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    いつか出せたらいいなジンピン心中話の導入愛と情熱の国、ブラジル。
    リオデジャネイロで開催されるカーニバルは世界最大の見せ物のひとつとして愛され、無礼講のもとに行われる祝祭を人々は自由気ままに楽しんでいた。カーニバルが無くとも、日頃から街には陽気な音楽が響き渡り、強い自然光をスポットライトにダンスを踊る人々や、客を呼び寄せる店主の張り上げた声に包まれ、活気に満ち溢れていた。
    都市だけでなく、のどかな田舎もそれは同じだった。広大な土地を利用して行われる放牧飼育の牛の鳴き声が自然の音と合わさり、音楽として奏でられていた。
    そんな明るい街を少し進むと、陽気な雰囲気は一変する。
    違法住居が隙間無く立ち並ぶスラム街、通称ファヴェーラ。
    ブラジル全土に点在する愛も情熱も無縁なその場所から抜け出すことは容易ではない。ファヴェラドスと呼ばれる住人達は差別や偏見の目を向けられながら見えない檻に捕らわれ続けなければならなかった。捕らわれている感覚もないまま十分な食事を与えられ清潔な環境で飼育されている分、家畜の方が幸せなのではないかと誰もが考えていた。
    そんなファヴェーラに生を受けた、一人の小さな少年。太陽を反射する金の髪にぱっちりとした青い瞳はその地に似合わず、まさしく天使のようだった。
    少年が暮らすファヴェーラは特に酷く、目が合ったから、気に入らなかったから。そんな理由で怒号が響き、命が奪われる事が日常茶飯事だった。年中照りつける日光に蒸し焼かれ、地面に放置された死体は腐り、腐臭に覆われた街には蝿が飛び交っていた。
    「お、財布発見。ラッキー」
    「おい待て!それは俺が先に見つけたんだ!」
    「はぁ!?先に取ったのは俺だ!こいつは俺の物だ!」
    法に守られない彼等にとって全ての物事は自己責任。死体になれば、我先にと群がる生者に金目の物を奪われ、殺された方が悪いのだと放置された肉塊は見向きもされない。少年の生い立ちが悲惨だろうとも全ては少年の責任。捨てられたのか、誰かに殺されたのか、はたまた幼い自分が殺したのか。真実は分からないが、彼に両親が居ない事実は揺るがなかった。そんな自己責任の街で何も生み出せない無力な少年が生き残るには他者から奪うしかなかった。水も食料も命も。そうして自分と他人の血に塗れながら生き延びるしか無かった。少年にとって、殺しが、血が、日常だった。
    生を受けた少年が迎えた十度目の夏。突如として少年は日常に飽きた。ナイフが肉を裂く感触にも、肌に飛んでくる生暖かい液体にも。そして少年は新たな日常を求めた。ファヴェーラに蔓延る薬や大麻は一時的に爆発的な快楽をもたらしてくれるが、禁断症状で自我を失い、溺れていく人間を馬鹿にしていた少年にとって、それは日常にはなり得なかった。
    しかし、ある日ファヴェーラに迷い込んだ観光客から奪ったノートパソコンが少年の世界を変えた。有り余る時間に少年の集中力が合わされば6桁のパスワードの突破など容易だった。少年には少し大きく感じるその機械の中には無限の世界が広がっていた。
    ファヴェーラよりも、ブラジルよりも、比にならない程広大な電子の世界。0と1が作り出す無限に少年はのめり込んでいった。スポンジのように知識を吸収し、自分の能力に変えていく幼い脳はあっという間に成長し、いつしか少年の技術力に機械がついていけなくなってしまった。
    少年のやることは決まっていた。 奪うこと。
    都合の良い一人暮らしの人間を探し、殺し、設備の整った環境に身を置くこと。
    幸か不幸か、少年の端正な顔立ちは身なりさえ整えればファヴェラドスだとは気づかれず、市内を歩こうと色眼鏡で見られることは無かった。最初に見つけたのは大学生だった。親元を離れ一人暮らしをしているというゲームが趣味の青年の家には、無駄に七色に光るゲーミングパソコンがあった。涙を流している死体に見つめられたまま少年は新たな媒体で電子の世界を泳ぎ出した。しかし、数日も経てば登校しない青年を心配し友達が訪ねてきた。性能の良いパソコンに後ろ髪を引かれ、青年の友達の悲痛な叫び声を聞きながら少年はその部屋を後にした。
    何度も住処を変えたが、一番長く居座れたのは引きこもりの男の部屋だった。どうせ他人のパソコンだと、遠慮など一切なしで至る所にハッキングを仕掛け、その痕跡の消し方も身につけていく。勿論、最初の頃は消し方が甘く警察に住処が特定されたが、警官が見つけるのは腐りかけた死体のみ。誰も少年には辿り着けなかった。自分の力を試すように標的は徐々に難しくなっていき、ついにはファヴェーラ時代に偉そうにしていたBOPEのシステムにハッキングを試みた。いつの間にか少年の技術力は凄まじいものになっていたらしく、多少強引だったが突破出来てしまった。いつか役に立つかも知れない極秘資料を頭に叩き込み、その場を去った。精鋭達が現場で見たのはまたもや腐りかけの死体だけだった。
    少年が青年に変わり迎えた十五度目の夏。青年は質素だがアパート暮らしをしていた。ハッキングの痕跡の消し方をマスターした青年は渡り歩く必要を無くし、盗んだ金とパソコンで電子の世界をより深く泳ぎ始めた。最近の青年の趣味は人間観察だった。安全の為に町中に張り巡らされた監視カメラを利用し、気になった人間の全てを調べ上げることで無限に湧いてくる知識欲を満たしていた。
    そんなある日見つけたのは辺りを警戒し挙動不審な様子で裏路地に入っていく小太りの男。手には如何にもというようなアタッシュケースが握られていた。気になるが裏路地にまでカメラは無く、出てきた男の手から消えていたアタッシュケースを頼りに、会っていたと思われる人間を探す。その人間は存外簡単に見つかった。青年が拍子抜けするほどに。何かしらの取引を行ったその取引相手は、陽気な国に似合わず黒で統一された服に身を包んでいた。素性を調べ上げると、とある犯罪組織に所属していることを突き止めた。好奇心を抑えられない青年は危機感を感じながらもその組織のシステムにハッキングを仕掛けると、出てくるのは膨大な犯罪の数々。想像以上の量に慌てて痕跡を消そうとしたが、何を思ったのか青年はその手を止め、そのまま眠りについた。
    五日後、日が落ちようと暑さが残る残暑の夜だった。生きるために身についた第六感的危機感が青年の眠りを妨げた。不穏なオーラを漂わせる呼んでもいない客人はノックもせずに扉を蹴破り部屋に侵入してきた。
    闇夜に溶ける二つの影。サングラスをかけたずっしりとした体格の男と長身で細身の男。
    「おいウォッカ、このガキか?」
    「間違いありやせん、兄貴」
    室内にズカズカと進んでいく二人の姿が照明に照らされる。二人は漆黒のスーツに身を包み、先日見つけ出した男が所属していた組織の人間であることは容易に想像できた。その黒の中で一際目立つのは、照明を反射するシルバーの髪。ウォッカと呼ばれた男と並ぶと細身に見えるその男は厚い筋肉をコートで隠しているだけだった。暑さから多少気崩しているウォッカに比べて、コートをきっちりと羽織っている男に本当に人間なのかと疑いを向けてしまう。
    「お前が情報を盗んだ奴か」
    「そうだと言ったら?」
    氷すら敵わない程の冷たい翠を向けられながらも、青年は怯まない。座り心地の良いチェアにゆったりと凭れたまま一瞬視線を合わせる。突然の来客に怯むどころか投げやりな態度は、神々しさすら感じる男が握る拳銃の銃口が自らに向こうが変わらなかった。
    「殺せよ」
    起動されていない黒い画面を見たまま青年は言い放った。青年はまた飽きてしまったのだ。日常に。血に塗れた現実にも、電子の世界にも。
    生気が感じられない白い指に力が加わり、引き金が引かれる直前、甲高い着信音が静かな部屋に響き渡った。
    「兄貴、ラムからです」
    ウォッカはスマホ画面を見ると慌てて応答し、すぐさまスマホを男に差し出した。
    「…何だ」
    『兄貴』と呼ばれる男の声がウォッカに向けるものとは変化した。ウォッカの態度と極僅かに間が入った『兄貴』の応答に、通話の相手は立場が上なのだろうと推測した。さっさと弾丸を撃ち込んで未だ命を刻み続ける心臓を止めてくれないかと考える程には飽きが強くなってきた。それとも目の前の人間が新たな日常を提供してくれるというのか。
    「ふざけてるのか?」
    初めて感情が見えた男は怒りの炎を静かに燻らせていた。それは溢れる殺意にウォッカが思わず身を固まらせる程だった。今まで感じたことのない強さの殺意に青年は呆気に取られ、直後、胸が高鳴った。血が沸騰し、生命維持を放棄しようとした心臓が強く脈打ち興奮を抑えきれない。暑さを忘れる程に目の前の男に意識が奪われていく。
    「おいガキ」
    「……んだよ」
     通話を終わらせた男に呼ばれ、呆けた思考を切り替えて返事をする。青年を見下ろす瞳には怒り、呆れ、嫌悪。様々な感情が混ざり合っていた。
    「拒否権は無ぇ、来い」
     有無を言わさず踵を返した男はシルバーを靡かせながら歩く。光を反射し輝く銀糸は男を神たらしめ、徐々に闇に消えていく様は堕天のようだった。混乱しつつも青年を回収しようとするウォッカの横をすり抜けて、青年は真っ直ぐに闇へと向かう。
    この日、かつて天使だった青年は死神に導かれて堕ちていった。
    これは死神と呼ばれるジンと、死神に焦がれ地獄の深淵へと堕天したピンガが業火に焼かれるまでの話。
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