どっかの魔界の魔王城-その2-無数にある世界の一つ。この世界にも魔界がある。
広大な魔界には、魔王城しかない。
あとは、荒涼とした地に無数の魔物がうろついているだけである。
「今日はこの辺にしておこう」
魔王は栞を挟み、読んでいた本を閉じた。
城の図書館はお気に入りの場所だ。
彼が魔王になってから大幅に空間を拡張し、本が爆発的に増えた。
手元の端末が鳴り、魔王の眼前に画面が出現する。
いつもニコニコ管理人だ。その後ろには書類の山がある。
「じゃあ魔王君、後は宜しく」
管理人が実質的に城を管理しているが、書類には城主つまり魔王のサインが必要だ。当然、目も通す必要がある。
サインは自動の魔法だが、読まずに理解出来る魔法など存在しない。
〆切は、時間が流れない空間に缶詰で不本意ながらどうとでもなるが、労力そのものは消えない。転生してもなお、書類仕事だ。
「魔王使いが荒いなあ」
せめて山になる前に持って来て欲しいと、魔王は溜息をついた。
魔王城は「魔王」という肩書きの存在がいる条件で稼働する。
いつだったかそれは「魔王か管理人のいずれか」という条件に変更された。
管理人はニコニコ笑顔で、もしもの時の保険だよと話していた。
紅茶を淹れ、一息つく。
魔王は管理人の言葉を思い返していた。彼はこうも言っていた。
「城の点検は飽きないけど、外でお偉方と話すのは面倒で退屈なんだ」