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    fuyukichi

    @fuyu_ha361

    腐った絵を描き貯めとく

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    fuyukichi

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    100日後にくっつくいちじろ62日目


    「ジロー!サッカーしよ!」
    「違うよ、二郎君はこっちでおままごとするの」
    「ダーッ、二郎じゃなくてサンタだっつの!」

     サンタの格好をした二郎を四方八方から引っ張る子供達。それを数メートル離れた部屋の隅で三郎が呆れたように見ていた。三郎を囲み、お利口にお絵描きをしていた子供達は「二郎君たいへんそうだね」と三郎に話しかけた。苦笑いしながらその子の頭を撫でてやる三郎。

    「放っておいていいよ。さあ、サンタさんの絵を描くんだろ?クレヨンにする?色鉛筆にする?」

     二郎と三郎、本日の仕事は養護施設で子供達へプレゼントを配るという内容であった。ケーキの販売を手伝う予定もあったのだが、スケジュールを調整した上で、そちらは全て一郎が担うことになったのだ。

     二郎も三郎も一応、サンタクロースのコスチュームで乗り込んだのだが、子供達には一瞬でバレた。ので三郎は早々にサンタの振りを諦めて帽子と白いヒゲを外していつも通り振る舞うことに切り替えた。二郎はまだ一応サンタのテイらしいが、速攻でやんちゃなメンバーに手を引かれ、庭でサッカーをすることになり、もういいわ、と白いヒゲを外してポケットに突っ込んだ。「ああー!取ったー!」と子供達が指をさして茶化す。

    「ねえジロー、一郎くんは?今日いないね」
    「んー?ああ、今日はケーキ売ってんだよ」
    「お仕事かぁ、じゃあ仕方ないね」
    「今度また来ると思うぜ」

     やはりこういう場所に来るとどうしたって施設で暮らしていた頃のことを思い出すことになる。二郎も三郎も。二郎が年下の子達と遊んでやっていると、三郎がヤキモチを妬いて拗ねたり泣いたりして。今では子供達の遊び相手もなんなくこなせるまでに成長した。

     二人は暫く子供達と各々遊んでやった。三十分ほどした頃だ。二つの声が響く。

    「返して、それ僕のだよ!」
    「うるさいなー」

     ベランダでおもちゃを取り合っている兄弟の声。どうやら二人が持ってきたプレゼントのひとつを取り合っているらしい。そろそろ手が出そうな勢いだったので二郎は「ケンカすんなって」と間に入ってやった。だってこいつが、僕は悪くない、なんて言い合いがまた始まって、いつも自分と三郎の喧嘩を止める兄はこんな気持ちなのかと苦笑いしながら小さな頭を撫でた。

    「ちゃんと話し合って順番で使えばいいだろ?」

     言いながら二郎は、そうだ、自分もウダウダやっていないで兄ときちんと向き合わねば。そう思った。しかし、どうしても正面切って向き合うと目をそらしてしまう。

    「俺も、仲良くしなきゃな……」

     二郎君も誰かと喧嘩してるの?と聞かれて思わず笑ってしまった。



     山田家のクリスマスパーティは少し遅い時間からはじまった。シャンメリーと予約してあったチキンと兄が貰ってきたケーキ。お疲れ様の意味を込めて弟達はちょっといい手袋を贈った。一郎は驚きつつも嬉しそうに「ありがとう」とそれを受け取ると、今度は二人へスニーカーをプレゼントした。これぞ家族で過ごすクリスマス。二郎は嬉しくなって、少し施設の子供達へも思いを馳せた。



    「二郎」
    「ウワッ!」

     三人で後片付けをして、風呂も済ませて、そろそろ寝よう。そんなタイミングで二郎が洗面所で歯を磨いていると後ろから一郎が声をかけた。急だったことと、そして不意に二人きりになったことで二郎は驚き、声を上げた。「わ、悪い」と謝る一郎。

    「いや、歯磨き粉切れてなかったかなと思ったんだけど足りたか?」
    「あ、ああ……うん。大丈夫だけど明日買ってくるよ」
    「ストックはあるから、朝はそれ使おう」
    「う、うん」
    「……」
    「……」

     シャコ、シャコ、歯ブラシが歯を磨く音。
    そして重たい沈黙。一郎が耐えきれず「じゃあおやすみ」と踵を翻したのだが、それを二郎が引き止めた。

    「あ、兄貴」
    「ん?」
    「ちょっと待ってて」

     慌てて口を濯ぐと、二郎はリビングへ向かった。そして何かを携えて洗面所に戻ってきた。どうした?と小首を傾げる一郎に、二郎はあるものを差し出す。

    「渡すか迷ったんだけど、今日、施設行った時に思い出してさ。さっきクローゼットの中ひっくり返した」
    「……?」

     渡されたのは、小さな紙の袋。皺が寄っていて、テープで口が止めてある。開けてもいいのか?と目で尋ねると、頷く二郎。不思議に思いながらテープを外して口を開くと、中からは赤い靴下が出てきた。

    「靴下……?」

     しかし、今の一郎が履くには若干サイズが小さい。履けなくはないが。

    「これ俺にくれるのか?」
    「あー……というか昔の俺が兄貴にあげようと思ってたやつ」
    「どういうことだ……?」
    「……兄貴のこと勘違いしてロクに口きいてなかったとき、クリスマスに小遣いで買ったんだ。三郎の靴下と、兄貴の靴下。プレゼントに……もちろんすっげぇ安いやつだよ」
    「え……」

     ほぼ絶縁状態だったのに、あの頃の二郎が自分のためにプレゼントを……?と驚いて固まってしまった一郎。苦笑いしながら二郎は続けた。

    「最初は三郎にしか買うつもりなかったんだけど、なんだか……仲間外れにしてる気がして、いや、事実そうしてたんだけど、なんつうか、モヤモヤして、勢いで買っちゃったんだ。結局、渡せなかったけど」

     あの頃の二郎が難しい顔をして複雑な気持ちでこれを、なけなしの小遣いで買ったのだと思うと一郎の胸はキュッと縮こまる心地がした。

    「今日、施設に行ったらなんか思い出してさ。今更だし安くてペラッペラなやつだし、小さいだろうから貰っても困るかもだけど……あの頃もっとちゃんと、兄貴と話してれば良かったって、思って。ゴメン、色々思い出して、今更渡すのも変なんだけど……」
    「んなことねえ」

     ありがとな、大事にする。
    どこか泣きそうな表情で胸へ抱き締めるように靴下を握り締めた一郎。

     その表情を見て、あの頃の兄を大事にしてあげたかったと強く思った。しかし後悔してもどうにもならない。これからのことを考えなくては。二郎はそう思った。この人をもっと喜ばせたい、
    そう思うのに、どうしたらいいか分からないのだ。

    「兄ちゃん、メリークリスマス」

     へらっと笑って、二郎は部屋へ戻ったのだった。


    2024.12.24
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