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    暖(はる)

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    暖(はる)

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    茶道部MくんとTさんの話のTさんバージョン
    前回の続き
    K坂さん(名前出てない)ねつ造。少しだけいじめのシーンがあり

    #長晋
    changjin

     どうしてこうなったと高杉は頭を抱えていた。
    「森君、生徒会に入らないか、いや入ってくれ!」
     藤丸とマシュが抜けた穴を埋めるため、森にアピールしたまでは良かったが、自分の対抗馬として生徒会長に立候補するとは思わなかった。
     選挙を遣ること自体は問題がない。クズの圧政に虐げられるよりも、優れた生徒が学園を運営していく方が良いに決まっていると高杉もそれは理解している。
     相手が誰であろうと、生徒がどちらを選ぼうと高杉がこの学園を好きでいるのは変わらない。
     どうしてだろう、学校なんて嫌いだったはずなのに好きになってしまったなんて、滅多に返事してこない友人にラインを送れば、普段既読しか付けない男が、鯉のスタンプを返してきた。

     *
    「引っ越し?」
     両親と高杉が折り合いを付けて選んだ志望校に合格し、早速とばかりに課題が送られてきた。
    「先生のところに行ってくる」と靴紐を結んでいる高杉に母親が申し訳なさそうに声をかけてくる。
    「転勤?」
     出掛けるのを止めた高杉と入れ違うように妹と父親が帰ってくると父親の口から、辞令で引っ越すこととなったと告げられる。
     警察で働いている父に辞令が来るのは何度かあったが、どれも県内だった。
     どうしてと高杉が尋ねれば、父親が国家公務員であることを教えられる。
     幼い妹に分かるように説明する父に、なぜ今なのだと高杉がうっかり漏らせば、
    父親が頭を下げる。
     夫の心情を察してか、妹には私がと手を引いて母親たちが部屋を離れると、父親が高杉に話す。
     理由は高杉だった。幼い頃病弱だった高杉に度重なる引っ越しは躰に触るだろうと、病がちな子どもを抱えて夫に付き添う妻を不憫に思った父親は夫婦二人の故郷で仕事が出来るように上と掛け合った。
     同期が出世していく中、小さな場所の署長や畑違いの部署に異動になっても家族のためにと父親が働いていたことを知り、高杉は自分の短い人生を恥じ入る。
     病弱故に教師からは幾らか特別扱いを受けてきた。主に持久走の欠席や体調が悪いときの欠席、教師の訪問など大人なれば些細な問題でも、学生時代、特に小学生の間では依怙贔屓だといじめが起きる。幸いなことに靴をなくしたり、暴力を振るわれたことはない。
     ただ長く学校を休み漸く登校が出来るようになり、席に着けばヒソヒソと陰口をたたかれる。それに向かって反抗するほど高杉は子どもではなかった。
     やり返すこともなく、勉強なら家ですれば良いと学校に行くのをやめると両親は心配していた。
     そのことに関しては十分に反省はした。遅れないようにと、両親は家の近くで塾を経営している吉田に家庭教師を依頼した。会った初日で親にも殴られたことのない高杉にげんこつを落とし、分からされた高杉は、それでも休みがちではあったが学校に通うようになり、遅くではあるが友人も出来、充実した日々を過ごしていた。
     その生活が父の犠牲の下にあったとは知らずに、高杉は項垂れる。
     両親が薦める学校に行きたくないと駄々を捏ね、口答えもした。
     妹は未だ幼いから連れて行くが、高杉は受験を終えた身だ。引っ越し先の入試も終えているだろう、どこか親戚のところにでも厄介になるのかと家族との別れに視界が潤んでいくが、そんな高杉に父親は「そんな訳で編入手続き済ませたから」とさらりと口にする。
     息子を弄んだなと叫びたくなったが、当分この父親に逆らうのは止めようと高杉は少しだけ早い親孝行だと諦めた。

     出来るだけ真面目に高校生活は送ろうと高杉は入学式に向かえば、ピローンとスマホの通知音が鳴る。
    「馬鹿にするな!」
     通行人が驚くのも気にせずに高杉はスマホを握りしめる。
    数日前に制服姿を送った友人から制服姿を送り返してきたが、大きめサイズを買って賢いなと褒めた後、校則で規定サイズしか着用を認められていない友人はすでにキツいと送ってきた。
    自分も同じように大きくなって制服がキツいと送り返したいがすぐに伸びるものではない。どうせ見ていないのだと高杉は妙案を思いつく。
     ぴょんぴょんと跳びながら高杉は桜を撮っていく。目線はここでと送れば少しは信じて貰えるだろうとボタンを押すがブレずに撮るのはなかなか難しい。
    「撮ってやろうか、」
     高杉が息を弾ませていると、声をかけられた。
     それが森だった。
     一生の不覚、新入生の証である花もなければ、上着を着ていない彼を式前に寛いでいる保護者だと思い、そのように接してしまったと高杉は後悔している。
    「ありがとうございます……でも、これは自分で撮らないと意味が無いから、」
     巨躯の森に頼めば一発だろうが、まさか数日でここまで仕上がる設定は無理がある。
     えいっともう一度ボタンを押せば、どうにか綺麗に撮れた。
     だが撮れてしまえば空しいだけだ、返事はいつくるだろうか、高杉の妙案に気づいて送らない可能性もある。
     ぐるぐると高杉が思考混ぜているのを、森が儚げな美少年だったと眺めていたことを高杉は未だ知らない。

     *
     どうせ楽しむなら自分から飛び込めと、そのためにはゴミを片付けねばと成り行きで森と清掃活動を行い、根城を二つ確保した高杉は、それなりに楽しい学校生活を送っていた。
     それを打ち壊そうとしているのは森だ。生徒会に入るのは大いに結構、戦うつもりでいるが、どうして彼が素直に入ろうとしたのかが気になる。
     魚の骨が喉に刺さったかのように些細なことだが、高杉の頭の中で森が占める割合が増えていく。
     藤丸が渡してくれた写真をスキャナーし、加工ソフトでそれらしいポスターを作成していく。
     彼はちゃんと出来ただろうか、いやこれ以上は塩を送れないと高杉は考え直す。
     これでいいだろうと、演説会に飾る垂れ幕を拡げる森に高杉は驚いた。
     校長室に飾られている校風より達筆な字で描かれたのは森と高杉の名前。
     印刷物でないと分かるのは、仄かに香る墨汁の匂いとどこかに森の癖があったからだ。
    「僕の分も?」
    「いるだろう、」
     当然とばかりに口にする。それじゃと手を振る森に、刑部先生と森に告げる
    「書道が出来ても君、パソコンは出来るのかい。刑部先生がこういった物を作るのが得意と聞いているから、尋ねてみると良い、」
     選択科目で確か取っていないはずだと高杉は思い出した。
     情報の教師よりもなぜか一部ではスキルがあるという情報が上がっている。
     生徒会の冊子を作る際に懇切丁寧に教えてくれたのを思い出し、森に勧める。
    「しかし、君と僕のポスターが並ぶのか、面白そうだ。ねぇ、いっそ、おそろいにしてみるかい」
    「……お前、分かっているのか」
    「えっ、」
    「分かっていないならいい、じゃあな、」
     森がため息をつきながら、がらりと扉が閉められる。 おそろいというのが気に入らなかったのだろうか。
     後日、森手製のポスターが貼られたが、無難なデザインのはずなのに、元女子校らしくクラス名が花名であったこと、本人の顔立ちと公約の字体からヤクザポスターと高杉が息を切らして笑っていたが、高杉もどこか生徒会選挙には似つかわしくないビジュアルポスターを制作したので似たもの同士である。
     *
    「あの時は、白熱した選挙だったね、」
     応援演説に友人を呼ぼうと電話をかれば塾の授業が終わった直後だったのだろうか、吉田に代わった直後、電話口で散々に説教を聞かされた高杉と、
    儂も会長だったぞと森にハブをかけようとした信長が馬に蹴られたくないしと、あえて見守るスタイルを取ったお陰で本人たちだけの実力で、ハプニングなく選挙は終わった。
     森が書類をまとめながら頷く。結果はどうであれ、二人で生徒会をまとめて欲しいという生徒が多かったため、高杉も森も生徒会にいる。
    「ささっと、部室に行くぞ、」
    「あっ待ってよ、」
     高杉は椅子を片付けると森のひょこりと森の隣に立つ。
     いまだに、友人が送ってきた鯉のスタンプも選挙が終わっても高杉の中で森が占める割合は変わらない。
     あと少しなにかほんの少し切掛があれば、何かが変わるかもしれない。
    「告白イベントに参加するって本気かい、もし生徒会としての義務なんて思っていたら参加しなくて良いよ、」
    秋口にある文化祭で何かビッグイベントをと告白イベント提案したのは高杉だ。
     告白と言っても、付き合ってください、なものではなく、実はという内容だ、勿論恋愛面でも構わないと議会に出せば、森が面白そうだと呟いた。
    「そろそろ待つのもしんどいからな、」
    「何が?」
     高杉は、上目遣いで森を眺める。一年で十センチ伸びたのだから、まだまだ成長途中のはずだ。
     この告白大会が切掛となったかはまた別のお話

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