赤く染まった 蘭丸のうなじが真っ赤に染まっていた。
照れている、なんてかわいいものではなく、物理的なものだ。夏の直射日光を大量に浴びた──つまり、日焼け。
「うわー……ランラン、それ日焼けだよね? 真っ赤だよ」
「ん? あー、そう、シャワーがめちゃくちゃ滲みて痛くてな……」
たしか今日は外ロケをしてきたはずだ。蘭丸の白い肌は日に焼けると赤くなるだけらしい。とはいえヒリヒリと痛むので日焼け止めは塗るそうだが、がっつりと対策を怠らない一ノ瀬トキヤとは違って日焼けを気にしなさそうな見た目をしているからか、スタッフにそこまで気をまわされなかったのだろう。
「冷やしてる化粧水あるからパックしたらいいよ。持ってくるね」
「ああ、わりぃな」
大判のコットンパフと冷蔵庫から取り出した化粧水のボトルを持ち、床に座っている蘭丸の背後へまわる。襟元がざっくり開いた服を着ていたのだろう、うなじから首元あたりまでわりと広範囲に襟ぐりの形にまあるく赤くなっている。痛そう~と思いながら、化粧水を浸したコットンを貼っていった。
「ひぃ……つめてぇ」
「擦ったりしちゃダメだよ。ちょっとこのまま冷やしとこ」
「おぅ……」
もとが白い肌だからほてったり照れたりして赤くなると目立つのだが、そういうときは全体的にそうなっているのでこうやって赤と白の境目がわかるのはめずらしい。セックスしてるときとかに首筋が赤くなっているのをよく見ている。
こういう仕事だから痕を残さない、というのはお互いに確認しあっている。それでもたまに内腿の際どいところを吸われたり背中に爪痕を残してしまったりすることもあるにはある。……が、それにしたってぼくは痕を残さないように気をつけているのに、こんなに堂々と蘭丸の首元を赤く染めるなんて、真夏の日差しに嫉妬してしまいそうだ。
あ、なんかいまちょっと詩的だった。
「美白クリーム貸してあげるから、あとで塗っときなよ」
「んー」
「……ランラン寝てる?」
「ねてない……」
日光を浴びると疲れるものだ。快適な室温で蘭丸はおねむのようだった。こくりと頭が傾き、その身じろぎで貼っていたコットンがぺらりと落ちる。
冷やしたところですぐに引く赤みではない。いまだ熱を持って赤くなっている肌と元来の抜けるように白い肌。その境目がくっきりとぼくの目の前にあらわれた。
──たとえば、だ。
この赤と白の境目に吸い付いたら、どんなふうになるんだろうか。
その誘惑はぼくの身体を突き動かした。
目の前にある、赤と白の境目に唇を寄せ、きつく吸った──。
「おわっ?! 嶺二! てめぇ……!!」
「ぎゃあ!!?」
「……は?」
ヒリヒリと痛む肌をきつく吸われて驚いた蘭丸は勢いよく振り返った。痛む箇所をかばうように肩まであがった腕は、ちょうど蘭丸の背後に膝立ちしていたぼくの股間あたりに位置しており、振り返ったということは、その肘先が……。
「うっ、うっ……ぼくちんのちんにランランの肘がクリーンヒットしたぁ……」
「それは……悪かった。……いやまておまえが変なことしなければ良かったんだ。そこで反省してろ」
「ううっ、ひどい……ぼくちんのちんがぁ~。もうお婿に行けない……」
「尻でいけるからいいだろ」
「ランラン責任とってよ~」
「はあ?……いまさらだな、一生もらってやるよ」
床に崩れ落ちたぼくに覆いかぶさるように蘭丸が近づいてくる。視線が絡んで、あっキスされるなと思って目を閉じた。……どこにそんなスイッチありました? いやむしろ謝罪のキス? マジちんこ痛いんですけどー、キスなんかで許したりしますー、と思いながら腕を伸ばして首元に回した。ちょうど首の付け根から少し下あたり、赤と白の境目と思しきところに指が、指先が触れた。
「ひっ、いってぇ!! おまっ、ふざけんな!」
「めんごめんご」
「やっぱりそこで反省してろ!」
首元に回した腕を叩き落とされ、そのまま蘭丸はリビングのドアの向こうへと立ち去っていった。
ラグが敷いてあるとはいえさすがにフローリングに寝っ転がるのは体が痛くなってきたので、ソファの座面へもそもそと移動する。クッションを枕に横になり、このままうたた寝しちゃおうかなぁなんて思う。まだ股間は痛むのでそんな気にもなれないし。
ごろごろとしていると、コットンパックをはがして服を着た蘭丸が戻ってきた。腹冷やすぞ、なんて言いながらブランケットをかけてくれる。優しい彼氏すぎてどうしよう。でもちょっとその服はどうかと思います。襟元が詰まっているTシャツだと日焼けしたところが痛むのか、胸元が広く開いているタンクトップを着ている。
「ねーランラン~、ゆるいタンクトップだとちくび見えちゃうよ~。たっちゃう」
「寝言は寝て言え」
そんなのおそとで着ないでね?!