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    fuyukichi

    @fuyu_ha361

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    fuyukichi

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    8日目


    「二郎指定っすか……」

     昼。事務所のデスクで、弟達持たせた弁当の余りと味噌汁で昼食にしていると、得意先から依頼の電話。不動産業をしているこのお得意さんは顔が広く、何かと仕事を回してくれるのだ。今日も仕事を頼みたい、とのことだったので、三郎の作ってくれたスマホと同期できるスケジュール管理アプリをデスクトップで開きながら内容を尋ねたのだが、それは一郎への依頼ではなく、弟の二郎へお願いしたいという内容だった。一郎は理由を尋ねる。

    「なにか理由が?」
    「実はね──……」

     理由はこうだった。
    お得意さんの知人が、今度、新しく飲食店を出すらしい。大変めでたい。ハンバーガーなどのアメリカンフードを提供する、ダイナー風の店で、もうすぐオープンなのだが、決まっていたアルバイトがひとり辞退してしまい欠員が出たらしい。そこでオーナーは以前に別の店でバイトをしていた二郎のことを思い出す。二郎なら愛想もよく元気だし、ハツラツとしていて運動神経も良いと聞いている。そこでお得意さんに相談して繋いでもらいたいという話らしい。

     別にウチは一見さんお断りじゃないので直接連絡をくれてもいいのだが。もう少し問い合わせしやすいように工夫するか。それか単純に就学中で未成年の二郎への依頼なので、怪しいものではないというクッションを挟みたかったのかもしれない。一郎はそう理解して返事をした。

    「俺は構わないんですが、本人に聞いてみますね。いつくらいからですかね?」
    「オープンは来月の半ばらしくて、ただオープニングスタッフとして研修したいから出来れば来月頭から入って欲しいって」
    「来月って……明日から来月っすね」
    「そうなんだよ。でも、そこは二郎君の都合に合わせるって言ってたよ」

     とりあえず今晩聞いて、明日には連絡します。
    そう答えるとお得意さんは嬉しそうに了解した。

    「あ、ちなみにそこのお店、そこの店員は男も女もローラースケートを着用するらしいんだけど二郎君なら運動神経いいし大丈夫だよね」
    「え、ローラースケート?」

     アメリカンダイナーでミニスカートのウェイトレスがポップな服装でやる、アレだよな。一郎の頭には何となくイメージ図が浮かんだ。女の子がやるイメージがあったが今時は男のスタッフも使うのだな。

    「ローラースケートなんて、あいつ履いたことあるかな…」
    「子供の頃にない?」
    「あー…どうだろう」

     施設にはなかった。買ってやったりした記憶もない。しかしアイツはダチが多いから、もしかしたら自分の知らないところで経験があるかもしれない。そう思った一郎はとりあえずそこも含めて大丈夫か聞いてみると答えた。

    「じゃあまた明日、ご連絡します。いつもありがとうございます」
    「あっ、待って待って一郎君!実はダメ元でもうひとつ…」
    「?はい、どうぞ」

     話も終わっただろうと終話しようとして、呼び止められる。するとお得意さんはどこか言いづらそうに「あー」だの「ええと」だのと言い淀んでから気まずそうに尋ねた。

    「これはテレビ関係の知人からの相談なんだけど…」
    「テレビ…」
    「しかもまた二郎君宛で…」

     モテるな、あいつ。
    ええ、と相槌を打つ。しかし、次の言葉で一郎は全身をピシリと硬直させた。

    「学生向けのネット番組を作ってるとかで…」
    「はい」
    「主に芸能活動とかSNSで活動してる高校生を集めてて…」
    「ええ」
    「…恋愛リアリティーショーへ出てほしいって」

     恋愛リアリティーショー。
    所謂、恋愛目的で同じ宿舎で生活したり、旅をしたりして、その中で好きな相手を見つけて……という番組だ。それに、二郎が?というかアイツは芸能関係でもSNS配信者とかでもないんだが。三秒、考えて一郎は落ち着いた声で答えた。

    「……それは、駄目っすね」
    「やっぱりかあー!」
    「すみません。ちょっと、それは」

     ハンバーガー屋でのバイトは本人に確認すると回答した一郎だったが、これは本人に回すまでもなく、気付けば即答で断っていた。無理、いや、無理だろ。二郎のことは信じてやりたいし、きっと恋愛だろうが何だろうが、やる時はやる男だろうとも思う。がしかし、二郎にはまだ早い。ウン、そうだ。同級生にキャーキャー言われるだけで声が小さくなっちまうくらいピュアなのだ、うちの二郎は。だから、駄目だ。

    「三郎君は……中学生だもんなあ」
    「ちょ、三郎なんてもっての他っすよ」
    「はは、だよね。じゃあ一郎君、高校生のフリして出てよぉ」
    「無茶言いますねえ!」

     馴染みだからこそ軽口を言い合って笑える関係だ。はっはっは、と一郎は笑い飛ばし、話はこれで終わりだと言わんばかりに「じゃあ、明日できるだけ早めにご連絡しますんで!ありがとうございます」と元気に挨拶をして電話を切ったのだった。

    「あ、今日ハロウィンか」

     さっさと仕事を終わらせてソシャゲのログインをしなくては。一郎はなんだかモヤモヤする気持ちに蓋をして、再びパソコンに向き直ったのだ。



    2024.10.31

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