100日後にくっつくいちじろ81日目
「兄貴、一緒に寝よう」
深夜、二郎は自室を出て兄の部屋へ足を踏み入れた。一郎はすでにベッドの中で寝息を立てており、返事はない。二郎はドアを閉めるとゆっくり、ベッドに近づいた。覗き込むと口元まで掛け布団を被って寝ている一郎が二郎の視界に入る。
「あにき、起きてよ」
スヤスヤと健やかに寝ている兄をこんな夜更けに起こそうとする鬼の所業。しかし二郎は構ってもらえないことを腹立たしく思っていた。起きて構って欲しい。そんな気持ちで掛け布団をバサっと剥いだ。しかし一郎は起きない。
「兄貴と一緒にいると最近、落ち着かないんだ。兄貴のせいだよ」
寝ている一郎へ苦言を漏らす。まるで子供が駄々をこねるように全てを一郎のせいにして不貞腐れている。肩を揺すっても起きる気配はない。とうとう二郎は痺れを切らせて、布団の中に潜り込んだ。そして横に転がり、兄の顔をまじまじと眺める。
「格好いい。この顔に口説かれて絆されない奴っているのかな」
タブン、いない。そう思った。だから仕方がないのだとも思った。
「三郎が言ってたんだ。兄貴のこと、誰より大事に思ってくれる人じゃないと認めないって。俺もそう思うよ」
そっと頬を撫でる。一郎は相変わらずスウスウと静かに寝ている。
「俺は、兄貴につり合う自信も、幸せにする自信もあんまりないんだ。実のところ」
タブン、普通に優しくて強くて可愛い女の子とか、そういう人の方と結ばれた方が幸せに思う。一般的に、普通に考えて。
コツンと額と額をくっつける。
「でもさ、そういう自信はないけど…大事にする自信ならあるんだ」
はっきりとそう口にして、二郎はその言葉を漏らした唇で目の前の唇を塞いだ。感触は分からなかった。
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「二郎、おはよう」
「おっ、おはよう……」
朝、リビングへ向かうと昼食の準備をしている一郎がキッチンにいた。
「おせぇぞ。もう昼前」
「寝過ぎたよ……」
「顔洗ってシャキッとして来い!」
「はい……」
二郎は洗面所に向かった。鏡の前で自身の顔を見て、何か変じゃなかったろうかと頬をつねる。そして両手を洗面台につき、がくりと頭を落とした。
「とんでもねー夢、見た……かっこ
2025.1.11