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    sabasavasabasav

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    主坊+クレオ、三都100の無配でした。

    #主坊
    mainPlace
    #腐向け
    Rot

        ▽        ▽

     僕には、数歳差の先輩がいる。名を、ティア・マクドールという。
     琥珀のような色の瞳に、鴉のように黒い色の髪を持っている。ふとしたときの眼差しが似ていると知り合いから言われたことがあるけれど、己の顔と彼の顔を見比べる機会なんて皆無で、その実感はない。それに、顔立ちはそこまで似ていないし、性格に至ってはほぼ真逆と言えるほどに別物だった。
     頭脳明晰、武勇に優れた旧赤月帝国五将軍の嫡男。天賦の才がありながら、その実努力家でもある。その上、それを一切ひけらかさない。
     見た目だけなら、巷で言うところの「かわいい少年」に見えるかもしれない。けれど、かけ離れた性格と大人顔負けの怜悧さに、同盟軍でも一線を引くように一目置かれていたことを覚えている。
     彼は本拠地へと来ると決まって図書館で真の紋章に関する本を読んでいた。憧れのトランの英雄が繁々とそれを読み込んでいれば、僕が自然と興味を持つのも時間の問題だっただろう。飲食を共にしながら彼と様々な話をするのも楽しかったけれど、静かな空間で文字を読み、時折目の前の本に集中している彼の姿を盗み見するのもまた有意義な時間だった。自然と、彼と二人きりでいる機会が増えた。
     そうして近くにいれば、彼の才能を否応なしに見せつけられることになる。無尽蔵かと思えるほどの知識欲を、彼は持っていた。一度それを問うてみれば、真の紋章について知るのは、義務のようなものだと言われた。
     軍主としての対抗心と、置いて行かれるのではないかという一抹の寂しさから、僕はその背を追いかけるため戦術や戦略、軍主として必要な知識を必死に叩き込んだ。
     そう、僕はより良いリーダーとなるべく歩みを進めながらも、その行動理由は公にできそうにもない不純さに溢れていた。それは彼ですら気付いていなかっただろう。既に手でペンを持ち文字を書くのと同様の感覚になってしまった今は尚更、気付かれることはない。
     それを身をもって知ることになったのは、皮肉にもロックアックスで姉が死傷を受け、幼馴染みから「紋章の片割れを譲り受けた」後のことだった。
     いくら境遇が似ているとはいえ、相手国の王となってしまった幼馴染みと再会する場に付き添おうとするものだろうか。
     紋章玉に戻ってしまった黒き刃の紋章を宝石のように指で掬い、陽の光に当ててみる。綺麗な紅色をしていた。
     だいぶ視点が高くなってしまった僕を見上げて笑う彼の琥珀色の瞳が、体に熱くどろどろとした何かを蠢かせた。
     そうして、途方もない、雲を掴む思いで続けていた国王の責務中に、唐突に自覚してしまった。
     マクドールさんが好きだ。尊敬、友愛、勿論それもあるけれど、それだけじゃない。本来異性に向ける恋愛の感情を多分に内包して、彼を好いてしまった。
     彼と肩を並べて歩みたいからと必死に追いかけていたあの頃────異変が起きている都市を探索し、ハイ・ヨーの手料理をお腹いっぱいに食べ、夜更けに本に書かれていた作戦に関して意見を言い合っていた日には既に、形にはならずともその感情の片鱗は芽生えていたのかもしれないけれど。
     彼に向けているこの感情に気が付いてしまえば、それを抑制するのが更に難しくなった。
     リーダーであった頃、彼は僕が望めば常に傍にいた。図書館で戦術書を探すときも、目的地までの一本道を歩いているときも、視界には彼のバンダナが揺れていた。「リアン」と呼ばれれば「なんですか」ではなく「好きです」なんて口走ってしまいそうになることもあった。それでもまだ、軍主だった頃はまだ何とかなっていた。この立場で告白するのは卑怯だ、彼が抱く僕に対する同情を利用するな、彼を困らせるだけだと言い聞かせることができたからだ。
     ────しかし、今は。
     壮絶な戦いの末、ジョウイの命を代価に宿している真の紋章の片割れを得、既に不老となっていた彼と同じ時間を歩む手段を手に入れた。
     彼は時折この国へとやって来て顔を見せては、風のように呆気なく去って行く。彼の腕を取ろうと伸ばした手を、幾度引っ込めたことだろう。
     言いたい、言ってしまいたい。伝えてしまって、楽になりたい。彼を困らせたいわけじゃないけれど、このままずっと一人で抱えられるほどこの感情も小さくなくて、一冊の日記帳に思いの丈を書き綴った。抱いた感情、彼の行動、彼が喜んで食べたもの。日記と呼ぶにはだいぶ粗末な出来だったけれど、これで全てが落ち着く。全てを吐き出したい欲は未だにあるものの、以前と比べるとだいぶ鳴りを潜めた。
     それを近くにあった書籍で挟み込むと、本棚の隅に仕舞い込んだ。肩の荷が下りたついでに、こんがらがった思考と恋心を全て外に追いやったのだ。
    「リアンのために手ずから用意したんだ」
     だと、いうのに。
    「…………あの」
    「座って」
     マクドールさんが笑みを浮かべて椅子を引いた。
     いや、大事な情報が欠けている。「人の悪い」笑みを浮かべて、だ。
    「心を掴むのは胃袋から、という説もあながち外れてないのかもね」
    「マクドールさん」
     安心しきっていた。それくらい、あのときの僕には本当に余裕がなかった。
     テーブルの上を彩る数々の料理を見れば見るほど血の気が引いていく。それは確かに、マクドールさんが舌鼓を打っていたもので。
     それを面白がっているのか、僕の真正面に腰掛けたマクドールさんは、まるでウェイターのように料理に手を差し伸べると、「冷めないうちに召し上がれ」なんて、信じられない台詞を口にした。
     以前のようにこちらから出向いて会うことはできなくても、僕のことを弟のように気にかけている彼がこの国へ来ることもあるだろう。そして、真の紋章の情報を求めるあまりに半ば活字中毒とも呼べる彼が図書館の奥の奥に隠していた、僕の筆跡で書かれた「日記」を本棚で見付けるなんてことも────そんな、簡単に予測できる事態を、想定していなかったなんて。



       ▽



     もう寝ようか、と思うくらいの夜更けに突然玄関のドアが叩かれた。それにも驚いたというのに、ドア越しに聞こえてきた声に目を丸くした。五年ぶりくらいに聞いた声の持ち主はこの屋敷の本来の主であり、弟とも呼べるような存在だった。
     時折一方的に手紙を送ってくることはあったけれど、ここに帰ってくることは片手の数あったかも分からない。彼が持つ紋章の効果を思うと寄り付かなくなる理由も簡単に理解できたから、帰ってくるよう無理強いも出来なかった。
     そんな彼がこんな深夜に来訪した。珍しいこともあるものだ。今は夏だけど、明日は雪でも降るのかしら。
     おかげで挨拶もなく、久しぶり、元気にしてた、なんて言葉もなく顔を合わせた途端に「クレオ以外に人、いる?」と尋ねられたことにも呆れるタイミングを失ってしまった。
    「もう。一体何時だと思ってるんですか。私以外にいません。仮にいたとしても、もう寝てますよ」
    「クレオに話したいことがある」
     ああ、他の誰かには秘密にしたいことでもあるのか。声を潜めて話す坊ちゃんが面白くなってくる。そんなことしなくてもこの屋敷に住んでいるのは私一人で、会話なんて聞かれるはずがないのに。
     こうして笑いが出てしまうのは、その内容が深刻なものじゃないと分かっているからだ。
     堪えてたつもりなのに、坊ちゃんが不機嫌な声で「笑ってる」と言った。相変わらず、声は潜めたまま。
    「それで、話ってなんですか?」
    「う……うん」
    「……………」
    「…………………………」
    「黙ってないで、白状してください」
    「う……あー、あの! その、僕は別に、ぜんぜん、平気なんだけど! ぼ、僕が言いたいのは」
    「待ってください、坊ちゃん。立ち話もなんですから、奥で紅茶でもいれますよ」
     とてもじゃないが会話とは思えない支離滅裂な言葉を遮った。
     普段は良い意味で竹を割ったような性格の彼が、こんなに声を詰まらせる内容。おおよそどんな話題なのか察しは付いた。
     それと、この会話は長丁場になりそうだと思った。坊ちゃんを椅子へと座らせてから、あたたかい紅茶を差し出す。これがすっかり冷め切ってしまう前に、話が終わるといいけれど。
    「お待たせしました。話の続きをしましょう」
    「う…………」
     また、声を詰まらせる少年を見ながら、熱い紅茶に口を付けた。
     実のところ、こうやって坊ちゃんの言葉を待つ時間は嫌いじゃない。他の人には言いにくい内容を頑張って伝えようとしてくれる程度には、信頼されてるんだと思えるからだ。
     坊ちゃんは私が心配してしまうことは、たとえ今現在起きている問題でも絶対に口にしない。だから、きっと話そうとしていることは私にはあまり関係のない話なんだろう。でも、態々遠く離れていた従者に頼ってしまうくらいには、切羽詰まっている。
     こんな状態になる前に言ってくれたらいいのにと思うけど、言わないで後々知るよりは、今ここで吐き出してもらったようがずっといい。
    「…………リアンが」
     戸棚にある焼き菓子も持ってくれば良かったか、なんて考えていたところに、ようやく決心が付いたのか、坊ちゃんがぽつりと彼の名を口にした。同盟軍のリーダーだった、あの子。
    「リアン君に告白でもされました?」
     ガシャン、と乱暴に落とされた食器が立てた劈く音が響いて、反射的に耳を塞いでしまった。
     どうせこのまま黙って待ってたら、あーだのうーだの聞きながら夜明けを迎えてしまいそうだし、少し急かすくらいがちょうどいい。
     彼が果たして坊ちゃんを好いているのか? そんなこと、問われるまでもない。
    「く、クレオ! なっなに言って」
    「違うんですか?」
    「違……くもないけど、正解でもない」
    「じゃあ何があったんですか」
    「………………………………………………」
    「では熟考していてください。私は就寝させていただきます」
    「待って! 分かった! 言うから!」



     ハイランドと都市同盟で行われていた戦争が終焉を迎え、リアン君が新たな国の王に就任したことは知っている。
     だから、グレッグミンスターに滞在する理由がなくなり、坊ちゃんは助っ人としてデュナンに向かったままこの屋敷に戻って来ず、再び当てのない旅へと繰り出した。不安はない。私は坊ちゃんが元気に過ごしているならそれで良かった。
     でもまさか、元気を通り越してこんな面白いことが起きているとは。
     いや、少し違う。いつかこういうことになるだろうとは思っていた。けれど、それがまさか、こんな不意に発生してしまうだなんて。しかもそれが、日記帳が発端だなんて。
    「───で、それを盗み見してしまったんですか」
    「盗み見なんて人聞きの悪い。つい、読んじゃっただけなんだよ。だって、図書館に置いてあったらただの本だって思うでしょう?」
     一連の出来事を聞くと、感慨深い気持ちになってしまった。そして、二人に同情した。
     つい、で百数頁ある「恋文」を全て読めるものなのだろうか。
    「ねえ、クレオ。リアンって僕のこと好きなのかな?」
    「そうだと思いますよ。言われなくたって分かります」
    「違う! 僕が言ってるのは」
    「恋愛としての好き、でしょう? それこそ見てれば丸分かりですよ」
    「…………ッ」
     坊ちゃんの息を呑む音が聞こえた。私も慣れてるわけじゃないけれど、さすがに友愛と恋愛が別物だってことくらいは分かるし、リアン君が向けていたものは後者だってこともとうに分かっている。
    「坊ちゃんはどうしたいんですか?」
    「えっ?」
    「私に話すくらいだから、そこで終わりじゃないでしょう?」
    「……どうしたらいいのか、分からなくて」
     先程までの威勢の良さはどこへやら、ぽつりと呟いた坊ちゃんの声に、肩から力が抜けた。マクドール家の矜持が剥がれた先にある、口から零れたように紡がれるのはいつだって彼がひた隠しにしている本音だった。
    「分からない……何もしたくないってことですか? それともあの子から向けられる愛情を持て余してる?」
    「違う」
     はっきりと、坊ちゃんは否定した。
    「リアンのことは好きだよ。それははっきり言える。でも、リアンが言う好きと僕の好きは違う……と思う。でも、傍にいたいし、手助けしたいって思う」
    「それを、リアン君にちゃんと伝えてみたらどうですか? リアン君は、考え無しにことを起こすような子じゃないでしょう? 坊ちゃんの話、ちゃんと聞いてくれると思いますよ」
    「そう、だよね」
    「ちなみに、リアン君とキスはできますか?」
    「……寝る前の、ではないよね」
    「寝る前のキス、してるんですか?」
    「だって、リアンがナナミと毎日してたって言うから……なら、たまに会う僕が彼にしてやりたいって思うのも自然なことだと思うし、リアンも嫌がってないように見えるから」
     矢継ぎ早に紡がれる理由もとい言い訳に、返事もおざなりになってくる。これはアレね、犬も食わないって言われるものじゃないのかしら。
     いいんじゃない、男同士で恋愛するのも。グレミオが聞いたら泣いて止めるかもしれないけれど、私はいいと思える。あの二人なら、ずっと一緒にいられる二人なら。そういう道を選ぶのも納得できるというか、違和感がない。それに、そんなに一途に互いを思いやれる関係って、そうそうあるものじゃない。坊ちゃんもリアン君も、世間の枠組みに簡単に当て嵌められない大切な存在になっている、というだけで。
     第一、好きだと思う気持ちは堰き止められない。人の気持ちって無理矢理押し込めていても、いつか必ず溢れてしまうものだから。リアン君の気持ちが溢れて壊れてしまう前に、坊ちゃんが何とかしてあげられるといいけれど。
    「坊ちゃん。リアン君にちゃんと言えそうですか?」
    「言えるか、じゃない。言うんだ」
    「なら大丈夫ですね」
    「うん……ありがとう」
    「泊まっていきますか?」
    「いや、レパントに騒ぎ立てられる前に行くよ」
     多少は申し訳ないと思っているのか、小さく「またね」と返事をした主に苦笑して、扉が閉まるまで手を振っていた。
     あそこまで意識が向いていて、友愛ですなんて言い訳、通用するとは思えないけれど。
     それにしても、肩が凝った。腕を上げて伸びをしても、凝り固まった首から肩にかけての怠さが取れそうにもない。口から出し欠けたため息は、幸せが逃げてしまいそうで飲み込んだ。
     テーブルに残されていたカップには、僅かに紅茶が残っていた。それを一息に呷る。
     思わず、笑みが漏れた。話を聞こうと思った時点で私の負けだ。

     どことなく当てられたような気にさせられるのは、何故でしょうね。

        
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