100日後にくっつくいちじろ72日目
山田二郎は昼寝をしていた。
三郎は部屋にいて、兄は仕事の挨拶回りなので、ひとりリビングでテレビを見ている間に睡魔が襲ってきて、抵抗虚しく敗北したのだ。コタツにお腹まで突っ込んで、横向きになり、クッションを枕に30分くらい寝た。そしてふと、目が覚めたら目の前に白いパーカーがいた。一瞬、なんだ?と目を細めたが、だんだんと覚醒してきた頭で、目の前に兄が横になっているのだと理解した。向かい合って寝ている状態だ。どうやら兄は仕事から帰ってきたらしい。どうして添い寝のような状態になっているのかは不明だけど、隣に潜り込んできたらしい。横で、ハチがナア、と鳴く。すると
「しー、ハチ、シーな」
どうやら兄は起きているらしい。自分も起きてるし狸寝入りだけど。どうしたものか、二郎は少し悩んだけれど、とりあえず腕が痺れていることに気付いたので少し身動ぎした。すると、目の前の一郎がぴくりと動く。そして、コタツの中で足がトンとぶつかった。
「二郎……起きてんのか?」
二郎は返事をしなかった。なんとなく寝たふりを続行。
そして同時にぶつかった兄の足がヒンヤリと冷たかったことに気付いてしまった。きっと帰ってきたばかりなのだろう。二郎はもぞそもぞと動き、兄の足を自分の足で挟んだ。
「うわっ」
一郎の声が上がる。そして逃げようとするので、面白くなくて、体をぎゅっと近づけてみるといよいよ一郎は固まった。そして目の前にあった一郎の左胸に手を当ててみる。服越しなので分かりにくいが、微かにどくどくと心臓の音。それが普通より少し速くて、二郎は「あ、本当に俺のこと意識してるんだ」と改めて思った。どこか不貞腐れたような一郎の声が降りてくる。
「……おい、寝たふりか」
「いや、ついさっきまでガチで寝てた」
顔を上げると困った表情で二郎を見下ろす一郎。
「もう三が日も終わりだね」
「お、おう」
「もう少しこうしてゴロゴロしてたいよ」
「俺は……ちょっと勘弁だわ」
2025.1.3