仗露道場2024/10/21「お肉」(2022/11/29お題) 朝起きて洗面所で顔を洗っていると、露伴が入ってきておもむろにパジャマを脱ぎ捨てた。
下着ひとつの大変眼福な姿に、しかしおれは努めて反応しない。昔うっかりニタついて、養豚場のブタでも見るような冷たい目を向けられたことがあるからだ。露伴はそのまま、片隅に置かれたヘルスメーターにスリッパ履きの歩を進めた。
毎日起きぬけに体重を測ることで、ちょっとした体調の変化に気づけるんだとか。もちろん、それも漫画のためだった。露伴の意識の高さはアスリート並みだ。
ピッと計測完了の電子音が鳴った。それに舌打ちが重なって、おれはタオルから顔を上げる。鏡越しに目が合って、露伴はちょっときまり悪そうな顔をした。
「……少し太った」
「え、全然そんなふうに見えねーけど」
「昨日今日じゃあなくってさ。二年ぐらいかけて一キロ増えたのが、どうやっても戻らない。歳のせいかな」
四十も近くなるとダメだな、なんて露伴は嘆いてみせる。
「別にンなこたねェんじゃあねーの? おれなんか、何かっちゃ二、三キロぐれーすぐ変わっけどなァ」
正月明けに職場でのトレーニングをキツめにするのは、もはや恒例行事と言っていいほどだ。そう話すと、露伴はあきれたように肩をすくめた。
「オフィスワークの仕事だったら、とっくにデブになってたんじゃあないの?」
「んー」
おれは下着姿の露伴を背中から抱きしめた。確かに、昔とはチコッと抱き心地が変わったかもしれない。青い実のように固く骨張った感触だったのが、わずかにやわらかくなった気がする。露伴の心とともに、身体のほうもおれに馴れてなじんだみたいに。
「そうなったらよォ、仗助くんへの愛は変わっちまうかい?」
「え?」
「だから、おれがデブになったらさ。デブじゃあなくてもハゲとか、水虫とか、インポとか」
水虫とインポは医者に行け、なんて真顔で言ってから、おれの腕の中で露伴はふっと苦笑した。
「……変わらないな、なにも」
「だろ? 依然問題はねェよ」
しっとりと熟れた素肌を楽しみながら、刈り上げたうなじに鼻先をうずめて露伴の匂いを堪能する。調子に乗ってチロッと舌を這わせると、途端に露伴はぶるりと身を顫わせた。
「あっ……、ン」
唇から色っぽい吐息がこぼれる。昔はここまで敏感じゃあなかった。感度そのものは同じでも、反応はもっと鈍かった。
でも、今の露伴はこの先にあるものを知ってる。これからおれが何をして、それが自分の身体にどう火をつけるかを、何ベンも体験して知り尽くしてる。
一緒に過ごした時間の分だけ、露伴もおれも変わっていく。それを愛せないなんてことがあるかよ。あんたの丸ごと全部、好きで好きでたまんねェってのに。
おれがそうささやくと、露伴はキラッとまだらの目を光らせた。
「じゃあ、ひとつ一緒に新しい体験ってのをしてみるかい? 今までシたことないようなことをさ……」
グレート! と前のめりになったおれに、露伴はいたずら好きの猫のように笑った。