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    fuyukichi

    @fuyu_ha361

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    fuyukichi

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    100日後にくっつくいちじろ93日目


    「二郎、そろそろだぞ」
    「……うん」
    「三郎も、支度しろよ。な?」
    「はい……一兄」

     一郎は困ったような笑顔で二人の頭を撫でた。座り込む二郎と三郎の間には猫のハチ。
     今日は、見つかったハチの飼い主が、ハチを迎えに来る日であった。約束は17時。学校が終わり、即帰宅した二人は残りの短い時間をハチにべったりと寄り添い、過ごした。

     ハチのために揃えた猫用品をまとめる一郎。動物病院に連れて行った時に使った、ハチの匂いがついている猫用キャリーやクッション等を傍らに準備して飼い主の到着を待つ。寂しがる弟達。一郎もしゃがみ込み、ハチの小さな頭を優しく撫でた。

    「お前、随分と長いことウチにいたもんな」
    「……」
    「はは、うちの弟達のこんなショゲた面、久しぶりに見たぜ」

     首をかいてやるとゴロゴロ喉を鳴らすハチ。約束の時間まであと十分。一郎はキャリーの口を開けると、ハチを優しく中へ入れた。元からあまりキャリーを嫌がらないので非常に助かる。キャリーの口を閉じる前に、中に手を入れてハチを優しく二郎が撫でる。

    「元気でな、もう逃げ出すなよ」

     そしてピンポンとベルが鳴って、三人はキャリーを持って玄関へ向かった。

     自宅前の道路に停められた車から女性がひとり降りてくる。ペコペコと何度も頭を下げて今回の礼と詫びを伝えた。話を聞くと、飼い主の娘らしい。そして後部座席から年配のおばあさんが出てきた。彼女も一郎達へ「本当にごめんなさいね」と謝ると車を降りようとするので慌ててそのままでいいからと制止し、キャリーを抱えて彼女の元へ向かう。

    「ばあちゃん、こいつで合ってる?」

     事前に何度も確認を重ねたが最終の確認だ。二郎がキャリーの隙間からハチを飼い主へ見せた。すると彼女は皺の寄った顔をパアッと明るくさせ、涙ぐんでキャリーを受け取り、間違いないと頷いた。ハチも嬉しそうにナア、と鳴いて、完全に感動の再会だ。

    「今度はもう目を離さないようにしますので。母だけだとどうしても難しいんですが、今度から引っ越して私達もみんなで暮らすことにしたので。もうこの子も大丈夫です」

     飼い主が嬉しそうに表情を綻ばせ、娘もまた喜ばしく二人を見つめている。二郎は少しぼうっとその光景を眺めて、それから紙袋にまとめていたものを差し出した。

    「これ、ハチ……そいつが最近、気に入って食べてたやつで、こっちは爪とぎで……うちじゃ使わないし、匂いもついてるだろうから貰ってください」

     二人は二郎に何度も礼を言った。そして数分、話をしてそれから車のドアを閉める。
     おばあさんが窓を開けて「いつでも遊びに来て」とほほ笑んだ。ナア、とハチが鳴く声がして二郎は少し、涙ぐみながら「元気でな」と笑って手を振った。



    「いい人達だったな」
    「うん……」
    「娘さん達と一緒に住むって言ってたから、あのばあちゃんも、ハチも、きっと大丈夫だ」
    「うん」

     昨日までモヤモヤしていた二郎だったが、実際にあれだけ嬉しそうな再会を見せつけられては納得せざるを得なかった。寂しいのは事実だが、しかしすっきりした心持ちにもなって、薄暗くなってきた空に向かって伸びをした。


    2025.1.30



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