仗露道場2024/11/16「添い寝」(2023/2/5お題) ぼくたち——ぼくと仗助が暮らす家には寝室が四つある。
もとはぼくがはたちで独立した時に建てた家で、その時からぼくは二階の主寝室を使っている。数年後に仗助が越してきて、三階の客間をあいつの部屋にすることになった。
つまり仗助にはちゃんと私室があるし、それ以外にも寝る場所には事欠かないってことだ。だというのに、それらは数えるほどしか使われたことがなかった。
そんなに仲睦まじいのかと問われれば、ま、おおむねはそのとおりだが、ぼくはこのとおりの性格だから、時に盛大なケンカになる。だがそんな夜も、ぼくたちはひとつのベッドで眠るのだった。一日で仲直りするなんてことではむろんなく、それどころか何日も冷戦状態が続いても、これだけは互いに変えることはない。
もちろんぼくは、少なくとも最初は、好きこのんでこんなことを始めたわけじゃあなかった。容易に想像つくだろうが、同居後初めての大ゲンカでは「出てけ!」とか「顔も見たくないッ!」とか衝動のままに言い放った。そしたら仗助は、それまではムッとしたりあせったりしょんぼりしたりと豊かだった表情をフッと消して、氷のようにつめたい真顔になったのだ。
——おれはよォ、そんぐれー予想してたんだよ。
——はあ⁉︎
——「顔も見たくないッ!」とか、露伴なら言うだろーなァって。そんで、あんたに何言われても、おれは平気だって思ってた。
——な……にを……。
——けど、ダメだわ。それだけは許せねェ。あんたのそばから消えろって、それだけは、おれはぜってー受け入れねェッ‼︎
クレイジー・ダイヤモンドとはよく言ったもんだ。その時ぼくたちは寝室で口論していたんだが、仗助のヤツは言うが早いかあのイカレたスタンドを出すと、特注で入れたばかりのイタリア製ベッドを粉々にブチ壊した。そして、ぼくの身体が半ば埋め込まれた状態でそれをなおすと、「続きは明日な」なんてほざいてとっとと寝息をたて始めたのだ。
ぼくはと言えばもちろん驚いたし、ほとほとあきれ返ったし、はらわたも煮えるほどムカついた。
だいたい、こんなことして何になる。身体だけ隣に置いたところで、目下のぼくの心は一ミリも仗助に寄り添ってないし、その身体すらなんとでもなる。ヘブンズ・ドアーで「ベッドを元どおりにして部屋から立ち去る」と書き込めば、こいつを追っ払うことなんか簡単なのだ。
それでぼくをやり込めたつもりかよ、クソッタレ。そっちがクレイジーならぼくのスタンドだって、伊達に「最凶」とか言われてないんだ。
そう吐き捨てたぼくの怒りは心底からのものだったし、実際にヘブンズ・ドアーを発現し、あいつの顔を「本」に変えて、そのページに指先を置くところまではした。だが——そこから先へはどうしても進めることができなかったのだ。
結局、ぼくはスタンドにあいつの布団をひっぺがさせ(ちなみに季節は真冬だった)、身動きできない自分に頭からそれをかぶせてふて寝した。
それ以来、ぼくたちは特段の事情がない限り、必ず同じベッドで眠るようにしている。ちなみにぼくの取材旅行とかあいつの夜勤とかは、「特段の事情」には含まれない。はなから物理的に、ともに寝るのは不可能だからだ。
ではどんな場合かというと、まさに今夜がそうだった。いま現在ぼくは二階、あいつは三階で横になっている。それというのもあいつがインフルエンザにかかったからだ。ちなみに今回が三度めで、つまりあいつはだいたい五年に一ペンぐらいの頻度で何らかのウィルスにしてやられては、ベッドをブチ壊すほど愛してやまないぼくの添い寝を棒に振っているわけだ。バカだよなァ。
そもそも、気合いも備えも足りないんだよ。日頃から生活習慣を整えて免疫力を高めていれば、そうそう感染したりはしない。ぼくなんかこの十五年間、これといった病気知らずなんだぜ。あいつの隣に寝られないようなことには、一ペンだってなってないってのに。
「……」
くそっ。ふざけるなよ、まったく。ヘブンズ・ドアーで今度はあいつ自身をぼくの隣に埋め込ませてやろうか。
ぼくは布団を頭からかぶると、広すぎるベッドに丸くなってふて寝した。