あるのんかふぇ異能力松 第二次成長期をむかえると身体が大きくなると共にその者に秘められた能力も開花する。
個人によってその成長スピードも能力も異なるが、この世界では全ての者が須く能力を開花させていく。
現在、認められている能力は…。
ぱたん、と本を閉じ窓の外を眺める。
青く澄んだ空に浮かぶ真っ白い雲がまるで取り残されたぼくみたいだな、と思えて自然と涙がこぼれそうになる。
耳をすませなくても聞こえてくる喧騒の中には、己の能力を自慢する声や他者の能力について好き勝手な事を申す声も混じっている。
目からこぼれそうな涙を少し余らせた袖で拭い、本を片手に席をたつ。ぎぎぎっと椅子からたつ低い音がまるでぼくの心が軋んでいる音に聞こえた。
周りから少し遅れて第二次成長期、俗に言う思春期をむかえたぼくたち兄弟も高校生になってしばらくしてから一人ずつ開花していった。
一番最初におそ松兄ちゃんがくしゃみと同時に火柱を出現させ、たまたま近くに建っていた家(イヤミの家)が全焼したことを皮切りに、ぼく以外の兄ちゃんは皆能力を順番に開花させていった。
ちなみに、能力開花時はコントロールが出来なくていろいろと周りに迷惑をかけてしまうことが度々あるので、開花保険というものがあり、おそ松兄ちゃんの全焼事件はそれで対応したらしい。
最初はいろいろとコントロールするのに困惑していた兄ちゃんたちも一年たつ頃にはほぼ完璧にコントロールできるようになり、能力を生かしてバイトする兄ちゃんもいた。
ただ、チョロ松兄ちゃんはたまに風のコントロールを失敗していたのか、そよ風を起こしてはよく鼻血を出していた。時々居合わせるおそ松兄ちゃんはチョロ松兄ちゃんを羨ましそうに見てたけど何でなんだろう。
一松兄ちゃんも十四松兄ちゃんも母さんのお手伝いしたり、家計を助けたりしてるし、なによりカラ松兄ちゃんも水を操る能力でいろいろ活躍してるみたいだし。
はぁ、と小さくため息をつく。
ぼくだけ、ぼく一人だけ体が小さくて、ぼく一人だけ能力が開花してない。
六つ子なのにぼくだけ…。
ふと、足を止め周りを見渡す。
一番最初に目に入ったのは井上という表札。
いつも兄ちゃんたちと歩く通学路を必死に思い出すが、井上さんというお宅はなかったはず。
もう一度周りに視線を巡らせると見たことのない家ばかりで自分が迷子になったことに気がつく。
おそ松兄ちゃんとチョロ松兄ちゃんは補習で帰りが遅く、一松兄ちゃんは友達と帰って、十四松兄ちゃんはバイクでお出かけ。カラ松兄ちゃんと帰る予定だったけど、クラスの女子に話しかけられてどこかに行ってしまった。
しばらく図書室で宿題したり本読んだりしていたけど、なかなか来ないから一人で帰ることにした。してしまった。
徐々に涙があふれ、こぼれおちる。
「ここどこぉ…」
少しでも知っている場所がないかとキョロキョロしながら進むが景色は相も変わらず知らない場所でますます涙がとまらなくなる。
「うぅ…兄ちゃん…」
あふれる涙を袖で拭いながら歩を進めるが、少し進んだところでしゃがみこみうずくまる。
(カラ松兄ちゃん、こわいよぅ…。おむかえきてくれるかなあ
…。でもカラ松兄ちゃんには、なにも言わないで勝手に帰ってきちゃったから怒ってるかもしれない。)
悪い方向へと進み続ける思考についに涙がとまらなくなる。
カラ松兄ちゃん…と震える声で呼ぶと、すっと影がさした。
もしかして兄ちゃん!と思いがばちょっと顔をあげると、太っちょでメガネを曇らせるくらい汗をかいた息の荒いおじさんがこちらを見下ろしていた。
いきなりの知らない人の出現に固まっていると、おじさんはよく分からない笑い声をあげながら大丈夫?と手を伸ばしてきた。
常日頃から知らない人とは関わらないように、と言われ続けているぼくは、どうしたらいいのかわからなくて口のなかでカラ松兄ちゃんの名前を小さく呼んだ。
その瞬間、ぼくの名前を呼ぶ声と共にぼくとおじさんの間に水の幕がはられ、次いでカラ松兄ちゃんがぼくをかばうように抱きしめた。
いきなりのことにぼくはぽかん、となってしまい、おじさんとカラ松兄ちゃんを交互にみる。
カラ松兄ちゃんは普段の優しい顔とは異なり、厳しい表情でおじさんを睨み付けている。
睨み付けられたおじさんは、突然の出来事にぼく同様ぽかん、としたあと両手をあたふたと動かし、「落ち着いてっ」「誤解だよぉっ」とカラ松兄ちゃんをなだめている。
おじさんが慌てる度にどこからともなくキャンディがふってくる珍事態に警戒しつつ、カラ松兄ちゃんはどういうことですか、と聞いたことのない低い声で問いかける。
「怪しいものじゃないよ…。非番だから今はもってないけど、僕はこの先の交番に勤めてるお巡りなんだよ」
助けてって声が聞こえたから様子を見に来ただけなんだよぅと少し泣きそうになりながらキャンディをふらせ続けるその姿に、ぼくはそういえばと思い出す。
前に十四松兄ちゃんとお散歩してるときにはぐれてしまったときにお世話になった交番で涙もろい太っちょのお巡りさんがキャンディをいっぱいふらせていたことを。その時はメガネをしていなかったから気がつかなかったけど、見覚えのあるその人に今にも攻撃しそうなカラ松兄ちゃんの腕をひき「この人はお巡りさんで間違いないよ!」と叫ぶ。
そうなのか、という視線にこくりと頷く。
戦闘モードが解除されたことにおじさんがほっとすると、キャンディもふりやんだ。
誤解とはいえ、敵意を向けてしまったことをおじさんにカラ松兄ちゃんが謝ると気にしないでの言葉と共に大量のキャンディをもらった。
おじさんの能力は緊急時に飴を降らせると言うものらしく、事ある毎に飴を出してしまうらしい。
ぼくが泣いていた近くに住んでいるらしく、家で趣味の切り絵をしてる最中にぼくのたすけてという声が聞こえてきて、気になって探し回ってくれたため汗だくだったそうだ。
何で家にいたお巡りさんに声が?と悩んでいると、カラ松兄ちゃんもぼくの声を聞いたといい、ぼくは首をかしげた。
再度お礼をいいお巡りさんとわかれたあと、迷子にならないように手を繋ぎながら帰路を進む最中、どうやってぼくの位置がわかったのか兄ちゃんに聞く。
曰く、カラ松兄ちゃんはぼくがいないので急いで家に帰ったがおらず、また学校までもどりぼくが迷いそうな辺りを探していたらぼくの兄ちゃんを呼ぶ声が聞こえてきたのでその声の方へ駆けつけた、ということだった。
ヒーローみたい、と兄ちゃんの腕に抱きつきつつ言うと、兄ちゃんはほっぺを紅くしてふにゃりと笑う。
「カラ松兄ちゃんだぁい好き」
後日、ぼくの音を操る能力が開花していることがわかり、この時無意識に能力を使っていたこともわかった。
この後、能力暴走で兄ちゃんたちを巻き込んでちょっとした事件が起こったけど、これはまた次回。
ゆれるカーテン、窓辺でぼんやりと外を眺める青にむけて口を動かす。
ビックリしすぎて窓から青が転落するまてあと…。