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    fuyukichi

    @fuyu_ha361

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    fuyukichi

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    100日後にくっつくいちじろ54日目


    「はー……」

     三郎は溜息を吐いた。
    掃除当番も委員会もなく、また依頼の手伝いもない。このまま直帰して暖かい部屋でポテチでも食べながらゲームをしよう。誕生日だし、一兄も多めに見てくれるだろう。足取り軽く学校を後にしようとしたそのとき。

    「三郎君、校門の前にお兄さんきてるよ」
    「え」

     お兄さんって二人いるけど。
    三郎はクラスメイトの女子に「どうも…」と短く言葉を返すと急足で昇降口から校庭を突っ切って校門へ向かった。そしてふと見えた後ろ姿でその急いでいた足をピタリとゆるめ、ちんたら歩きに切り替えた。

    「……なんでお前が来てるんだよ、二郎」
    「おー、帰ろうぜ」
    「はあ?」

     そこにいた兄は長男ではなく制服姿の二男であった。ダルそうにポケットへ手を突っ込み、下校中の在校生はビビリ半分、ミーハーにソワソワ視線を送っている者が半分。三郎はどんな種類であっても無駄に視線を浴びるのが嫌で、二郎の腕を引っ張って足早に歩き始めた。

    「もう一度聞くけど、なんで迎えに来たんだよ」
    「はー?いや、別に?たまには兄弟仲良く下校してもいいだろ」
    「キモッ!」
    「キモくねえ!」

     まあいいけど別に、と三郎はいつも通り、最短ルートの道へ足を進めようとした。しかし、わっしと肩を掴まれる。

    「なんだよ」
    「あー、ゲーセン行かね?」
    「行かない」
    「行こうぜ!ガチャガチャやらせてるよ!」
    「いらない!あっ、おい!引っ張るな!」

     二郎は弟を半ば無理矢理引っ張り、近くのゲームセンターへ連れ込んだ。しかし別に取りたいプライズ品があるわけでもなさそうで、必死にキョロキョロと目的を探し始めた。はあ、と溜息を再び吐く三郎。

    「ねえ、じゃあこれやりたい」
    「おっ!珍しいな。どれどれ……って、おいっ!これプレミアムガチャじゃねえか」
    「一兄が僕に似てるって言ってたキャラだ」
    「ぐっ……!仕方ねぇな、一回だけだぞ」
    「早く500円出せよ」
    「憎たらしっ」

     大抵、今のガチャガチャは300円が平均的だが、三郎が指さしたのは500円するちょっとお高いガチャガチャだった。作りの良い、少し大きめのキャラクターフィギュア。足元見やがって、と思いつつも自らやらせてやると言った手前、やっぱなし、にすることもできず、二郎は泣く泣く500円をコイン投入口に入れた。楽しそうにハンドルを回す三郎。

    「あっ」
    「うお!?来たんじゃね!?」

     中身が若干透けていて、二人で覗き込むと狙っていたキャラっぽい色が見える。パカっと開けると、やはりお目当てのキャラクターで二人はワッと沸いた。



     その後も「じゃあ帰ろう」と言い、自宅方面に足を向ける三郎の肩を二郎が掴み、本屋、駄菓子屋、ディスカウントストア……と寄り道のフルコースと言わんばかりに様々なところへ連れ回した。その間、二郎はチラチラとスマホで時間を確認したり、誰かとメッセージでやり取りをしたりしていて。とうとうハンバーガー屋でポテトをつまみながら、三郎は頬杖をついて二郎へ尋ねた。

    「何時までなんだよ?」
    「あ?なにが」
    「何時まで僕を足止めする予定なのかって聞いてる」
    「……なんのことだか?」
    「下手くそか?」

     バレバレだ。だって朝から一郎も二郎もどこかソワソワしていたし、今日は腹を空かせて帰ってこいだの、余計な台詞が多かった。

    「つかお前、気づいてンなら知らないフリしとけよ……」
    「お前があまりにも下手くそな足止めしてるから少しばかり泳がせてやったんだよ」
    「犯罪者か俺は」

     いいから見せてみろ、と一郎と二郎のメッセージ画面を覗き込むと『今ペスカトーレのソースできた』『あとどのくらいで帰っていい?』『あと30分はほしい。予約したケーキを取りに行きたい』『おけ』という5分前のやりとり。

    「じゃああと少しゆっくりすればちょうどいいね」
    「可愛くねー!」
    「一兄が僕のために色々してくれてるのは素直に嬉しいけどね」
    「俺は」
    「好きにしてほしい」
    「塩すぎるだろ」



    「ただいま帰りましたー」
    「ただいまー……」
    「おうっ、おかえり!」

     ドアを開けて玄関に入ると、奥からドタバタと一郎の足音が近づいてきて、エプロンをつけた兄が姿を現した。二郎は兄へサプライズの準備がバレてしまったと薄情しなきゃと気分が重かったが、それより先に一郎がエプロンのポケットから取り出したクラッカーを炸裂させた。

    「三郎、誕生日おめでとう!」

     パァン、と弾けた音が玄関に響く。そして。

    「わあ!びっくりした!一兄、もしかして色々準備してくれたんですか?」
    「おうっ、リビングでもうメシ用意してあるぞ」
    「わーい!ありがとうございます」

     嬉しそうに笑って一郎へ抱き着く三郎。
    こ、こいつ……!とその態度の違いに改めて震える二郎。抱きつきながら顔だけ振り向くと三郎は二郎へ『してやったり』と不敵に笑って見せた。「ぶりっ子が!」と口パクで言うと「ていうか」と三郎が声を漏らす。

    「お前から祝いの言葉、聞いてないんだけど?」

     くっつき虫のまま、二人で二郎に目をやる長男と三男。二郎も別に素直に祝う気持ちでいたが、改めて要求されるとグッと言葉に詰まった。しかし、じいっと視線を向け続けられる。くそー、同じような顔して見てきやがって!二郎は負けたように頭をぼりぼりかいて、そして三郎の頭を照れ隠しにワシャワシャ撫でたのだった。

    「おめでとさん!」


    2024.12.16
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