決意 日本にあったタワーを破壊し、クピリダスを倒してから程なく。次の作戦向けての新しい体制について説明があるとのことで、イサミはヒビキ達と共に空母のブリーフィングルームへとやって来ていた。部屋の中でイサミは、監視対象の少女と共にいる金髪イケメンの姿を無意識に探す。姿が見えないということは、どうやらまだ来てはいないようだ。イサミはヒビキと共に真ん中あたりの席に座る。定刻前に、席の後ろの方に探していた金色と水色がやってきたのが視界の端に見えた。向こうもこちらに気づき、スミスが手を軽く振ってくる。イサミはそれを確認して、視線を前に戻した。
定刻となり、サタケの挨拶から指揮官ハルキングの説明が始まる。今回もブレイバーンは同席していない。
話としては、今後、イサミとブレイバーンで残りの6つの塔の殲滅を行っていくにあたって、その活動を支援する独立小隊を設立するという内容だった。それを聞いていたイサミは、話を聞きながらボンヤリ考えていた。
(独立小隊? そんなもの――)
恐らく昔の自分だったら、『必要ない』と切って捨てたことだろう。自分の力だけで出来ると疑っていなかった時だったら間違いなく。自分がやらなければならないと気負っていた時でも、そう思っていただろう。だけど今はそうじゃないことを知っている。いや、手痛い拳と共に身に叩き込まれたから分かっている。そして組織としてそのことをハッキリ示してくれたここにいる人たちに対して、ありがたく思う。
(小隊ということは隊長は1尉かそれ以上か……)
その小隊の任務が自分とブレイバーンの活動支援である以上、当然自分との接点も多くなる。自衛隊の組織として動くのであれば、サタケ2佐やリオウ3尉に頼ることもできるが、ハッキリ言って人付き合いが得意ではないイサミとしては、できれば面倒な奴が来ないことを祈るより他ない。
「その小隊には、ステイツのルイス・スミスを中尉に昇進させ、隊長として任についてもらう」
その人事が発表された時、一瞬部屋の中がどよめいた。スミスがブレイバーンからスペルビアとの戦いを任されたことや、その前のイサミとのやりとりもここにいる者は全員把握している。それらを鑑みて、その人選に異論を挟むものはいなかった。
まさかスミスを昇進させてまでその任に当たらせるとはイサミも想像していなくて、驚いてスミス達を振り返ると、こちらを見ていたスミスと目が合った。コクリと小さく頷くスミスに、イサミも頷き返す。
細かい作戦については後日説明するという言葉と共に、会は終わりとなった。各自それぞれ解散していくところで、スミスがルルと共にイサミとヒビキの元へやってきた。ヒビキがスミスに昇進祝いの言葉を送る。
「おめでとうスミス」
「ありがとう」
ルルもヒビキを真似てスミスを褒める。
「スミスえらい!」
「ありがとうルル」
ルルを撫でながら、スミスは笑顔で答えた。
「昇進おめでとう」
「ありがとうイサミ」
イサミからの言葉にもスミスは礼を述べたが、あまり嬉しいという気持ちが伝わってこない。
4人は食堂へ移動することにして、移動中、ルルとヒビキが何か話しているのを見ながら、イサミはスミスに問い掛けた。
「昇進が嬉しくないのか?」
イサミに指摘されたスミスは苦笑を浮かべた。さすがにあの場で他の人間がいるところではこんなことは言えない。
「小隊の隊長には大尉や中尉を当てるのが本来だから、それで昇進したようなもんだよ。必要に迫られて、というやつさ」
大した功績も上げていないのに昇進するのは、あまりいい気分じゃないとスミスは答えた。それについてはイサミはスミスと見解が異なる。
「それは違うだろ。あの時、スペルビアの迎撃をブレイバーンから突然任されて、おまえはちゃんとそれに応えた。倒すことは出来なくても相手を捕らえることが出来たんだ。立派な戦果だ」
「……そうかな」
スミスはまだ自分の挙げた功績について実感が湧いていないようだ。イサミはさらにスミスにあの時ブレイバーンが言っていたことを話した。
「あの時ブレイバーンが言ったんだ。おまえなら、仲間たちを統率し連携すれば必ず勝てるって」
「ブレイバーンがそんなことを?」
「ああ。アイツはいろいろ面倒臭い奴だが、嘘は言わない。おまえのことを信じて任せたんだって分かる」
「そうか……」
その言葉を噛み締め、スミスは小さく息を吐く。
なるほど、ブレイバーンには見えていたわけだ、自分がイサミのようなヒーローには決してなれないということが。どんなに好きでもどんなに望んでも、それだけは自分には決して与えられない資質なんということが理解できてしまい、思わず呟く。
「……好きと適性は違うってことなんだな」
それはあまりに小さい声で、イサミの耳には届かなかった。
「なんだ?」
「いや、なんでもない」
ヒーローであるイサミを支えることが自分にしかできないというのであれば、全力でそれに当たろう。彼らは間違いなく、この地球を救うヒーローだ。イサミが最後までブレイバーンと共に戦えるように、ずっとずっと自分が支えていこう。そのために出来ることなら、なんだってやれる。
一抹の寂しさと、使命感を胸に秘め、スミスはイサミの隣を歩くことを決意するのだった。