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    らいむ

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    仗露道場2024/11/14「A」(2023/2/3お題)「あなたのイカサマを見せてください」
     いきなり露伴が言い放った。ジジイは目を丸くしているし、承太郎さんはやれやれと帽子のつばを押さえてる。おれはと言えば、最初のうちこそ「まーた始まったよ」なんてのん気していられたが。
    「仗助のイカサマはあなた譲りだと聞きました。恥ずかしながらぼくは昔、こいつにまんまとしてやられましてね」
    「わーッッッ‼︎」
    「いえ、それは不問に付すことにしたんですが」
     大声で遮ったおれをじろりと見やってから、露伴はふたたびジジイへと真顔を向けた。
    「というのも、ぼくから挑んだリベンジマッチでまたもや負けたからでして。観察眼には自信があったにもかかわらず、不甲斐ないことです」
     ああ、あン時の露伴はエロかったよなァ……と、状況も忘れておれは幸せな回想に耽った。未起隆がどこまで見たのか知らねーが——というか、未起隆があの後どうしたのかも知らねェ。サイコロに化けたあいつをおれが持ち出すわけにはいかなかったんだからしょうがねーよな——ひらきなおるしかなかったのをいいことに、ヤってヤってヤりまくった。「賭けに負けたのは口惜しいが……ま、もう一方の目的は達したな」と頬をバラ色に上気させ、濡れた唇で笑ってみせた露伴ときたら。おれが今まで見た中でもトップ五に入るエロさだったぜ。
    「と、言われてもの〜〜」
     ジジイはぼんやりつぶやいて顎ヒゲを撫でている。
    「君たち、何で勝負したのかの」
    「チンチロリンです」
    「チンチロ……?」
    「Cee-loだな。Four-Five-Sixとも言う。サイコロを使うヤツだ」
     承太郎さんがすかさず口を挟んだ。イカサマとかギャンブルとかやりそうもない人なのに、こんなことまで知ってるなんてさすがだぜ。
    「ふむ、知らんの〜〜」
     ジジイの返事は相変わらずゆっくりしている。オイオイ、ちょっと会わねェ間にまたボケちまったんじゃあねーだろうな?
    「ま、でもはるばるニューヨークまで、息子と義理の息子が晴れ姿を見せに来てくれたんじゃから」
     壁のでっかい本棚へとヨタヨタ歩み寄るのをハラハラしながら見守る。ここはジジイが持ってる「オフィス」のひとつだが、普段はあんまり使ってないらしい。慣れねー場所って、年寄りには鬼門なんだよなァ。大丈夫かよ。
     トラサルディーでの披露パーティにジジイは呼べなかった。おふくろとは会わねーほうがいいって点で、ジジイとおれの意見は一致していた。承太郎さんを一目見た時の話を聞いたらなおさらだ。いまさらジジイに会ったところでおふくろは幸せになれねーし——おれが思うに、それはジジイもおんなじだ。
     そーいうモンだって、ガキの頃からおれにはわかってた。だからこんぐれー、なんてこたねェ。強がりとかじゃあなくて、マジにそう思ってたんだ。だから露伴が新婚旅行はニューヨークに行くって言い出した時も、「おれに気ィ使うことねーから、露伴の行きてェとこに行こうぜ」って返した。
     すると露伴は最愛のはずの仗助くんを、養豚場のブタでも見るような目で眺めやった。
     ——誰がおまえに気なんか使うか、スカタン。ジョースターさんだよ。
     ——ろ……ッッ!
     ——どっちがヨメだかムコだか知らないけどさ、点数稼いどくもんなんだろ?
     つってニヤッとしてみせた露伴はめちゃくちゃカッコよくて、かわいくて、男前で……控えめに言っても最高だった。
     そんな幸せいっぱいな旅行で感動の親子再会を果たした途端、こんな爆弾発言をかますのはさっすが露伴だぜ。負けず劣らずくわせ者なはずのジジイがどう出るかだが、頼むから息子の幸せをブチ壊してくれるなよ。
    「ご要望にはお応えせんとなァ。露伴くん、これでひとつどうかね?」
     ニコニコと振り返ったジジイの手にはトランプの箱があった。あれっと思ったのは、その箱がセロファンに包まれていたことだ。つまり新品ってことで、なんで使ってねェトランプをオフィスに置いたりしてるんだろう。
    「なに、愛する息子相手にイカサマなんかせんよ。なんたって」
     初めて会った時より縮んだように見えるのは、たぶん気のせいじゃあねーんだろう。そんなふうに、確実に老いて弱ってってるはずなのに。
    「バレなきゃあ、イカサマじゃあないんじゃからの〜〜」
     好々爺そのものって感じのホンワカした笑顔で言いやがるんだから……我が親ながら、恐ろしいジジイだぜ。


     かくしておれは顔面蒼白になった露伴という世にも珍しいモンを見たわけだが、露伴は露伴でだからと引っ込む男じゃあねェ。そう、岸辺露伴は退かないのだ。どんだけ痛い目見ようとも。
    「いったいどうなってるんです? 頭がおかしくなりそうだ‼︎」
     髪をかきむしって露伴が叫んだ。気持ちはわかる。何ベンやってもジジイの手にはクラブのロイヤルフラッシュ。こっちじゃあスートのアルファベット順に強さが決まるらしく、つまり「最強」だ——と承太郎さんが相変わらずクールに解説してくれるが、おれとしては露伴の血管または小指がブッチぎれねーかが心配だ。
     ここに至ってようやくおれは気がついた。トランプが新品だったのは、「カードに細工とかしていませんよ」ってアピールだったのだ。そーいう証明の用意が「オフィス」に必要だってことで……マジにヤベーだろーがよォ、不動産王って商売はよォ!
     しかも相手は露伴だ。人間離れしたスピードで漫画を描く、つまり人並み外れた動体視力を持っている。スタンドだって見ることができる。そんなヤツが目を皿にして凝視してるってのに、これっぽっちもイカサマがわからねェってどーいうことだ?
    「ふう、ちょっぴりくたびれちまったよ。歳はとりたくないのォ。そろそろ、わしの勝ちってことでいいかの〜〜?」
     クラブのエースをポイと投げ出して、ジジイは自分で自分の肩をマッサージする。こーいうとこ見ると、それなりに歳相応なんだよなァ。静を引き取ってお役御免になった杖が、そろそろまた必要なんじゃあねーのって感じだ。
     テーブルに突っ伏していた露伴は頭を上げると、心底いまいましそーな目でチラッとおれを見た。
    「ええ、認めますよ……どうやらぼくは、あなたたち親子のイカサマにはどうやっても勝てない運命らしい」
     ふぉっふぉっふぉっ、てな感じでジジイが笑う。サンタクロースじゃあねーんだからよォ。前に会った時はいくらなんでも、ここまで絵に描いたようなジジイっぷりじゃあなかった気がするんだが。やっぱり、いいかげん歳なんだろうか。
     とかおれが思う間に、その笑顔のままジジイがおもむろに口を開いた。
    「じゃあ、報酬を頂くとするかのォ。露伴くん、このジジイに、仗助くんとの誓いのキスを見せてくれんかの〜〜?」


    「はああああああ⁉︎」
     承太郎さんが「うっとおしいぜ」と言わんばかりに片目を閉じたがかまってらんねェ。おれは窓ガラスも割れんばかりの大声を出した。横目で窺った露伴はといえば、逆に声も出ねーらしい。猫みてーにまんまるになった目をひたすらパチパチさせている。
    「な、何言ってんだよォ、ジジイ‼︎」
    「だってのォ、いっぱい写真見せてもらってわしゃとっても幸せなんじゃが、肝心のとこが写ってなかったんでのォ。息子の幸せをひとめ見たい、親心ってヤツじゃよ〜〜」
    「撮ってねーんじゃあなくてやってねーんだよッ! そーゆー会じゃあなかったんだって‼︎」
     そもそも、ズルズル同棲するなんておれのおふくろに申し訳ない、とか露伴が言い出したのが始まりだった。役所に出す紙があるわけじゃあねーから、その代わりにきちっと形で示したいって。おれは露伴さえおれを愛してくれるんなら他はどーでもいいタイプだが、露伴はある意味マジメなんだよな。あと、おふくろのことをすげー考えてくれる。そのくせ自分の親の扱いがぞんざいなのは、チコッとどうかと思うけど。
     つーわけでパーティでは正装も祝儀も断ったし、親も含めたゲスト全員をおれたちがもてなす形を取った。ケーキ入刀も友人スピーチもなしで、下品な余興なんてもってのほか——てのは、おれの職場の人間を呼ばなかったためもあるだろうが。指輪の交換はやったけど、それだけはっておれが希望したからだ(露伴には、相変わらず少女趣味だとからかわれた)。最後に露伴が超マジメな挨拶をして、おれは特に話すこともねーんで露伴が大好きだってことだけ述べて、ごくなごやかに幕を閉じた。
     そんなおれたちに向かって、は、は、初めてのチューとか……正気かこのクソジジイッ‼︎
     ま、本音を言うなら、おれはうれしい。なんせ仗助くんは発想が乙女チックなもんで、正直そーゆーのにあこがれる気持ちはチコッとある。ただ露伴は、たとえおれが女だったとしても、人前で見せ物みてーにキスなんか死んでもやらねェタイプだろう。つっても外では他人行儀に振る舞うってことでもなくて、よくわかんねーが露伴の中の「つつしみ」の基準によるらしい。アオカンにはノリノリでも誓いのキスは断固として拒否する男、それが露伴だ。
     こーいう時こそおれが露伴を守んなきゃいけねェ。そうは思うんだが……顔を上げた途端、情けねーけど心が折れそうになった。ジジイは相変わらずニコニコしてっし(好々爺ってヤツだよなァ、なんておれは二度と思わねェ!)、承太郎さんが——何考えてんだかマジに理解不能だが、あの顔、ありゃジジイにつく気だぜ。てことは、クレイジー・ダイヤモンドで壁をブチ壊し抜けてトンズラすることもできねェ。万事休すってヤツだ。
    「仗助」
     露伴がおれを呼んだ。さぞ怒り狂ってんだろなァと思いきや、意外とその瞳は静かだ。
    「ろはん……」
     不甲斐なさを詫びる気持ちで応えると、露伴はつと睫毛を伏せた。そこからふたたび覗いたの瞳には、いつもの露伴の強い光が宿っていた。
     仗助、ともう一度呼ばれる。おれはごくりと固唾を飲み込んだ。
    「やるぞ」


     ファーストキスの時だって、ここまで緊張しなかった。
     つーかあン時はとにかく露伴に告白して、判決を待つみてーな気分でいたらいきなり向こうからキスされて、何が何だかわからねーってのが正直なとこだった。直後におれからの初キスもしたけど、露伴に受け入れてもらえた夢見心地で、これまたそれどころじゃあなかったし。
     露伴の右手が伸びてきて、なじみの少し低めの温度が左頬に触れる。ほぼ同時に、左手で後ろ頭をぐっと押された。どんどん近づいてくる唇に、おれはほとんどパニック状態だった。うわーッ、うわーッ、うわーッ、なんて無意味な悲鳴が頭ン中を駆けめぐる。
     キスってどーやるんだっけ? 急に、そんなことがわからなくなる。今朝だって起きぬけに、ゆうべの名残りで裸のまんまの露伴の肩を抱き、「おはようのチュー」にしては濃いヤツを華麗にキメてきたってのに。
    「ン……ッ!」
     飲み込まれた息と一緒に心臓止まったかと思った。露伴の匂いがフワッと鼻へ抜けて、その途端にスッと心がほどけるんだから現金な話だ。こわばっていた身体から力が抜けて、露伴の唇のやわらかさと唾液の甘さを認識した瞬間、脳内麻薬がドッとあふれた。
     心が通じている……露伴の心がおれの心に流れ込んでくる……幸せが、輝いている……ッ!
     何分経っただろう。チュッとひそやかな音をたててとうとう唇が離された時、おれはほとんど腰砕けになっていた。ガキみてーに真っ赤になってるのが自分でもわかったが、恥ずかしいとは思わない。大好きなヤツとキスしたら、誰だってそーなるってモンだろ。
    「ご満足いただけましたか、ジョースターさん?」
     涼しい顔で露伴が尋ねた。つつしみもへったくれもねェ特濃ラブシーンの直後だってのに、仗助くんのスイートハートは相変わらずグレートにイカレてるぜ。
     だが、ジジイのほうもしれっと笑って何度もうなずいていやがって、ヨメ舅だかムコ舅だか知らねーが、こいつらマジに「混ぜるな危険」級のヤベーヤツらじゃあねェか? こんなのの間に挟まれて、おれの人生、今後一生平穏なんてことはありえねーんじゃあ……。
     とどめのように、承太郎さんが「やれやれだぜ」とつぶやいた。
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