仗露道場2025/1/9「デート」 (2023/3/31お題) 一緒に映画を(しかも、同じヤツを一日に二度も)観たことがある。だがそれは作ってしまった借りを返すのと、大事な漫画の取材のためだ。
美術展に行ったこともある。新聞屋にもらったというチケットを「露伴、こーゆーの好きじゃあねェ?」と差し出されたからだ。もちろんぼくはブタに真珠のスカタンなんぞおかまいなしで絵に見入ったし、その後食事に誘ったのだって、四つも歳下のヤツにチケットを奢られたままなんて我慢ならなかったからにすぎない。
それからも、先輩に子どもが生まれたからお祝いの品を見立ててほしいだの、母親を連れて行くレストランの下見だの。あげくのはてには「紅葉がキレーだって聞いたから」なんてのもあった。ぼくのほうも重い物を買ったり、デカい荷物を運ばなきゃならなくなったりした時は、そういう使い立てはどーなんだろうとちょっぴり反省しつつ、まァあいつは楽しそうだし、ぼくだって楽しくなくもないし、礼にとそれなりのメシを食わせたりしてるんだからダメじゃあないだろ、なんて毎度自分に言い訳しながら携帯を開いていた。
いつの頃からか、そんな日には何を着て行くか悩むようになった。いや、身なりには日頃から気を配ってるぜ? だからこれは、そーいう当たり前の社会常識とはまた違った感情だったってことだ。
今日のはデートなんだろうか。いやぼくたちつき合ってないし、ていうか未成年とつき合えるわけないし、他の目的だってちゃんとある。だから断じてデートじゃあない。
とかって一生懸命自分に言い聞かせながら、いそいそ出向いてたってわけだ。だから、いつが君との初デートかって訊かれても、質問自体がなんだかピンと来ないんだよなァ。
「……って」
カフェ・ドゥ・マゴが改装休業するらしい。たまたま寄ったらそんなお知らせが目に入り、せっかくだからとつき合い始めて最初のデートで座ったテーブルを選んだ。これもなくなっちまうのかー、高校ン時にはもうあったから十年近く経つわけで、しゃーねェかもしんねーけどさびしーよなァ、なんて嘆いたおれに対し、露伴ときたら涼しい顔で「そうだっけ?」とのたまった。
オイオイオイオイ! とおれは思わず、露伴のお株を奪って詰め寄った。
「てんめー、覚えてねーのかよッ! 記念すべき初デートをよォ」
ま、こいつはこーいうヤツだ。悪気はねェのよ、悪気はよォ。なんだかんだ言って、ちゃんとおれのこと好きでいてくれてるし。そこんとこの熱量にチコッとギャップがあるのは、性格の違いってヤツなんだからしかたねェ。
仗助くんはわかってる、わかってるけど……やるせねェ気持ちになるのは、これまたしかたねェってモンだよなァ
血相変えたおれに、露伴は何が問題なのかわからないってツラをして——別段なだめる感じでもなく、ペロッと語ってみせたのだ。
顔が熱ィ。あまりのことに頭を抱えてがっくりくずおれてしまったおれに、露伴は「オイ、どうした?」とかまったく平静な声で問う。
マジに……露伴にだけは、何年経ってもまるで敵う気がしねェんだ。