100日後にくっつくいちじろ63日目
「やばい……当分ケーキいらねぇ」
「ケーキくれたお客さん達には悪いが、確かにもう一年分食った気ィするな」
本日でクリスマス戦線は終わり。
一郎も最後のケーキ販売を終えて帰宅し、三人はリビングでラストのケーキをつついていた。味は大変美味しいのだが、いかんせんこの数日はケーキ三昧。味変しようと二郎がニンニクチップをかけたり、七味を振ってみたりしたが余計に甘さが際立って三郎にボロクソ酷評された。
「このサンタの砂糖菓子がキツい……甘い」
「やべぇ……夜にこんな、連日たらふくケーキ食って、流石に太る気がするわ」
「一兄はずっと昼間に立ち仕事してるんですから大丈夫ですよ……」
くったり、とテーブルに上半身を預ける三人。ケーキはあと半分残っている。
「明日にしよう。無理に食うもんじゃねえ」
「ですね……」
クリスマスは終わった。次は正月だ。年賀状は三郎が既に出力、手配してくれているし、お年賀の準備や挨拶周りの準備も問題ない……と、一郎の頭の中は既にイルミネーションから正月に切り替わっていた。年末年始の依頼はできる限り受ける予定であるが、こういうのは切り替えが大事でもある。それに家族でゆっくり……そこまで考えてハッとする。
「お前ら、年末年始は家にいるのか?」
「はい、僕はいます」
「二郎は?」
「あー、俺も家にいる」
二郎も三郎も明日から冬休みだ。友達と出かけたり、年越しをしたりするのかもしれない。そう思って一郎が尋ねたが、年末年始は自宅で過ごす予定らしい。二郎が続けた。
「でも初詣行こうぜって声かけられたから、二日とか行くかも」
「ああ、じゃあ三人で元旦に初詣行くか」
「はい」
「おう」
ゆっくり家族で過ごすことができそうだ。
冬休み、どこか三人で行けたらいいな、なんて話して、山田家のクリスマスの食事会およびケーキパーティは幕を下ろした。
「じゃあ俺、皿だけ洗っちゃうよ。二人とも先に歯磨きどーぞ」
皿洗い当番の二郎が立ち上がり、ケーキの皿を流しに下げる。お言葉に甘えて、と三郎が先に洗面所へ。スポンジで洗い流していると、ふと、兄が「悪い、これもいいか」とグラスを持ってきた。もちろん、と受け取ったとき。一郎は二郎の口元にクリームがついていることに気付いた。
「ついてるぞ」
無意識であった。一郎は何の気なしに人差し指で弟の口元を拭ってやった。しかし。
「うわっ!?」
びくっ、と肩を跳ね上げて驚きの声を漏らした二郎。目を丸くして、赤くなった顔で一郎を見た。
「あ……わり」
「え、あ、つ、ついてた?クリーム?」
「おう……」
「ご、ごめん」
「いや……」
過剰に反応してしまったことが恥ずかしくなり、二郎は顔をそらして手元を見つめた。
避けられているわけではない。二郎は今、整理する時間が必要なのだろう。そう分かっているのに、やはり感じてしまう距離が切なくて一郎は思わず後悔混じりの言葉を漏らす。
「ごめんな、どうあっても死ぬ気で隠し通すべきだった」
お前を悩ませちまって、悪い。
その言葉が聞こえて、二郎はピタリと手を止めた。顔を上げ、兄の顔を見ると苦虫を潰したような悲しそうな、申し訳なさそうな表情で俯いているではないか。それを目の当たりにした瞬間、二郎は自身の手が水で濡れていることも忘れ、兄の手を取った。驚きで顔を上げる一郎。
「ごめん!違う、俺、ちゃんと考えてるから……その、とにかく、兄貴は悪くない」
変な反応ばっかしてごめん、わざとじゃないんだ。
真剣な顔で言う二郎。その言葉を聞いて、一郎は少し驚きで目を丸くすると、眉を下げて笑った。
「ありがとう、二郎」
2024.12.25