100日後にくっつくいちじろ38日目
「ただいまー!」
サッカーのピンチヒッターで出掛けていた二郎が元気よく帰宅した。たったった、といの一番で玄関へ迎えに行ったのは一郎でもましてや三郎でもなく猫のハチ。足元まであるウィンドブレーカーを羽織った二郎は鍵を閉めながら「おー、ハチ公」と嬉しそうに笑う。
「おう、二郎おかえり」
「兄貴ただいま、腹減ったー!」
「試合は?」
「勝ち!3-1で」
「すげぇじゃねえか」
今日は鍋だ。カセットコンロを用意していた三郎が「ウワッ」っと声を上げた。
「二郎お前、汗と土埃くさい!」
「え?そうか?」
「そうだよ、早く風呂入ってこいよ!食欲失せる」
「へーへー」
兄貴風呂入ってきていい?とキッチンにいる兄に尋ねると「おう、入ってこい!」とのこと。脱衣所までくっついてくるハチに「お前も風呂入るか?」と尋ねるが逃げられた。
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「じろー、洗濯物ほかにあるか?」
二郎が風呂に入り五分後、そういえば洗濯機を回したいんだった、と一郎が脱衣所から二郎に問いかける。シャワーの音と一緒に二郎の返事が返ってくる。
「全部出した!」
「オッケー」
洗濯カゴに入っていた服を洗濯機に突っ込む。その中で二郎のジャージのパンツが出てきた。……怪しい。二郎はよくポケットの中のものを出し忘れるのだ。今日はないだろうな、そう思いつつポケットを漁るとビンゴ。レシートと、ポケットティッシュが出てきた。ゴラァ!と叱ろうと思ったがピタリと止まる。レシートと共に出てきたポケットティッシュに目が留まったのだ。透明のビニールの中に何かメモが挟まっている。何だこれ?広告でもなさそうだ。取り出してみて開くとそこには可愛らしい文字で電話番号が書かれていた。ティッシュごと渡されたのだろうか。
「ニャー」
「ん?ああ、ハチか」
一郎に着いてきたらしいハチが、一郎の足に、すりっと身を寄せてきた。
「二郎の奴、結構モテるんだぜ?」
ピラピラ、とその紙を揺すってハチに見せる一郎。分かっているのかいないのか、ハチは紙を目で追いかけた。二郎は恐らくこのメモに気付いていないだろう。
「仕方ねぇな、二郎の奴」
まったく。簡単に個人情報を人に渡すなっての。危ねぇな。そう言いながら一郎は他の洗濯物を全て洗濯機の中に入れて、洗剤、柔軟剤、匂い消しの漂白剤を入れてスイッチを押した。
「一兄、火つけますよー」
「おう、今行くわ」
スリッパをパタパタ言わせながら、一郎とハチはリビングへ戻った。
脱衣所のゴミ箱にはレシートとポケットティッシュと、そしてメモが丸めて入っていた。
2024.11.30