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    書き終わるかな(遠い目)

    ジンピン同棲ifゆっくりと、重たい瞼を開く。睡眠から覚醒したピンガの視界に真っ先に入り込んだのはシーツに舞い散るジンの銀糸。規則的な寝息と共に上下する肩を眺めながら無意識のままに手を伸ばす。銀糸を軽く触れるように掬い上げると、それらは容易く指から滑り落ちていく。就寝中だろうと絡まりのない長髪はピンガの手入れの甲斐あっての物だった。己を称えるように髪を撫でつけていると徐々に思考は晴れ渡り、満足気な様子でピンガは寝室を後にした。

    ゆとりのあるグレーのスウェットのまま洗面台に向かうと緩く髪を一纏めにし、顔を洗うと1日のスイッチが入る。リビングの扉を開けば、部屋は冷たさに包まれていた。日光を望みカーテンを開けば外には雪が舞い散っている。その様はピンガについ先程まで見ていたシルバーを想起させた。ふわふわと空から落ちてくる雪は、時間の流れも緩やかにする。呆けるようにしばらくその光景を眺めていると思い出したように寒気が襲い掛かった。その内目覚めてくる恋人の為にも暖房を入れると同時にキッチンへと向かった。

     朝食作りはピンガのモーニングルーティンの1つだった。静かな室内に鳴り響くのはリズミカルな包丁の音、コトコトと沸き立つスープの音、ベーコンエッグの脂が弾む音、コーヒーのドリップ音…それらの音色が奏でる数十分に及ぶ合奏に楽譜は無く、同じ音が紡がれることは無い。会場であるログハウスは雑音を吸収し、純度の高い柔らかい音色を反響させる。心地よく鼓膜を揺さぶる無二のメロディに即興でハミングを。男女の声を使いこなす声帯から発せられるは優しく温かいメゾピアノ。その歌声はゆっくりとジンの意識を浮上させていく。意識の狭間を揺れながら穏やかな音色に耳を傾けていると徐々に音が減っていく。朝食が完成に近づいているのだろう。覚醒しきっていない身体を引き摺る様にリビングに入ると、指揮者兼歌手の姿があった。

    「はよ」

    「…………あぁ」

    毎日朝食が完成に近づいた頃に目覚めるジンだが、その理由がピンガの歌声が聞こえなくなったからだということをピンガは知らない。ピンガに伝えて、恥ずかしいからとお気に入りの音色を奪われないようにするためだろう。ジンだけの秘密である。

    同じようにピンガにも本人に伝えていない秘密がある。大手製薬会社の株式会社烏間コーポレーション。その次期社長とも謡われ、時に厳しくしかし圧倒的なカリスマ性で部下や他会社重役からの信頼が厚いジンが、低血圧の影響か寝起きだけは思考も纏まらないような様子でいること。そのジンの様子は普段からは想像もつかないほどに穏やかだった。そんなジンの存在がピンガの秘密。覚醒しきってから来ればいいものを。そんな様子を見せてくれるほど信頼されていると思えば愛おしさと優越感がピンガの胸を満たす。

    「…っはは!重ぇよジン」

    突如として背中に感じる重量に笑いが零れる。廊下の寒さをわずかに纏ったジンの身体はピンガの体温と笑い声で温められていく。身長差から項垂れる様な態勢のジンがピンガの首筋に顔を埋めると、擽ったさからまた笑みが溢れた。長い髪は重力に従って滑り落ち、それを汚れないようにと片手で自身の身体に寄せたピンガは、空いた手で慣れたように出来上がったコーヒーを注いでいく。

    「ほら」

    「………ん」

    ジンはゆっくり顔を上げると、差し出された湯気立つグレーのマグカップを受け取った。無意識か分からないが、ピンガを抱き寄せるように首元に回した左手で受け取った為に二人の密着度は高まった。その状態のままコーヒーを一口啜る。熱すぎない深い苦みと芳醇な香りが駆け巡る。ドリップマシーンを奮発した甲斐があったものだ。少しずつ覚醒しているであろうジンを大人しく待っているピンガだが、マグカップを持ったまま再び体重をかけられ、中身が零れないようにマグカップの底を支える。
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