100日後にくっつくいちじろ69日目
「蕎麦くうぞー」
「はーい」
夕方まで三人でおせちを作ったり、掃除をしたり。なんだかんだとバタバタしつつも山田家は大晦日の夜を迎えた。イケブクロの町も、人が比較的少ない。帰省している人間が多いのだろう。三人も買い出しを終え、夕方には暖房のきいた家で落ち着いた。
そして歌番組を見ながら、三人で蕎麦と天ぷらを食べる。
「あっという間だよな、一年って」
ずぞぞ、と蕎麦をすすりながら、二郎がのんべんだらりとそう言うと、三郎が冷ややかな視線を向けた。
「じいさんみたいなこと言うなよ」
「だってそうだろォ。早えよ」
「それだけ一年が充実してたってことだな」
「それ!さすが兄貴」
一郎が揚げた茄子と海老の天ぷらはサクサクで非常に蕎麦と合う。歌番組では今年、流行した曲がメインで流れてきて「この曲、好き」だとか「これ死ぬほど流行って一時期もう聞きたくなかったわ」なんて会話が飛び交う。
「明日、初詣いくか?」
「うん、いいね。どうせ何時に行っても混んでるし、朝ごはん食べたら行こうよ」
「そういえば、昼間に二郎のダチが何人かでデカイ鞄持って駅の方向かってったぞ」
「ああ、なんか遊園地で年越しするらしいよ」
「え、お前行かなくてよかったのか?」
「うん、じゃないと兄貴の蕎麦とおせち食えねえじゃん」
「食い意地かよ」
呆れた顔で二郎を見やる三郎。一郎はと言えばクリスマスもだが、イベントごとで必ず家族を優先する弟達に嬉しさを感じつつも、遠慮しているんじゃないかと思う気持ちもあった。しかし、それを言うなら兄貴もじゃないか、と二郎が箸を止めた。
「兄貴こそ、顔広いし、ダチとかに呼ばれたりしてない?」
「俺か?俺はねえよ」
「たまには羽伸ばしてきていいんだからね」
「はは、俺はお前らと過ごす正月が一番に決まってる」
「僕もです!二郎、お前は別にどっか遊び回ってきてもいいぞ」
「なんでだよ!俺も家で過ごすのがいいって言ってんだろ。まあお前は聞くまでもなく大晦日にオールで遊びに行くダチなんていねえもんな」
「うるさいな!」
「あーあー、大晦日まで喧嘩すんなお前は」
いつもどおりの休日、いつもどおりの時間。コタツの近くでは猫のハチが丸くなって寝ている。なんという平和な大晦日だ。互いに「遠慮するな」と言い合っているこの状況に二郎が笑った。
「つまり、俺達三人とも家族で迎える正月がイチバンってことだな」
一郎の中でも、二郎の中でも、まだやり残したことはある。それは今年に残していくことはできず、来年に持ち越して向かい合う必要のあることだ。しかし今日はそれも一度、横に置いておき、ゆっくり家族で新年を迎えよう。
「そうだな……少し早いが、二郎、三郎。来年もよろしくな」
「おう!」
「よろしくお願いいたします!」
2024.12.31 よいお年を!