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    dh12345600m

    @dh12345600m
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    dh12345600m

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    ケーキバースを可愛く仕上げたかった。

    みたらし団子とケーキと独歩「むむむ……」
     俺っちの最愛の人は、なんだか難しい顔をしてみたらし団子を咀嚼している。名の知れた有名店のものらしいから、不味いことが理由ではないと思うのだが。
     串に刺さっていた団子の2つから、とろりとした蜜が独歩の手へと滴り落ちた。指先を汚すそれを舐めとるが、独歩がなぜそんなにも悩んでいるのかのヒントは得られない。なぜならば、俺っちが【フォーク】だからだ。人口の数パーセントしかいない【フォーク】は、同じく人口の数パーセントしかいない【ケーキ】の体液にしか味覚が反応しない。砂糖と醤油を煮詰めて作った粘り気は、俺っちにとって無味無臭だ。液体ノリを舐めているのと何ら変わりない。
    「どしたん?」
     俺が声をかけると、どこか遠くを睨みつけていた瞳がこちらへ向けられた。途端に、夕暮れの海を模したようなそれがへにょりと悲しそうな形に歪められる。
    「お前はケーキ……というか、俺の味しか知らないんだよな?」
    「そだよん」
     幼い頃から独歩に執着していた俺は、ずっと独歩の体液を摂取し続けてきた。幼い頃に涙や汗を舐めとる所から始まり、恋人になってからはキスやセックスの時も独歩を味わうことを許容してもらっている。
    「……美味しいか?」
    「そりゃ〜、美味しいに決まってんじゃん。一般的にケーキ味って言われてるけどぉ、甘くて味わい深くて多分本物のケーキよりも美味しいと思うぜ〜!」
     満面の笑みを浮かべてみたが、独歩の表情は曇ってしまった。そのまま頭を俺っちの胸板に押し付けて来たので、不要になった団子はプラケースに戻ってもらう。
    「……今日な、新人が団子好きな先生にみたらし団子を差し入れようとして、桁を一つ間違えて誤発注したんだ。山積みになったみたらし団子を社員総出で平らげた。それでも残ってしまって、持ち帰らされた訳だが……」
    「あっちゃ〜。夕食がいらない理由はそれだったか〜」
    「お昼もみたらし団子、おやつもみたらし団子、夕食もみたらし団子。帰宅後もみたらし団子。……昼食で何本か食べた頃には飽きてしまって、今はもう見るのも嫌だ」
    「にゃはは〜、災難だったな!」
     ふわふわの赤髪を優しく撫でてやる。食いしん坊で子供舌の独歩ちんには辛い1日だったに違いない。それに、レシピの材料や調味料を毎回きっちりと計って作る料理を食べ、「美味しい」と顔を蕩けさせている独歩が見られなかったのも俺っちにとっては大きな損失だ。俺っちが感じない味覚をフルに活用してくれる独歩の食事風景を眺めることは、味覚を感じない俺っちの代替え行為でもあるからだ。────ここん所は独歩に内緒だけど。
     俺っちが思考を飛ばしていると、まるで海を切り取ったかのように青い瞳が潤んでいく。
    「それでな、一二三は俺の味に飽きないかって不安になったんだ」
    「飽きぃ〜?」
     俺っちにはなかった発想だ。本気で意図が分からなかったから、語尾のイントネーションを上げて続きを促す。
    「ひとえにケーキといっても、個人差があって微妙にフォークが感じる味が違うらしい。何人かのケーキに体液を提供してもらっているフォークもいる」
    「そういう人も居んね〜」
    「食べ比べるのは味に飽きるからだろ? 例えば俺が瞬間的にケーキからみたらし団子味になれたら、一二三は俺で満足できて、一生他の人を求めたりしないのにな、って……思った」
     回りくどい言い方ではあったが、独歩の言い分が理解できた。俺っちが独歩に飽きて他に目移りしないか不安になってしまったらしい。
     きっとあの停滞タイムは「みたらし団子味になれ」とでも念じていたに違いない。俺っちの最愛はなんていじらしいんだろう。内から溢れる感情に口元が緩んでしまって、むにむにしていた口はついに吹き出してしまった。
    「わ、笑うことないじゃないか! 俺は真剣に言ってるんだぞ!」
     講義のためにこちらへ向いた顔は真っ赤だった。目を細めてツンと薄い唇を突き出す。
     好き。可愛い。愛おしい。食べてしまいたい。そういう気持ちを抱くのは、生まれてからずっと独歩にだけだ。
    「俺っちさぁ、今はフォークで良かったな〜って心底思ってんだよね〜」
    「は?」
     俺っちの半生を共に過ごして来た独歩には納得できない内容だろう。味覚を感じない弊害はあまりにも大きいし、ケーキを襲うことがあるフォークは社会的に嫌厭されてしまう。
    「どういう意味だよ」
    「一生独歩の味だけで満たされるって幸せすぎん!?」
    「……お前……。飽きないのか?」
    「んーん。むしろ、もっともっと欲しい」
     隙あり、と独歩の唇を啄むと、ほのかな甘みを感じた。俺っちにとっての幸せの象徴だ。こんな極上の味を知っているのに、わざわざ他なんて必要ない。けれど、独歩にはフォークの感覚が理解できない。言葉を尽くさなくては伝わらないだろう。
    「俺っちにとってのちゃんどぽの味はぁ〜、毎日好物食べてる感覚……って言ったら分かる?」
    「毎日お前の作ったオムライスが食卓に出てる感覚か。……控えめに言って最高だな」
     食いしん坊の独歩ちんは、目をキラキラさせながら溢れそうな唾液をじゅるりと啜った。フォークの感覚を独歩に納得させられるか分からなかったが、どうやらケーキやみたらし団子という例えが悪かっただけのようだ。頭はいいくせに、謎にドツボにハマる思考まで可愛くて仕方ない。
    「そーそー。毎日が好物。最高っしょ?」
     目の前の唾液に濡れた唇を舐め取った。そのまま舌を差し入れてお伺いを立てると、最愛は迷わず奥に招き入れてくれる。
     俺っちは、すぐに濃厚な甘さと多幸感に酔いしれた。
     
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