100日後にくっつくいちじろ39日目
「まーじで飼い主見つからねぇな」
「そんな遠くの家ではないはずなんだけどね」
「つかお前さっきの店でもまーた遊び道具買って……そんな色々揃えちまうと飼い主に返す時に凹むぞ」
「別に……全然平気だから。自分の匂いがついたものがあった方がストレスないだろうし、返す時はそのまま遊び道具とかも渡すつもりだよ」
「ならいいけどよー」
「………二名様、お足元にお気をつけくださーい」
「はーい!」
「はーい!」
某所、小さな遊園地。
二郎と三郎は珍しく二人で仲良く観覧車の列に並んでいた。一時間ほど並んで回ってきた順番。チケットの半券をもぎってもらい乗り場に進むと、驚いた顔をした後にジト目で二人に声をかけたのは係員の制服を着た一郎だった。
経緯。
昨日、土曜日。山田一郎が某遊園地で働いているとSNSで噂になった。
『観覧車に乗ろうとしたらMC.BBがスタッフでいて、乗る時に手取ってくれてヤバかった!明日もいるっぽい!』
という女子高生の投稿がバズったのだ。それを目撃した二郎と三郎。翌日の日曜、午前中に二人で買い物代行の依頼をこなして二人でうどん屋で昼を食べ、その足で遊園地へやってきたというわけだ。規模の小さな遊園地で、普段はそこまで混んでいないのだが、この土日は一郎に会えるかもということで観覧車は大行列。しかしここまで来たのだからと二人は一時間並んだ。家に帰れば普通にまた夜、会えるけれど並んだ。
そして回ってきた順番。一郎はあからさまに『何でお前ら来てるんだ』という、呆れ三割、照れ五割、驚き二割の表情をしている。黙って来たのでそれはそうだろう。一方、にっこにこで元気よくお返事をして乗り場に意気揚々と進む弟達。
「僕、赤いゴンドラがいいな」
「分かる、やっぱ赤だよなー」
「だよねー、BBの赤がいいよねー」
「お前ら……」
珍しく三郎までも二郎に乗っかって兄を茶化す。二人の希望は外れ、緑のゴンドラがやってきて、ドアを一郎が開けてやった。
「ほら、お前らの番……」
「え!アレッ、もしかして山田一郎さんですか?」
「キャー!偶然!」
「く……っ、覚えとけよ……」
ほら、と三郎の手を取る一郎。その手を取って嬉しそうに乗り込む三郎。続いて二郎にも手を差し伸べる。じ、っと一郎を見つめると「んだよ」と少し照れたふうに睨みをきかされた。
「紳士ィ」
「やめろ」
手を取ってゴンドラに乗り込む。ばたん、としまったドア。振り返ると窓の外で半ば照れたジト目で二人を見送る兄。こういう時ばっかり団結しやがって、とその赤と緑の目が語っている。
「いってきまーす」
「いってきまーす」
「いってこい……」
げんなりしながらも手を振ってくれる兄に、二人は大満足でゴンドラ内から写真を撮影して笑い合った。
▼
「おーまーえーらー」
「あ、おかえりなさい。一兄」
「おかえりー」
ドスドスと足音を立ててリビングに入ってきた一郎。食卓には既に夕飯が並んでいる。
「来るなら言えって!」
「ええー、知らなかったんだよ。たまたまだってぇ」
「そうですよ、いやあ、まさか一兄の依頼先だったなんて。なァ二郎」
「おう、ラッキーだったな」
「ぐっ……」
別にいいのだが、不意打ちだったしなんとなく照れくさいじゃないか。手を取ってくれて格好いい!という投稿がバズっていて、それを兄弟に見られるなんて。一郎は「くそー」と言いつつも弟達が珍しく息ぴったりに仲良くしているのであまり強く出ることができなかった。
「一兄も帰ってきたことだし、ご飯よそっちゃいますね」
一郎はやれやれと椅子に着席した。すると二郎が兄にスマホの画面を向けた。そこには、ゴンドラ内から撮影したらしい、遊園地スタッフの制服を身に纏い、ジト目で手を振っている一郎の写真。
「似合ってたよ、兄貴」
にっ、と歯を見せて笑う二郎。とうとう兄は頬を赤くして眉間に皺を寄せると二郎の肩をどついたのだった。
「兄貴をからかうな」
「かわいい~」
「やめろ、そして消せ」
「やだね」
2024.12.1