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    fuyukichi

    @fuyu_ha361

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    fuyukichi

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    100日後にくっつくいちじろ59日目

    「じゃあ二郎はアンドリュー、三郎はサンシャイン製菓店、俺はBKRケーキ店」
    「13時までやって1時間休憩の後、移動して14時30分から午後の店舗……ですよね?」
    「ああ、もしトラブルとかでスケジュール狂いそうなら俺に連絡入れてくれ」
    「はい」
    「了解!」
    「じゃあよろしく頼むぜ、萬屋ァー……」
    「ファイ!」
    「……おー」

     新しく気合を入れる号令を取り入れたが、不服そうな面子が1名。
     山田三兄弟は本日、終日お仕事モードでフル稼働である。何せ、今日、明日はクリスマス前、最後の週末。所謂、書き入れ時というやつだ。午前と午後で1人2店舗ずつケーキ店で呼び込みを行い売上を上げるのがミッション。別にノルマなどがあるわけでもないが、二郎と三郎は去年からどちらが多く売り上げたかを競い合っている。


    「おー、今年は二郎だな!よろしく頼むぜ」
    「おう!絶対にサンシャイン製菓には負けねえくらい売ってやるから、おっちゃん任せとけよ!」
    「三郎君はサンシャインなのか。つうか三郎君もいい子だが、接客に関してはお前の方が得意だし圧勝なんじゃねえか?」
    「いーや、それがさ、あいつ無愛想なくせに猫被りの営業スマイルとかは得意なんだよな……語尾にハートがつきそうな感じで媚び売るんだぜ?」
    「ああー、想像できるわ。年上の姉ちゃんとかマダムからウケそうだな」

     西口のケーキ屋、アンドリューにやってきた二郎を店主が背中をバシンと叩いて迎え入れた。アンドリューという洒落た店名に反して店主は気さくで、二郎も何度か普通にバイトをしに来たことがあるので双方、安心できる相手であった。早速、店から支給された制服を身に纏い、その上で厚手のサンタクロース風の上着と帽子を渡された二郎。その場で袖を通すとコスプレにもなっていない売り子サンタが完成した。

    「おおー、似合ってる似合ってる。よし、いいか?お前は姉ちゃんとか、親と一緒にいる子供とか、あとはオッサンをターゲットに愛想よく呼びかけするんだ。ニコっと笑って、ケーキどうですか?って言ってりゃお前なら売れる。期待してるぜ」
    「おう!任せとけ!」
     どん、と胸を叩いて二郎は店の前に特設された長テーブルへスタンバイした。外は冷たく鋭い冬らしい風が吹いているが、足元のヒーターが暖かい。二郎はパンッと手を叩くと、行き交う通行人へ向かって声を張った。

    「らっしゃいませー!ケーキいかがっすかァ!」



    「おーい、おっちゃん。まだ在庫ある?あと2つほしいらしいんだけど」
    「ま、まじか……!?ちょっと待っててくれ!5分したら上がるから、それまで繋いどいてくれ!」
    「了解ー」

     二郎の呼び込みは結果的に言うと大成功であった。
    しかし、本人の意図とは少しズレて『MC.M.Bが西口のケーキ屋でケーキ売ってるけど、掛け声がラーメン屋のそれで草』と動画つきでSNSにアップされ、バズった結果だった。客のひとりが「これ見て来ました!」と動画を二郎に見せると「はあ!?まじかよ……別にそんな意図はなかったんだけど……あ、じゃあ分かった!ラップにするわ!」と今度はスマホでビートを流しながらラップパフォーマンスでのケーキ販売をはじめて更にその動画が拡散され呼び水になったのだった。



    「二郎、おつかれ!」
    「あ、もう時間?」
    「おう、本当なら今日ずっといてほしいけど約束だからな……」
    「どう?結構売れた?」
    「売れた売れた!まじで過去最高だ。お前の兄貴にもちゃんと礼言っとくからな」
    「ならよかった」
    「お前、午後はどこ行くんだ?」
    「午後は大学の方にある、なんちゃらショコラティエってとこ」
    「え、あそこケーキ売ってんのか?」
    「なんか今年から売り始めるらしいよ」
    「まじかよ」

     午前の仕事を終えた二郎は店主に礼を告げ、更衣室で着替えると一旦、自宅へ向かった。
    混んでいる昼時に店に入って食べるより一度、家に帰って食べたほうが早いと一郎が今朝、おにぎりとから揚げを用意してくれたのだ。その道中で一郎の行っているBKRケーキ店を通りかかった。兄は既に退勤しただろうか……と考えていたが、そこにはまさかの光景が。

    「すんません、列からはみ出さないようにお願いします!あ、そこ車道なんで危ないから気を付けてください!」

     兄は全身サンタクロースの格好をして、まだ呼び込み……というより何故か列の整備をしていた。どうやら山田一郎が呼び込みをしたせいで長蛇の列になってしまったらしく、上がる時間になったはいいが、一郎目当てで並んだ客が捌けていないので上がるに上がれないのだろう。

    「はは、何してんだうちの兄貴は……」

     やっぱすげえな、兄貴の人気は。
    どこか誇らしくもあり、悔しさもあったが、こんなものを見せられてしまえば感服するしかなく。二郎は苦笑いしながら列に近づいていき、声を張った。

    「すんませーん!山田一郎、もう時間なんで、これから全員とハイタッチさせてもらいます」
    「うお!?二郎!?」

     二郎は兄に「とりあえず今、並んでくれてる人達とハイタッチして、それで撤収しようぜ。キリないよ」と耳打ちした。すると驚きつつ兄は頷いて最後尾の客から「すんません、ありがとうございます。ここのケーキまじで美味いんで、よろしくお願いします!」と声をかけながらハイタッチを交わし、漸く持ち場を離れることに成功した。バタバタとバックヤードでサンタ服を脱いで店主と挨拶を交わし、通用口から出て、待っていた二郎とハイタッチをする。

    「おつかれ」
    「二郎、助かったぜ」
    「一生上がれないところだったね」
    「はは……、お前もおつかれ。どうだった?アンドリューの店主喜んでたか?」
    「おう、過去最高かもって言ってた…お世辞かもだけど」
    「んなことねえだろ!あのおっちゃん、世辞とか言うタイプじゃねえし。よくやったな」
    「へへ……」

     二郎はハッとした。あ、何だか久しぶりに『いつも通り』兄と会話ができている気がする。まあ、出来ていなかったのはひとえに意識しすぎな自分のせいなのだが。この調子でペースを戻していかなくては。そう思って二郎は話を続けた。

    「腹減った……三郎はもう帰ってっかな?」
    「お、メッセージ来てたわ。十分前に上がって、サンシャイン出たって」
    「今年は大差つけてやる……」
    「まーた競ってんのな。つか、じゃあ俺とも競ってくれよ」
    「いや、兄貴はチートだからナシ」
    「仲間外れかよ」

     ちえ、と小石をわざと蹴るようなモーションをする兄に、二郎は声を出して笑った。いい感じだ。二人は互いに久しぶりにちゃんと会話が出来て嬉しくなり、頬を緩めたのだった。

    「午後も頑張るぞー」
    「おう、頼むぜ」
    「任せてよ」


    2024.12.21


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