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    shizusato_xxx

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    shizusato_xxx

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    ◇ 今回のレギュレーション
    1.文字数
    なし

    1.言わせる言葉
    「自覚あるの?」

    2.登場させる小物
    日焼けのあと

    3.仕草、行動
    水着を脱ぐ

    #台葬
    taiwanBurial

    7月のお題 海 県境の長いトンネルを抜けると、視界いっぱいに海が広がった。照りつける太陽は南国を思わせる強さだが、空調の効いた車内は快適だ。
    「うわぁ、眩しい」
    「運転気いつけや」
     赤信号で停車した所で、ヴァッシュは車のサンシェードを下ろし強い日差しを遮る。刺す様な太陽の光は幾分和らいだ。

     海岸沿いの道をしばらく走り続けると、今の時期には予約も取れないほど人気のホテルに到着した。
     車がホテルのエントランス前に到着するやいなや、すぐにバレーサービスのスタッフがやってくる。
    「お車はこちらでお預かりいたしますので、必要なお荷物だけお取り下さいませ」
     丁寧な口調でそう言うと、スタッフは鍵を受け取りヴァッシュ達の車を預かり駐車場へと運んだ。ふたりともこんなサービスを受けるのは初めてで、荷物を手にしたまま思わず顔を見合わせる。
    「おいおいおい、場違いちゃうか?」
    「……僕、間違えちゃったかな」
     都心からも近い海沿いの観光地でも、最も人気があるホテルの一つだ。その理由は、ホテル目の前に広がる、砂浜がプライベートビーチである事だった。
     宿泊客専用のビーチは観光シーズンにもかかわらずゆったりと楽しむことができる。
     医師として日々の仕事に邁進しているふたりがちょっと背伸びすれば、ハイシーズンとはいえ部屋を確保することは難しくない。
     確かに頑張れば難しくは無いはずだが、一歩ホテル内に足を踏み入れたふたりは、その豪華さに圧倒されてしまう。
    「うっわ、えぐ」
    「いやぁ、これはこれは」
     まるで美術館の様な広いエントランスには、中央に噴水が置かれている。室内とは思えぬ水量を高い天井に向けて吹き上げては、涼しげな水音を響かせていた。
     海に面した三階ほどの高さをぶち抜いた壁は、総ガラス張りになっており太陽の光を反射した輝く海が一望できた。
     あまりの豪華さにぽかんとしていると、ドアマンが「受付はあちらにございます」と丁寧に告げられる。
     視線をそちらに向けると、広いエントランスの奥に受け付けカウンターが見えた。
    「いらっしゃいませ、ようこそお越し下さいました」
     美しい角度でお辞儀をしたカウンター内の女性が、柔らかい笑顔でふたりを迎える。
    「あの、えっと予約していた……ヴァッシュと申しますが」
    「ヴァッシュ様。ご予約ありがとうございます。お待ちしておりました。お部屋にご案内いたしますので少々お待ちくださいませ」
     名前を告げるだけでボーイがどこからともなく現れて、ふたりの荷物をカートに載せると部屋までエスコートする。
     通された部屋の入り口でふたりは立ち尽くしてしまう。そのふたりを横目に、ボーイはスムーズな動きで荷物を所定の位置にしまい部屋を後にした。
    「……ほんまにここか?」
    「案内されたから、間違いない……と思うけど」
     それでも自信なさげにヴァッシュは呟いて、忍び足で部屋の中へと進む。
     六人は座れそうな造りのソファと一枚板のどっしりしたダイニングテーブルが設置されている。広い部屋は優雅ながらも落ち着いてリラックスできる空間が広がっていた。
     ただ、恐ろしいのはこの部屋にベッドが見当たらないことだ。
     つまり、このリビングルーム一室限りではなく寝室は別に設けられているらしい。
     恐る恐る先に足を進める。視界に入らなかったリビングの向かいには、ミニバーが設置されている。普段はめったと呑むことが出来ない高価なボトルがずらりと並んでい様子は、圧巻だった。
     その奥の別室に仕事ができるデスクとキングサイズのベッドがどんと鎮座していた。
    「うぅわ、……えっぐぅ」
     今日数度目の「えぐい」を開いたままの唇から零したウルフウッドは、もう一度入り口からリビングを通って寝室までを往復する。
    「僕もまさか、ここまでとは……」
    「おどれ、知らんかったんか?」
     寝室に戻ってきたウルフウッドは、デスクに置かれたレジュメを手に取った。
     『小児外科シンポジウム 講演者 ヴァッシュ様』
     表紙にでかでかと書かれた講演者とヴァッシュの名前を読み上げたウルフウッドは、にやにやと相貌を崩す。
    「講演者やって」
    「もう、茶化すなよ」
     ふたりがこのホテルに泊まる経緯となったのは、明日この場でヴァッシュが所属している学会のシンポジウムが開催されるからだ。
     その中で、ヴァッシュも講演を一つ任されている。その兼ね合いで、予約を取る事さえ難しい人気のリゾートホテルに仕事の一環として宿泊する事ができた。
     学会のシンポジウムに登壇するのは、キャリアと役職共中堅以上の医師がほとんどだ。
     しかし、希に若い医師が特例的に選出されることがある。
    「忙しい仕事の合間に、よう論文なんか書けるなぁ」
    「臨床も大事だけど、研究も大事だよ」
     ヴァッシュが書いた論文が、海外の医療雑誌に掲載された。内容は基礎的な研究発表だったが、独自の視点が評価され話題となった。
     海外で評価されたヴァッシュの論文が海を越えて日本に届く頃には、執筆した本人が想定しないほどの注目を浴びることになった。
     所属していた学会が、当然それを見逃すはずが無く『海外で話題になった論文の執筆者が登壇する』と今回のシンポジウムの目玉にヴァッシュを据えたのだった。
     キャリアや実績がまだ伴わない若手の医師でも執筆した論文が話題となれば、嫌でも発表の機会は巡ってくる。
     その場がどれほど権威のある場になるかは、完全に運任せになる。ヴァッシュが引き当てたのがかなり大きなステージであることは、用意されたホテルのグレードから見ても明白だった。
    「せやかて、こんな立派なシンポジウムで発表するやなんて、ヴァッシュ先生は偉くなったなぁ」
    「客寄せパンダなんだよ、今日の僕は」
    「ま、そのおかげでこんなええ部屋泊まらせてもろて。わいはラッキーやけどなぁ」
    「プレッシャーだよ、こんな豪華な部屋……」
     今回のシンポジウムは、学会でも数年に一度開かれる大規模なイベントで運営も力を入れている。
     正式な依頼が入ると、ヴァッシュが所属する外科の教授は大喜びで快諾した。自分が主催する教室から、シンポジストが出るのは名誉なことだ。
     まだまだ新人と呼ばれても憚らないキャリアのヴァッシュが、直属の上司である教授が受けた依頼を断る事などできるはずが無い。
     しかも、用意周到な教授に発表の後は数日の夏休みを用意してやると勤務の調整まで整えられた。当然同僚の知るところとなり、皆から応援され、外濠は完全に埋められた。
     学会で発表デビューの場がこれほど華々しくなる者は少ないだろう。重責に潰されそうになっている恋人へ、ウルフウッドは励ます様に背中に手を置く。
    「あれだけ準備して、発表の内容も教授の太鼓判もろとるから大丈夫や。堂々としとけ。自信満々にステージに立っとったら立派に見える。そう言うもんや」
    「君が一緒に来てくれて良かった。ひとりだったら、逃げ出してたかも」
     責任感の強いヴァッシュが逃げ出すなんて考えられなかったが、ひとりだと間違いなく今夜は眠れなかっただろう。
     この予定に合わせて夏休みを取得したウルフウッドは、今にも泣き出しそうなヴァッシュの顔を見て笑う。
    「今日はしっかり準備して明日のシンポジウム乗り切ったら、わいらの夏休みやから頑張ろうな」
    「うぅ、……ありがとう。ウルフウッド」
    「おん。応援しとるで。終わったら、ふたりで海で酒飲んでのんびりしよな」
     それからふたりは、目の前のビーチもホテル内のバーの誘惑にも負けず、明日の準備に勤しんだ。

     発表当日。
     シンポジウムは十三時から十五時までの予定だ。発表者は事前の段取りも含めて少し早めに会場に入る。
     今日の出席者の中では、圧倒的に新人のヴァッシュが遅刻をする訳には行かない。慣れない事への緊張もあって、食事も早々に済ませてホテル内に設けられた会場へと向かった。
     真夏のリゾートには全く不似合いのスーツを着たヴァッシュは強ばった面持ちで順番を待つ。
     ここに来るまでも大変だった。
     来賓の教授とネクタイの柄が被ってる、色があちらの教授と被ってると、予備で持ってきたネクタイを次々につけかえる。
     気を利かせたウルフウッドが念のためと持たせてくれたネクタイが大いに役に立った。
    「最近の若い奴にしては、君は気が回るね」
     と思わぬ形で、ヴァッシュは名だたる権威である彼らに受け入れられた。
     五大医学雑誌でも名前を見かけたことのある、大御所に囲まれ、専門的な質問が矢継ぎ早に飛んでくる。
     昨晩ウルフウッドと想定問答を繰り返していたおかげで、なんとか彼らを納得させる答えを出すことができてホッとする。
    「今日は、君の発表を楽しみにしてたんだ」
    「君みたいな有望な若い子がいると、うちの学会も安泰だねぇ」
     などと口々に言われてしまい、対応にてんてこ舞いだった。
     発表前に散々と気を揉むことになったおかげで、ヴァッシュが登壇する頃には自然と肩の力も抜けていた。
     発表をしている間のヴァッシュの記憶はほとんど無い。スポットライトが眩しくて、びっしりと埋まった客席がほとんど視界に入らないのは救いだった。 
     その後の質疑は控え室で受けた質問に比べれば可愛いもので、滑らかに答えることが出来た。あっという間に持ち時間となり、司会が終わりの時間を告げる。
     割れんばかりの拍手を受けて、最後にもう一度客席に視線を向けると一番端の席で自分と同じようにホッとした顔をして拍手をしているウルフウッドの姿が見えた。
     その顔を見た瞬間にほっとして嬉しくなり、そちらにヴァッシュは向かって手を上げる。
     一瞬会場がざわついて、ウルフウッドの方へ視線が集まる。ウルフウッドが慌てて『早く戻れ』と手でステージの下手を差しヴァッシュを促す。それに気がついたヴァッシュも足早にステージを降りた。
     その後客席で見守っていた教授も大満足で「良い発表だったよ、後は夏休みを満喫してしておいで」と笑顔で会場を去った。
     
     
     大仕事をやり遂げがヴァッシュは堅苦しいスーツを脱ぎ捨てると、ふたりしてホテル目の前のプライベートビーチへ繰り出した。 
    「くぁぁぁぁぁ、この開放感!」
     すっかり重責から解放されたヴァッシュは大きく伸びをして叫ぶ。
     ホテルの目の前のビーチは粒子の細かな砂浜でサンダルを必要としないほど足裏に心地よい。
     シンポジウムの参加者のほとんどは、終わり次第すぐに帰宅する者ばかりなので、この時間にビーチに残っているのはわずかな宿泊客のみだった。
    「やっと、わいらの夏休みや」
     ホテルの部屋で水着に着替え、羽織ってきた服を脱ぐとふたりしてデッキチェアに脱ぎ捨てる。
    「わぁ、水着だ」
    「部屋で一緒に着替えたやろ」
    「いや、ビーチで見ると……なんか、ぐっとくる」
    「あほ言いなや」
     そんな風に言われて、頭から素足の先までを何度も視線でなぞられて、ウルフウッドは気恥ずかしそうに眉を寄せる。
    「おどれかて、水着やろ」
     そう返されたヴァッシュは、はっとして恥ずかしそうに自分の体を手で隠す。
    「ウルフウッドのエッチ」
    「なっ、わいがじろじろ見とるみたいな言い方すなや!」
     仕事が忙しいせいで、海に来たのも学生ぶりだ。ウルフウッドに比べて、ヴァッシュは元々の体質もあって随分色白だ。
     とはいえ、外科医は体力勝負だ。六時間以上立ちっぱなしで集中力を切らさずに執刀することもあれば、日に数件のオペを掛け持ちすることもある。
     実際、ヴァッシュの先輩や同僚の外科医達も仕事の他にフットサルのサークルに入っていたり、趣味でトライアスロンをしたりと活動的な人が多い。
     ヴァッシュ自身も仕事を始めてからずっと、ジム通いを続けていた。
     透き通る様な白い肌だが、均整のとれた筋肉がしっかりと付いていて、確かにウルフウッドは目のやり場に困った。
    「おどれ、そんなに色白かったか?」
     散々見ているはずのヴァッシュの肌だったが、太陽の下だとさらに白く見える。
    「そっかなぁ、普通だと思うけど」
     言いながらヴァッシュは、水着を少し脱ぐようにずらして、恥骨あたりの肌を晒す。きゅっと引き締まった腹と日焼けの跡もない肌の白さに、思わずウルフウッドが咳払いした。
    「あほ、いくら人おらんからって脱ぐな!」
    「いいじゃん、減るもんじゃないし」
    「スタイルええからって、自慢しなや」
    「え、ほんと? スタイル良い?」
     ウルフウッドが褒めると、すぐに調子に乗ってヴァッシュは恥ずかしそうに体を隠していた手を外して、ボディービルダーよろしくポーズを取る。
     ぐっと腕を曲げると、すらりとした上腕二頭筋に逞しい力こぶが現れる。スーツを着ている時にはモデルの様な優男風だったのに、服を脱ぐと鍛えられた体が現れる。
     このギャップは正直ずるい。分かっているし、何度も見てきたのにウルフウッドの心臓は毎回きゅんと高鳴ってしまう。
    「君も一緒にジム行こうよ」
    「昼間に子供らの相手しとったら、仕事終わりにはもうヘトヘトで無理や」
     そう言って言い訳をしたが、真剣に体を鍛えているヴァッシュを隣りに置いて、冷静にトレーニングが出来る自信がウルフウッドには無かった。
     普段優しい彼の男らしい一面に、とにかくウルフウッドは弱い。そして、自分でもしっかりとその自覚があった。
    「ちえ、気が向いたら考えといて」
    「そんなことより、せっかく海きたんやからちいと海入ろ」
     思惑を悟られまいと、ウルフウッドが手を伸ばすとヴァッシュは嬉しそうにその手を取った。
     波打ち際にふたりで並んで、素足を冷たい海に浸す。気温がぐっと高い分だけ、水温が低く感じて心地よい。
     ふくらはぎ程まで海水につかると、遠浅でずいぶん先の方まで透明で透き通った海が見渡せた。少し遠くに小魚が群れになっているのまで見える。
    「次は、仕事抜きで来ようね」
    「わいはただで泊まれるんなら、また学会の都合でもええで」
    「えぇ、もうやだよ。あんな緊張感」
    「次は、どこ連れてってくれるんやろなぁ。ヴァッシュせんせい♡」
     ゆっくりと傾き始めた日差しの下、ふたりはまるで子どものようにはしゃいだ。

     遊び疲れたウルフウッドが、そろそろ酒が飲みたいとヴァッシュをビーチに備え付けのバーに誘う。
     昨日は、今日の発表の為にこんな良いホテルに泊まっているのに、ふたりして断酒をしていた。リゾートホテルらしくビーチにいながらも、アルコールを楽しむことができる。
    「聞いたこともないカクテルばっかりや」
    「ほんとだ、メニューだけじゃわかんないね」
     馴染みのないカクテルの名称だけでは、何となくのイメージしか沸かない。使われているアルコールの種類から、何となく今の気分に合うものをウルフウッドは選んだ。ヴァッシュは、まだメニューを見つめて迷っている。
    「お待たせいたしました」
     流れる様な手つきでカクテルを仕上げたバーテンダーがウルフウッドへグラスを差し出す。
    「あ、ありがとうございます」
     まるくて大きなグラスに注がれた海を思わせる水色のカクテルをウルフウッドは、目を丸くして受け取る。
    「えらいのがきたで!」
     バニラアイスと三角に切られた皮付きのパイナップルがガラスの縁に添えられている。浮かれた様なミニパラソルと小さなスプーンまで刺さっていて賑やかだ。
     様々な角度から覗き込んで堪能してから、やっとグラスに口をつけた。
     普段飲み慣れない甘いカクテルだったが、遊び疲れた体にはぴったりだ。冷たくキリッと冷えたアルコールが身体に広がるのを感じて、ウルフウッドはたまらず息を漏らす。
    「くぅ……、うんまぁ」
    「うわ、おいしそう」
    「ほんまに美味い」
    「ウルフウッド、僕のために選んでよ」
     まだ、ヴァッシュは悩んでいるようでメニューを決めかねてウルフウッドに甘えるように言う。
    「ほな、ちいとまっとけ。それ飲んどってもええから」
     ウルフウッドは、自分の飲みかけのカクテルをヴァッシュに預ける。
    「いいの?」
    「今日はよう頑張ったから、わいが一杯おごったるわ」
    「やったぁ。ありがとう」
     水色のカクテルに浮かぶアイスが溶け始めていて、ヴァッシュは刺さったスプーンですくい取る。ウルフウッドが選ぶにしては、ずいぶん甘くて可愛らしいカクテルだった。
     ウルフウッドもヴァッシュと同じように、浮かれているのかもしれないと思うと嬉しかった。
     日が暮れ始めているとはいえ、まだまだ気温はずいぶん高い。カクテルに浮いているバニラアイスはあっという間に形を崩し始めている。溶けるスピードに負けない様にヴァッシュは小さなスプーンですくっては口に運んだ。
     食事も自慢のホテルだけあって、ただのバニラアイスなのに凄く美味しい。甘い物に目がないヴァッシュでも唸るおいしさだった。
     ほとんどバニラアイスを食べきった所で、ウルフウッドが可愛らしいピンクに染まったカクテルを手に戻ってくる。
     男らしくてクールで、硬派なウルフウッドには似つかわしくない、その可愛らしいカクテルに思わずヴァッシュの頬が溶ける。
    「わぁ、可愛い」
    「可愛いもん好きやろ」
     どんな可愛い顔してこのカクテルを注文したのかと思うと、ヴァッシュの顔は緩みっぱなしだった。
    「うん、実は好き」
    「知っとった」
     まるでドーナツの様な形の平べったいシャンパングラスには、透き通ったピンク色の液体が注がれている。
     イチゴやラズベリー等、いろんなベリーがたっぷりと浮かんでいるカクテルには、チョコレートのプレートが添えられている。
     甘い物が大好きなヴァッシュにぴったりのカクテルだ。
    「ありがとう、ウルフウッド」
    「ん、お疲れさん」
    「うん、ありが……ん?」
     グラスを手渡すウルフウッドが、気恥ずかしそうに視線を泳がせたのを見てヴァッシュは首をかしげるが、カクテルの真ん中に据えられた、チョコプレートを見てはっとする。
     かわいらしいハート型のチョコには流れるような筆記体で【HAPPY BIRTHDAY】と書かれている。
     ヴァッシュがそれに気がついたのを見て、ウルフウッドはやっぱりと肩をすくめる。
    「忘れとるやろ、おどれ今日誕生日やぞ」
    「え、あ、あぁ!」
     ウルフウッドに言われてヴァッシュは、情けない声を上げる。シンポジウムでの大役を仰せつかってから、今日までずっと頭がいっぱいだったので自分の誕生日はすっかり頭から抜け落ちていた。
     発表に向けて集中しているヴァッシュの邪魔をしないよう、ウルフウッドは今日までずっと見守っていた。
    「集中し始めたら、それしか目に入らんなるところは、昔から変わってへんな」
    「いつも、いろいろありがとう」
     こういう時に、恥ずかしげもなく視線を合わせて感謝の気持ちを告げられるヴァッシュの素直さがウルフウッドには眩しい。
    「お互い様や。それより、誕生日おめでとう。こっちこそ、いつもいろいろありがとうな。とりあえず、今日はゆっくり休んで、明日はいっぱい遊ぶで!」
     グラスを掲げるウルフウッドに、ヴァッシュはうなずくと、とびきり甘いカクテルを一気に飲み干して笑い合った。
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    GSでじーえすと読む

    DONE4月14日は、ヴァレンタインデーとホワイトデーに続く恋人たちが愛を深める日らしいので、台牧をオレンジと花嫁さんのような白いシーツでイチャつかせました。
    たくさんの人たちと出会って来たヴァッシュは、たくさんの花嫁に寄り添っては見送って送り出して、彼女たちが母に祖母になる姿も見て来たのかなと。自分の手には収まらない花嫁が、ウルフウッドが欲しくなったからプロポーズしたけど、結構頻繁に求婚してました!
    Orange キャシーは、両親や多くの友人に祝福されながら、長く想い合っていた幼馴染と幸せな結婚をした。
     ナオミは、親が決めた結婚相手と実際に会ってみたら、とても優しい人だったと安心して嫁入りした。
     メイランは、着の身着のままで従兄と駆け落ちし、ただ1人の立会人だけで彼と幸せな式を挙げた。
     ディーナの式では、早くに亡くした父親の代わりに彼女の手を引いてヴァージンロードを歩き、花婿に彼女を託した。
     祖母から、母から受け継いだウエディングドレスを着た花嫁もいた。
     ドレスを用意する余裕がなく、唯一持っている白いワンピースを着た花嫁もいた。
     ヴァッシュにとって、花嫁は見送る存在だった。幸せそうに微笑む彼女たちを、もっと笑顔にすることができる花婿へ花嫁を引き渡す。精一杯の祝福を、溢れんばかりの拍手を、死が2人を別つまで、この辛くとも乾いた惑星で幸せな日々を過ごせますように。
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