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    らいむ

    @lemonandlimejr

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    仗露道場2024/12/1「匂わせ」(2023/2/27お題)「相ッ変わらずよォ、シャレオツな匂いプンプンさせてやがってよォ。鼻が曲がりそーだぜッ」
     出会いがしらにぶつけるにしてはずいぶんなセリフである。温厚を自認する仗助だが、さすがにこれにはカチンと来た。「あぁ⁉︎」と目つきを鋭くして凄む。
     すると、噴上裕也はヘラッと笑って両の掌を胸の前に立てた。
    「ほんのジョーダンじゃあねーかよォ。男がちっせーことにこだわるもんじゃあねーぜ、なあ?」
    「……」
    「いつもながら仲良くって何よりじゃあねーかって、そー言ってんのよ、オレは! オメーからセンセーの匂いがプンプンしてるぜェ? センセーも、見かけるたびにオメーの匂いさせてっしよォ。ほんとオメーら、オレと女どもの次ぐれーに仲イイよなァ」
    「……オメーよォ」
     仗助は低くうなり声を出した。
    「やっぱケンカ売ってんだろ、コラ」
    「はあ⁉︎ なんでそーなる」
    「露伴は一昨日からいねーんだよ。取材行ってる」
     口に出すと寂しさが募って、仗助はがっくりうなだれた。
    「なんだよ、それで憂さ晴らしに飲んだくれに来たってか?」
    「うるせェ」
     昨日は仕事があったから気も紛れたが、休みの今日はひとりの家に耐えかねた。考えてみれば、仗助にはこれといった趣味がない。三十も近くなってTVゲームにしゃかりきになるのもなんだし、山登りも球場通いも映画観賞も露伴がいればこそだ。料理をする甲斐もなくなって、億泰おすすめの居酒屋へと自堕落に足を向けたらこれだ。
    「オメーこそ、こんな時間からひとりで飲んでやがるんじゃあねーか。三人もいてフラレたのかよ」
     感情的な暴言は、裕也に「ばぁーか」と鷹揚にいなされた。
    「いっくらオレを愛しててもよォ。あいつらの人生、そればっかりじゃあねーんだよ。仕事、ダチ、家族、いろいろあらァな。そーいう時こころよく送り出してやるのも、愛ってモンじゃあねーかよ、なあ?」
    「……」
     仗助は運ばれてきた大ジョッキをむっつりと受け取った。オメーの相手はフツーのヤツらだろーがよ、という思いがある。あんな鉄砲玉みてェな人の帰りを毎度ハラハラしながら待つおれの気持ちが、オメーにわかってたまるかってんだ。
     裕也はサワーをチビチビやりながら、のんびりタバコを吹かしている。仗助はテーブルの上のセブンスターのボックスから勝手に一本抜き取ると、傍らに転がっていたライターで火をつけた。
    「てめー、オレのタバコをッ……てオメー、吸うの?」
    「露伴がいたら吸わねーよ」
     職場の付き合いでスナックなんかに行く時は、たまに吸ってみせることがある。口をきかなくても間がもつのと、同僚からの「ちっとツラがいいからってスカしてんじゃあねーよ!」とかいうよけいな非難をかわすためだ。ただ、そんな夜の露伴は必ず「クサいッ」と顔をしかめるし、おかえりのキスだってさせてくれない。
    「ふーん」
     ふてくされる仗助へ、裕也はニヤニヤしてみせた。
    「センセーも、あれでけっこーヤキモチ焼きなのな」
    「はあ?」
    「ヤニくせェ時のオメーは、女に絡まれてきたってこったろ。それが我慢ならねェなんて、カワイイとこがあるじゃあねーか」
     裕也の言うとおりなら泣いて喜びたいところだが、徹底して冷たいあの対応を見ていたら、とてもそんな楽観的にはなれない。やさぐれる仗助へ、裕也は「なあ」ともう一度呼びかけた。
    「オレはオメーらからお互いの匂いがするっつったけど、文字どおりの意味じゃあねーんだぜ?」
    「……」
    「センセーの匂いがオメーにくっついてるわけじゃあねェ。んだ。そーやって、ケンカしたりよろしくやったりしながら一緒に暮らすうちによォ、オメーの匂いとセンセーの匂いが混ざり合って、オメーらの匂いになってんだよ。そいつァ、いちんち二日離れてたところで消えるもんじゃあねェ」
     ミケランジェロの彫刻の美貌が、前よりタレ目になったという目尻をさらに下げて、優しくこっちを見つめている。気恥ずかしさも手伝って、仗助は顔を覆うように持ち上げた右腕に鼻を寄せると、スンと息を吸ってみた。
     いつもの匂いしかしない。裕也が語るようなことは、仗助にはまるでわからない。
     それが、日常になるってことなのかもしれねェ。アルコールとニコチンにぼんやり酔った頭で、そんなことを考えた。
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