100日後にくっつくいちじろ55日目
「さぶろー、お前の靴下がこっち混ざって……なにしてんの?」
三郎の誕生日から一夜明けた本日。
兄が畳んでくれた洗濯物を収納していた二郎は、紛れていた弟の靴下を届けに本人の部屋をノックした。返事が返ってくる前に開けると、不服そうな顔で三郎がこちらを睨んだが、座っているその足元には大きめのバッグが置いてあった。旅行とか、遠出するときに使うやつだ。二郎は小首を傾げる。
「この前言っただろ。天体観測会」
「あー、泊まりのやつか。いつだっけ?」
「明日だよ!学校終わってそのまま行くんだ」
「ほー」
じゃあコレ持ってけよ。と二郎は持ってきた三郎の靴下を野球ボールのように狙いを定めて放り投げると、バッグの口の中へ命中させた。ぽすっ、とちょうど入る靴下に三郎が舌打ちをした。
「てかさ、二郎」
「んだよ」
「明日、一兄とふたりなんだから迷惑かけるなよ。僕の夕食当番だったけどお前になってるからな」
「あっ、まじかよ。くそー」
三郎は圧縮袋に衣類を丁寧に入れ込みながら「ねえ」と再び二郎を呼んで、ちょっと入ってこい、と手招きした。
「……ちょっとドア閉めて。入って」
「?なんだよ」
用が済んだなら早く自分の部屋に帰れと言われると思っていた二郎だったが、三郎は反対に部屋に入るよう二郎へ言った。何かあるのか、と素直に部屋に入り、ドアを閉めてベッドへ腰掛けた二郎。すると三郎は荷造りの手を動かしながら二郎にあることを尋ねた。
「前に、一兄にお付き合いしてる女の人がいるかもって言ってただろ?」
「あー……あれな」
「その後、何か聞いた?」
「いや?別に……なんか聞くのも変っつうか」
どこか面白くなさそうに口を尖らせそっぽを向く二郎。お?と三郎は右の眉を持ち上げたがそれ以上は言及せず言葉を続けた。
「じゃあ、明日、一兄に本当のところどうなのか聞いておいて」
「はあ!?なんで俺が。気になるならお前が聞けや」
「気まずいだろ」
「俺だって気まずいわ!」
「いいから、ちゃんと聞いとけよ」
「横暴って言葉の語源、お前?」
意味分かんねぇ奴だな、と頭をバリバリかきながら長い足で三郎の背中をグイグイと押した。(すぐにヤメロと跳ね除けられたが)
「じゃあもう部屋に戻れよ鬱陶しい」
「明日の集団行動で嫌われて泣きながら家帰ってくるのに5,000,000円かけるわ」
「そんなお金持ってないくせに」
悪態をつきながら立ち上がり、部屋を出ようとした二郎。しかし
「おい」
三郎がまた二郎を呼び止めた。言い残した嫌味でもあるのか、とジトっとした目線で振り返る。すると三郎はいつも通りの飄々とした表情でこう言った。
「僕は応援も後押しもしないけど、一兄のこと傷付けたら市中引き回すからな」
「……ハ?」
意図の分からない意味深(しかし物騒)やその言葉に、二郎は固まる。
「何を応援するって?つかなんで俺が兄貴を傷つけるっていう発想になるんだよ」
「うるさい、僕はこれから持ち物の最終チェックをするから忙しいんだ。さっさと出ていけよな」
「お前が呼び止めたんだろ!」
暫く粘り、押し問答が続いたが、終ぞ三郎から説明はなく、二郎は首を傾げながら部屋に戻ったのだった。
2024.12.15