100日後にくっつくいちじろ71日目
「いってきまーす」
「お土産にアイスよろしく」
「なんの土産だよ」
昨日、兄弟三人で初詣を済ませた二郎だったが、1月2日の今日、友人数人と初詣の約束をしていた。おせちの残りを朝、三人で食べて、正月特番を見ながら届いた年賀状を確認して、昼前に二郎は家を出た。初詣をして、近くのファミレスで食っちゃべって、飽きたらカラオケにでも行って……と後半がメインだったりするのだが。
二郎はクリスマスから年末にかけて兄の手伝いで忙しくしていたので、冬休みがはじまって以来の再会だ。おーす、と手を上げて挨拶を交わして御一行は初詣へ向かった。道が混んでいるので二人ずつ横に並んで歩く。二郎の隣は同じクラスのサッカー部の友人。
「聞いてよ、じろちゃん。年末、姉貴が家に彼氏連れてきたんだぜ」
「え、マジか。結婚とかすんの?」
「いや、まだ付き合い始めて一ヶ月だって!ありえなくね?気まずいし散々な年末年始だよ」
「それは……確かに気ィ使うかもな」
二郎は想像した。兄か弟がもし年末年始に恋人を連れて来たら。
「……いや、マジで確かに、ちょっと嫌だわ」
「だろぉ!?じろちゃんなら分かってくれると思ったわ」
「三郎が連れて来たらもうそれは結婚する気なんだ……って逆に受け入れちまうかもだけど、兄貴は……いや、兄貴もそうか……」
「確かに三郎君も一郎さんも気軽にノリで家に彼女とか入れなさそうだもんな」
三郎の場合は兄として、ピシッとせねば、と気を張る必要があるなと二郎は思った。しかし、一郎の場合はどうだろう。もし、彼女を連れて家に来たら。
「正月じゃなくても、嫌だわ」
「え?」
「兄貴が家に彼女とか連れて来たら、すげえ嫌だわ……」
「ハハ、でた!ブラコン!」
「いや、普通は嫌じゃね?」
「別に、連れてくるのはいいんだよ。年末年始が嫌ってだけで。それ以外なら好きにすればって感じ。あ、でも親とか俺の前でイチャつきはじめたらマジで嫌だけど」
「それは……見てられないってやつだよな」
「当たり前だろ!実の姉が女全開で彼氏とイチャついてるところとか……想像させんな!」
「イデッ!」
バシッと背中を叩かれる二郎。そうか、普通は「家族として、そういう一面を見たくない」という感情なのか。確かに三郎がデレデレで彼女に甘えている姿なんて見たくはないな。絶対に俺の前じゃしないだろうが。けれど、兄の場合を想像するとちょっと違う。「見たくない」という感情は一緒なのに、何がどう違うのか、明確に言語化はできないのだが。二郎は頭をかいた。
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「二郎ー、メシ行くー?」
「あ、わり、今日は帰るわ」
「おー、一郎さんの休みも長くないもんな」
「気ィつけろよー!」
サンキュー、と手を挙げて二郎は帰路へ着いた。家を出る時に三郎から言われたアイスのことを思い出す。買って行ってやるか、とコンビニに入りアイスコーナーを眺める。ついでに何か必要なものがあるだろうか、とスマホを開き一郎へメッセージを入れた。
『これから帰るけど何か買っていくものある?』
そのメッセージを送ったと同時に、既読の文字。え、と思っていると『何もないから大丈夫だ』と短い返事。
「兄貴、俺に何か連絡しようとしてたのかな……」
とりあえず二郎はアイスを三つ買ってコンビニを出た。
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「ただいまー」
帰宅するとリビングで二人が夕食の準備をしていた。三郎にアイスを差し出すと「わーい、お兄ちゃんありがとー」と棒読みの台詞を吐かれた。ラインナップを確認しながら冷凍庫にアイスをしまう三郎。
「二郎」
ふと兄に呼ばれて振り返る。ん?と聞き返せば、一郎は頭をおさえて小声で言った。
「すぐ既読つけちまったけど、ずっと連絡待機してたわけじゃねえからな……」
「え、あ、うん。何か連絡しようとしてた?」
「いや、何時頃帰ってくるのかと思って連絡しようとしたんだが、鬱陶しいかと思ってやめようと思ってたとこ、だった」
「あ、なるほど」
「だから、ずっとお前のメッセージに張り付いてたわけじゃねえから」
「いや、うん」
「キモいとか、思ってねえか……?」
おずおずと尋ねる兄に面くらい、二郎は目を丸くした。そしてプッと噴き出した。
「んなこと思ってないよ!」
ワハハ、と腹を抱えて笑えば一郎は気恥ずかしそうにバリバリと頭をかいた。
2025.1.2