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    fuyukichi

    @fuyu_ha361

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    100日後にくっつくいちじろ15日目


    「兄貴、これ今週の分」
    「あー…いつも悪いな…」

     はい、とテーブルに置かれた紙袋。
    中には複数の手紙やメッセージカード。これは二郎が代わりに受け取った、山田一郎へのファンレター(+ラブレター)である。

     ことイケブクロで知らない者はいないくらい知名度のある一郎。そんな有名人の弟である二郎は、友人や知人から「お兄さんに渡してほしい」と手紙を預かることがしばしばある。二郎も二郎で有名なのだが、やはり過去のレジェンドチームの功績はこのH歴に於いて影響力が桁違いであった。

    「あー、二郎?」
    「ん」
    「無理して受け取らなくてもいいぞ?お前も気ィ悪いだろ」
    「何で?全然そんなことないよ。兄貴がすげぇって思う気持ちは俺も分かるし」

     あっけらかんと答える二郎。
    よく『兄が持て囃されると比較され、劣等感を覚える』という兄弟の話を聞く。芸能人しかり、スポーツ選手しかり。二郎だって、本人宛のファンレターではなく、兄に取り継ぐように使われるなんて嫌ではないだろうか。そう思い、何度か無理しなくて良いと言うのだが、本人はいつも決まって気にしていないと答える。

    「俺だって実の兄貴じゃなかったら毎日ファンレター書いてたかもしれないし、みんなの気持ちは分かるよ」
    「はは、兄弟でも毎日書いてくれたって構わねえぞ?」
    「そんなこと言ってるとマジで送りつけるよ」

     とは言っても毎回毎回、対面で受け取っていると大変らしく、二郎は学校の自身の机横、カバンを引っ掛けるフックに紙袋をぶら下げているらしい。そこに『バスターブロスへのファンレターはこちら』というメモを貼っているのだとか。なので一郎だけでなく、三郎宛のものも投函される。それを仕分けして、それぞれに二郎が配達する。
     一方、二郎宛は本人がいるので直接渡されるのだ。

    「しかし、三郎経由では殆ど貰わないぞ?あいつは断ってるんだろうし、二郎も無理しなくていいからなマジで」
    「いやー、あいつは断ってるというか、渡しにくいんじゃね?三郎に渡すくらいなら兄貴に直接渡すっしょ」
    「そ、そんなことはないだろ…」
    「つかアイツのことだからマジで断ってるかも」

     そう言って笑いながらポッキーを齧る二郎。
    もうすぐ夕飯だからほどほどにしろよ、と言えば何故か一本、口元に差し出された。ったく、と言いつつ素直に口を開けて受け取る。
     一郎はそれを咀嚼しながら紙袋の中を確認した。まるこい文字で書かれた女子生徒のファンレター、雑な癖字で書かれた男子生徒からのファンレター。その中でふと、ある文字が目についた。

    「ん?これ……二郎宛じゃねえか?」
    「え?」
    「ほら、山田二郎君って」
    「ええ……?あ、マジだ」

     一通、まるで教科書に書かれたような達筆な文字で二郎の名前を書いた封筒を見つけた。まさか自分のものが入っているなんて、と驚きつつも封を切って中身の便箋に目を走らせた二郎。一郎は自分も自分宛の手紙を読もうと思うのに、どうにも弟宛に届いた特別そうな手紙が気になった。

    「……ふ」

     あ、笑った。
    持っている手紙を読むフリをして盗み見ていると、二郎は手紙を読んでふと笑った。嬉しそうに顔を綻ばせている。どうしても気になった一郎は平然を装って尋ねてみた。

    「ファンレターか?」
    「あー……いや」

     は?じゃあラブレターなのかよ?
    バッ、と顔を上げると二郎は笑いながら手紙を封筒に戻しているところだった。目が合うと楽しそうに口を開く。

    「クラスの奴から。この前、生徒会選挙?があってさ、それのスピーチを頼まれたんだよ」
    「お、お前が選挙のスピーチ……」
    「いや、分かるよ?俺だって絶対俺じゃねえだろ!と思ったし、そう言ったんだけど、とにかく票を集めたいから協力してくれって言われて」
    「すっげぇ当選したいんだな」
    「うん、なんか好きな子が生徒会にいるらしくて、一緒の委員会になりたいんだと。だから仕方なくスピーチしてやったんだけど、それで当選したお礼の手紙だった」
    「あー、まア、そんならいいけど」

     直接渡せよなー、と笑いつつも嬉しそうに手紙をポケットに仕舞う二郎。しかし、ふと、何かに気づいたように真顔になって顔を上げた。一郎と目が合う。

    「今、兄貴、“そんならいいけど”って言った?」
    「え?」

     そんなこと言ったか?と尋ねると、言ったよ。との返答。

    「お礼の手紙ならいいって……どんな手紙だったら駄目だったの?」
    「え、いや、別に。てか俺そんなこと言ったか?無意識だわ」
    「ええーっ、ボケちゃったんじゃないの?」
    「人を老人扱いすんな」

     いつもの調子で軽口を言い合いながら、そろそろ夕飯の支度でもするかと立ち上がる。今日は寒くなってきたからおでんにしようと思う。うわー、最高。そんなやり取りをして二人はキッチンに向かったのだった。ファンレターは大事に読んで、連作先の書かれたラブレターは気持ちだけ受け取って、個人情報が分からなくなるように処分した。


    2024.11.7

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