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    tetezatsu

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    tetezatsu

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    【海の中で死んでくれ】の余談。
    翼主蜂楽から見た二人の話。

    【海の中で死んでくれ】無配ペーパー【無配/鳥から見た人魚たち】
     蜂楽廻は斑類である。それはこの監獄にいる人間なら誰もが、いや一人以外は知っていた。その一人は猿人であったから、そもそも斑類という存在を知らないでいる。その一人以外は皆知っていた。蜂楽廻は斑類であるという事実を。
     それは正しい。紛れもない真実。しかし一つだけ、蜂楽は他の斑類を欺いていることがあった。
     彼の魂元である。周りは蜂楽のことを猫又だと認識していた。
     それは間違いだった。
     蜂楽廻の魂元。それは現代において絶滅したといわれる羽がある種族。翼主だった。
     翼主は居るだけで権力の象徴になる。狙われることが多々ある。だから蜂楽は母に言われてその魂元を隠すようになった。空を飛び回ることが好きだった彼は少しだけ窮屈な思いをしたけれど、母に仕方がないこと、ごめんね、と謝られれば受け入れるしかなかった。
     その後偶然知ることになるが、母は無理やり子供を産まされ翼主を生み。子供を、廻を連れて逃げ出したらしい。それを知ってからは一層隠す努力をした。母がした事を無駄にしてはならない、と。
     隠すことが得意であり日常であった蜂楽は、最初潔を見て違和感を覚えた。斑類だらけのこの場所でたった一人、猿人として居る男。異質で異様。場違いに見られてもおかしくなかった。実際周りの斑類たちは猿人である潔を見下したり馬鹿にしていた。
     けれど蜂楽の目には違うものが見えていた。あれは違う。ただの猿人ではない、と。
     何かが隠れていることは分かった。その中身は分からない。巧妙に隠されている。いや寧ろ違うな。あれは本心から猿人だと思っているからこそ隠れている。誰にも暴けやしない。自分がエンジンでないと認識したときに、ようやく開花する。
     面白いなと思った。それから蜂楽は潔から目を離せないでいた。興味があった。あの猿人の皮を被らされている潔がどんなものに開花するのか。蜂楽はそれを見たかった。

     潔が開花したのはトライアウトの最中だった。絵心に呼び出され潔は数日帰ってこなかった。帰ってきた潔は色々とあった、と詳しい事情を話はしなかったが蜂楽だけは気づいてしまった。
     開花している。どう見ても猿人ではない。潔はとうとう覆われ固いベールを破って斑類の世界に飛び込んだ。飛び込んでしまった。疲労しているように見えるのは情報量が多かったためだろう。それはそうだ。今まで猿人が知ることもなかった世界。それを一気に見せられたらパンクする。数日出てこなかったのは絵心の親切心か。……いや、それもあるがおそらく一番の要因は違うだろう。
     蜂楽は翼主という特別な魂を持つ斑類。隠すことが得意だった。裏を返せば、他人が隠しているのもまた分かってしまう。潔が開花させたものはそんじょそこらの斑の魂ではない。もっと、特別で。大きなもの。
     ――初めて見た。
     人魚。斑類の頂点に立つ魂。
     納得した。そりゃあ封じられる。そもそも日本に居たのかという。あれが幼い頃から世に出ていたらどうなっていたのだろう。恐らく潔はここに居ない。サッカーをしていない。させてもらえないまであった。権力に固執する頭の固い老人たちに飼い殺しされていた可能性だってあった。それかただただ子供を産まされる機械になるか。どちらにせよ、良い生活になるとは言えないだろう。
     蜂楽は感謝した。潔の魂を封じ込めると決断してくれた人間に。でなければこの場で潔と会うことは無かっただろう。そして同時に歓喜した。絶滅したといわれる翼主の自分と、存在自体が都市伝説と言われる人魚。同じような魂の持ち主に出会わせてくれた事に。
     戻ってきた潔が異質だと気付いたのは自分だけ。ほかの人間は何も思わない。だから蜂楽の対応はだった。明るく、何も。不安に感じさせないように。
    「お帰り潔。何かあったの?」
    「ただいま蜂楽。ううん、何もない。大丈夫」
     今は不安だろうから。今度はこっちが何も見なかったことにしてあげる。
     ようこそ斑類の世界へ。混沌と思惑に満ちた世界。どうか潔の行く末に、幸多からんことを。願っているよ。

     そこからU20戦を無事勝利を収め、ブルーロックでは新英雄対戦が始まる。潔とは棟が離れてしまったため直接見ることは叶わなかったが、噂で聞いた。少しだけ心配になる話。
     斑類にとって魂元の情報はゴシップだ。噂好きにはたまらない。特に珍しい、特殊な魂元であれば尚更だった。
     ドイツ棟には人魚がいる。
     この噂は耳にた後事実だということを知る。調べればすぐに出てきたから。ドイツの人魚、ミヒャエル・カイザー。
     潔は、大丈夫なのか。
     翼主である蜂楽は潔の魂元が分かってしまった。隠すことに慣れていたから。それと、特殊な魂を持っていたから。
     では同じ人魚なら。恐らく分かってしまう。潔の魂元が、人魚であることが。
     分からない。人魚同士が出会ってしまったらどうなるのか想像もつかない。そもそもが都市伝説のような存在だった。二人、なんて。こんなこと今まであったのだろうか。
     少しだけ不安になりながらも、今は目の前のサッカーに集中するしかなかった。ボールを蹴る心は案外素直だった。
     そんな蜂楽の悩みはすぐに晴らされる。スペインの初戦の相手はドイツだった。
     見てすぐに分かった。あぁ人魚だな、と。強くて圧のある魂。絶対的王者。それが二つ。ドイツには二人の人魚がいた。その二人の間に流れる空気は酷く歪だった。そして二人のやり取りを見て、すぐに納得した。
     とんでもないものに目を付けられちゃったね、潔。
     自分は手助けすることができないけれど、どうか。お前にとって良い未来になることを願っているよ。
     そう思うことしか出来なかった。
     
     この二人の人魚に関してはブルーロックTVでも放映されていた。傍から見たら猿人と人魚のロミオとジュリエットも真っ青な身分違い過ぎる恋。けれど実状は人魚と人魚という斑類が騒然とするとんでもカップル。それを知っているのは蜂楽と、推定絵心だけ。面白い。第三者から見ると本当に面白かった。あんなに人魚に執着される潔のことを気の毒だなと思いはすれど、潔だって人魚なのだ。抵抗しようと思えばできるだろう。
     だから蜂楽は二人のやり取りを一種のエンターテイメントの様に捉えていた。ただ本当に困っていたら助けてあげようとは思っていた。自分には翼がある。連れ去ろうと思ったらどこにだって連れて行ける。蜂楽は空が、潔は海が。それぞれ味方をしてくれる。だからどこにだって行けるだろう。
     そう思って見守った。棟が離れているけれど申請すれば行き来は可能。だから何かあったら俺が察して手を出そう、と。
     しかしある日事件が起きる。ブルーロック全体に満ちる人魚のとんでもない圧。フェロモン。
    「――ッ、あ」
     蜂楽は耐えた。バランスを崩しかけたが、膝をつくこと無く両足はしっかりと地に着いていた。だが周りの斑類たちは。見渡せば魂現を丸出しにしてしまうものや気絶をしてしまう者。蜂楽の様に辛うじて意識を保っている者。……何事もなかった、と言える人間は蜂楽以外居なかった。ふー、と息を吐いて唇を噛む。翼を出すことだけはどうにか耐えた。
     しかし今のはどう感じたって人魚。しかも一人の圧じゃない。ドイツと試合した際に少しだけカイザーの圧を感じたが、それと比較してとんでもない大きさであるのと、もう一つ混ざっている。
     考えられるのは潔しか居ない。あの二人に何かあったのか。これほどの圧を出すほどの何かが。
     ――斑類的に考えれば交尾、しかないけれど。
     無理矢理されていないだろうか。嫌がって居ないだろうか。まだ蜂楽の中では潔に斑類の汚い世界に触れて欲しくないという思いがあった。友人としてのエゴだ。あの男には綺麗な世界を見て居てほしいという願い。永遠には無理だろうけれど、この監獄を出るまではせめて。けれどあの皇帝が居る時点でムリゲーに近かった、のかもしれない。あの人魚はどう見ても潔に執着している。潔もそれを知って対抗しているけれど。……歴の違いか。
     行きたかった。潔が助けを求めているのなら助けてあげたかった。潔の人魚を知る唯一の友人として。けれど。この地に漂う人魚のフェロモンがそれを許しはしなかった。耐えたと言っても、しんどいのには変わりない。翼主ですら人魚の圧に逆らうことは出来ないのだから。

     また、圧だ。
     最近人魚のフェロモンを感じる事が増えた気がする。あのブルーロック全体がダウンした程のものよりかは劣るが。気付いているのは何人いるのだろう。それ程の弱いもの。けれど人魚のフェロモンであることに変わりはない。
     肌が少しだけピリピリとする。二つのフェロモンがぶつかり合っているようなそんな感じ。……何かに抗っているというか、争っているというか。そんな感じの物だ。本当に大丈夫なのか。自分は潔の元へ向かった方が良いのではないか。今すぐ申請を出したところで受理されるのは即ではない。少しのタイムラグがある。いや、そもそもこれはドイツ棟から来ているもの、なのか?
     漂いすぎて発生源すら分からなくなるなんてこと。そんな事が。……ある。あぁクソ。お前ら人魚ぶつかりすぎなんだよ。何やってんだよもう!
     文句を言ったところでそれを聞く相手は居ない。本人たちも居ない。取り敢えず行くしかないか。そう足を進めて辿り着いたそれぞれの棟が繋がる場所。ここからドイツ、イギリス、フランスと行く事ができるのだけれど。そこに足を踏み入れようとした時。
     ふわり、と漂った。
     今まで刺すようなものだったフェロモンが、変わった。そして察する。人一倍フェロモンに敏感だった蜂楽だったから、これだけですぐに分かった。
     ――ああ、終わったんだね。
     蜂楽は二人の人魚を思って微笑んだ。そして心の底から安堵した。そしてドイツ棟から出てくる二つの影。咄嗟に身を隠し、その影たちを観察した。思った通りの二人だった。様子を見れば試合を終えた後と言っても差し支えがないほど消耗している。
     ぶつかり合って、吐き出して。収まるところに収まった二人の人魚。その姿は誰から見てもお似合いだろう。そして、誰も逆らう事のできない最強カップルの誕生という事でもあり。
     ふふ、と蜂楽は笑った。
     お幸せに、そして周りの人たちにあんま迷惑掛けないでね。
     音に出さず、その背中に言葉を投げかけた。
     どうか君たちの海路に、幸在らんことを。――シュバシコウからの、祝福だ。
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