサミはブレイバーンに乗って戦場にいた。
デスドライヴズと思われる『何か』と対峙していた。
その何かの手の平の上に――スミスが立っていた。
「スミス……おまえなんで……」
自分がそう問いかけると、そこにるスミスはゆっくりとこちらを見上げた。
その目は虚ろで、自分たちを映しているようには見えない。
「スミス!」
『ヨウヤク見ツケタ……私ノ大切ナ「ルイス」』
デスドライヴズがスミスを乗せた手を自分の胸元に持ち上げる。
ブレイバーンと同じように胸元が開き、スミスを促す。
『サア、私ト一緒ニ戦オウ。誰モガ羨ム最上ノ死ノタメニ』
「ああ、共に行こう」
「スミス待て! 行くな!」
このままでは彼はあのデスドライヴズと一緒に行ってしまう。
危機感を抱いたイサミは大声で彼を引き留めた。
スミスは乗り込む前に背を向けたまま別れの言葉を告げた。
「俺は彼と共に行く」
「スミス!」
乗り込む直前、スミスはブレイバーンに振り返った。
「止めたければ力尽くで止めろ。イサミ・アオ」
揺るぎない意志を秘めた――イサミが好きな――スミスの姿だった。
「スミスっ!」
「Good Bye(さよなら)、イサミ」
デスドライヴズの体内にスミスが収まると、それは緑色の光を放った。
『ソレデハ失礼スル』
あっという間に虚空へと姿を消してしまったのだった。
***
「スミス!」
「わあ! なんだ!?」
夢から覚めたイサミは、スミスの肩口で寝落ちていた現状を思い出した。スミスは耳元で突然大声を上げられて驚いたが、思ったよりもイサミが青い顔をしていたので、ひとまず声を掛けた。
「どうしたイサミ? 大丈夫かい?」
「あ、ああ……」
イサミはまだ動揺が収まらず、確認するようにスミスに触れる。頬、首、肩……。
「疲れているから少し休みたいから肩を貸せって言ったのはキミだろ? どうしたんだ? 怖い夢でも見たのか?」
「……怖いなんてもんじゃなかった……」
『Good Bye(さよなら)』
聞いたことないような冷たい声色で別れを告げられる夢だった。悪夢と言ってもいい。
イサミの動揺した様子を見て、スミスは安心させるようにイサミを抱きしめた。この方法が一番イサミには効果的だとスミスは知っている。
「もう大丈夫だイサミ、怖くない、怖くない」
「……ガキじゃねえっての」
それでもスミスの体温を感じて、イサミはようやく強張った身体がゆっくりほぐれていくのを感じた。スミスはイサミの頭を撫でながら、夢の内容を質問する。
「俺の名前を呼んでいたってことは、俺が出ていた夢なのか?」
「ああ」
「どんな内容だった?」
「……覚えてない」
あんな悪夢など話したくもない。こいつがデスドライヴズと一緒にどこかへ行ってしまったなどとは言いたくなかった。
(何であんな夢見たんだ――)
夢に理屈があるわけじゃないのに、ついイサミはそんな風に考えてしまう。
(こいつが俺から離れてデスドライヴズと共に行くだなんて、そんな未来、あるわけないじゃないか)
話したら恐らく一笑されるであろうことは想像に難くなかったが、何故だかイサミはスミスに話すことが出来なかった。スミスもイサミを追及することはせず、イサミが落ち着くまでずっと抱き締め、頭を撫でていたのだった。