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    @dh12345600m
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    拾われたどぽもちが幸せになる過程。

    拾われたどぽもちの話 俺は世間一般で「どぽもち」と呼ばれる個体だ。ディビジョンバトルの優勝経験がある人物がモチーフとなっているのだが、それゆえに悲劇は起こってしまった。
     人気すぎて、需要と供給の割合はいとも簡単に崩れてしまった。製造が間に合わず、毎日フル稼働する工場と従業員。疲れ切った現場からはまれに粗雑品が生まれてしまう。
     それが俺だ。
     顔のパーツの配置が悪いせいで、本来ならばぺろりと可愛く舌を出しているあざとさは皆無になってしまった。どことなく疲れ切ったような、ぐったりとしているような、悲壮感の強い表情をしている。
     俺を手にしたお嬢さんの「何これ? 独歩君の顔はもっと可愛いから!!」という言葉は今でも忘れることができない。
     薄暗い箱の中で今か今かと光りを待ち侘びていたのに、無情にも目の前が真っ暗になった。
     そして今、俺はゴミ捨て場に居る。
     餌を漁りに来たカラスにさえ邪魔そうに押しのけられ、穴が空いたビニール袋から地面へと転がり落ちてしまった。所々生ゴミの汁で汚れ、アスファルトでお腹に少し穴も空いてしまった気がする。俺はこのまま荼毘に伏されることもなく、路上のゴミとして生涯を閉じるのだろう。最後の最後まで惨めだな、と乾いた笑いしか出来なかった。まあ、刺繍でできた表情は動かんのだが。
    「……うわぁ」
     声と共に、俺が転がるアスファルトの真上に影が落ちた。人間が俺を認識したらしい。
     臭い、汚いと罵られるのだろうか。踏まれてボロボロになるのだろうか。最悪の事態を想像して少しでも衝撃を和らげようとしていたら、優しく温かい手に拾い上げられた。
    「俺モチーフのグッズが捨てられてるのって複雑な気持ちになるな……」
     俺の顔をじっと覗き込んで来たのは、俺のオリジナル────もとい、観音坂独歩だった。彼はとても整った顔をしているが、濃い隈や疲れ切った表情に疲労感が滲み出ている。ぐったりとした様子は少しだけ俺に似ている気がした。自分の存在を少しだけ肯定された気になって、俺は最後に良い物を見たと思っていたのに。
    「お前、顔がえらい草臥れてるな……。まぁいいか。このままウチに連れ帰るぞ」
     信じられない一言がオリジナルから飛び出した。彼は俺を手に持ったまま、賑やかな通りを足速に通り過ぎていく。初めて感じた人の温もりがこれ程心地よい物だとは思わなかった。ネオンの光が滲んで見えたのは、生ごみの汁で顔が汚れていたからに違いない。
     
     
     
    「ただいま」
     オリジナルは俺を手に持ったまま帰宅した。玄関で声をかけると、リビングの方から「お帰り〜!」と、元気の良い声が聞こえてくる。そういえば彼は伊弉冉一二三と同居しているのだった。知識として知ってはいたけれど、オリジナルに思いを馳せた事がなかったからすっかり忘れていた。
     観音坂独歩は、俺を持ったまま洗面所に向かった。蛇口から流れる水の温度を調節すると、そのまま汚い俺の体をとめどなく注がれるぬるま湯に晒す。ワイルドな洗い方で驚いたが、水浴びは生まれて始めてだから心が弾んだ。ベトベトしていた汚れが洗い流され、とても気持ちがいい。
     石鹸も使って身体をゴシゴシと洗われていると、陽気な声が近付いてきた。
    「どったん? 洗面所から出てこないから気になって見に来ちった」
     声の主は伊奘冉一二三だ。俺の角度からは顔が見えないが、観音坂独歩の手元を覗き込んでいるらしい。
    「コイツをうちの子にしたくて拾ってきた。前にお前が仔猫さんから貰ったもちと並べたら丁度よさそうじゃないか?」
    「……あぁ〜! 厳選に厳選を重ねた、俺っちそっくりなひふもちってヤツね〜?」
    「そうそう。リビングに一匹だけぽつんとしてるだろ」
     この家にはひふもちの個体も存在しているらしい。果たして仲良くなれるだろうか。
    「ちなみにぃ〜、本来ぬいぐるみってもっと優しく洗うモンんだけど」
    「えっ」
     指摘されて観音坂独歩の手が止まる。俺も薄々同じことを思っていた。蛇口から直での水浴びはまるで滝行のようだったからだ。
    「とりま今日は俺っちが洗っとくからさ、独歩ちんは先に飯食ってくれると助かる〜」
    「わ、分かった。すまない。頼む」
     肩を落とした観音坂独歩が呪詛のような言葉を吐きながら洗面所から退出すると、伊弉冉一二三が手際よく洗面器に貼った石鹸水の中に俺を漬けてくれた。そのままマッサージのように押し洗いをしてくれる。湯加減も押す強さも絶妙で、「極楽極楽」と言いたくなる程の気持ちよさだ。
     天にも登る気持ちでトロンとしていると、元気すぎる鼻歌がピタリと止まった。
    「……あり? コイツお腹破れてんじゃん」
     鋭い指摘に俺の体が強張る。せっかく救われた命だったが、体のほつれを理由にまた捨てられてしまうのだろうか。まるで世界の終焉を告げにきた天使を思わせる美貌の彼から、粛々とした気持ちで審判の沙汰を待つ。天使はこの世の物とは思えない美しい笑みを浮かべた。
    「……そっか〜。お前も俺っちと一緒で命救われちゃったってカンジね〜。アイツ、すげーいいご主人様だから安心していーぜ! 穴は責任持って俺っちが直しちゃる〜!」
     じわり、とお湯ではない物で胸の辺りが満たされる。
     きっと、伊弉冉一二三は過去に観音坂独歩に救われたのだろう。その後一緒に暮らしているということは、良好な関係を築いているに違いない。それを俺は羨ましいと思ったが────……そうか。俺も、この家の一員になれるんだ。そして、観音坂独歩は俺のご主人様になるのか。こんなに幸せな事はない。俺は、ご主人様、ご主人様と、口の中で使い慣れない言葉を繰り返す。
     目から水がとめどなく流れ出てくるのは、きっと一二三にお腹を優しく押されているからだろう。
     
     ◆◆◆


    「さすが俺っち! カーンペキ!」
     俺は一二三の手によって生まれ変わった。開胸手術前は緊張でカチコチになっていたが、一二三はぬいぐるみのお医者さんなのではないかと思うほどに器用だった。腹を縫うだけでなく、中に綿も足してくれたらしい。結果として、俺の貧相だった体は捨てられる前よりもないすばでーになった気がする。ぬいぐるみ専用シャンプーとリンスなるもので手触りも柔らかくモフモフとしたものになった。清潔で上品な香りも纏っており、ご主人様に撫でられる準備はバッチリだ。その瞬間を想像して胸がときめく。
    「……それにしても、お前ホント連勤明けの独歩そっくりだよな〜。マージウケる〜」
     くすくすと笑いながら一二三が俺をつついた。こちらを見る表情はなんだか切なそうだ。どうしたのだろう。
    「はぁー、独歩早く起きて来ねぇかな〜」
     一二三は俺にご主人様の面影を重ねているらしい。俺で良ければ代わりにたくさん撫でていいんだぞ?
     その想いが伝わったのか、一二三は俺の頭を撫で回してくれた。一二三はなかなかのてくにしゃんだ。うっとりと身を任せていると、突然「あ!」っと大きな声を出して立ち上がった。抱えられていた俺の視線は自ずと高くなる。
    「そうそう! お前に紹介したいヤツがいるんよ〜」
     紹介? そういえば、この家にはもう一匹もちがいると聞いた気がする。昨日の記憶を必死で思い出そうとするが、一二三の指が布地を撫でる感覚に早くも俺は陥落寸前だ。きっと蕩け切ってだらしない顔をしているだろう。跳ねそうになる体を必死に律していると、目前に完璧なバランスで配置されたもちの顔が現れた。
    「これがウチに居るひふもちちゃんだよ〜ん! 2人とも仲良くね〜?」
     ひふみっ! 俺を撫でるのを今すぐやめてくれ! 美しく洗練されたもちとの出会い頭に、快楽で蕩けている顔を突き付けてしまうなんてどんな羞恥プレイだ!
     俺の願いが届いたのか、俺はひふもちの隣に置かれ、一二三の手はひふもちの頭へと移動していった。同じように撫でられているにも関わらず、ひふもちの表情には余裕が見て取れる。ひと撫でで理性を失った俺とは大違いだ。比べて恥ずかしくなった。
    「顔合わせも終わったし〜。独歩の部屋に突撃してこよ〜っと」
     痺れを切らした一二三は、ご主人様の寝床に夜這いを掛けるらしい。なんて大胆なんだ。嵐のような男がさっていくと、途端に静寂が訪れた。
    「……しゅっ、しゅみましぇん」
     人間との意思疎通は図れないが、もち同士ならば会話ができる。しかし、初めて発した言葉はたどたどしい上に思い切り噛んでしまった。初対面のもちに恥ずかしい所ばかり見せている。情けなくて仕方がない。
    「……何を謝ることがあるんだい?」
     ひふもちは見た目通りの美しく優美な発音で返してくれた。なんというか、ぬいぐるみとしての格がちがう。何かを非難された訳ではないのに、俺は劣等感でいっぱいになった。優しくされることで芽生えていた、この家でやっていけるかもしれないという気持ちが一気にしぼんでしまう。
    「僕のご主人様といちゃいちゃしていた事を申し訳なく思ったのかもしれないけれど、君の可愛い顔を間近で見られたからね。役得だったよ」
     ひふもちはくすりと品良く笑った。
     オリジナルがナンバーワンホストのもちは見た目の美しさに加えて口も達者なようだ。まるで口説かれているような文言に、俺の顔から尻までが真っ赤に染まる。
    「可愛くなんか……ない」
     恥ずかしくなって体を背けると、悪ノリしたであろうひふもちが「照れたのかい? もっと顔を見せて?」と迫ってくる。お前といい、お前のご主人といい、顔がいいやつはどいつもこいつも!
     懸命に顔を逸らそうとしたが、ないすばでーになった俺は自分の体積を把握しきれていなかった。
    「ぅわっ!?」
    「大丈夫かい!」
     置かれたテーブルから転がり落ちそうになった所をひふもちに支えられる。助かったけれど、ある意味再びピンチに陥っている。ひふもちと密着する体制になってしまったからだ。なんだかとてもいい匂いがする。それに、俺を支えてくれる手つきが優しい。昨日まで生命の危機だった俺には、こんなイケもちに優しくされることへの耐性がない。
    「す、すみましぇん」
     さっきよりは上手く喋れたが、声が裏返ってしまった。か細い声が綿の鼓動を感じ取られていないだろうか。離れようとした瞬間、勢い良くご主人様がリビングに入って来た。トイ○トーリー的な理由で、自我を持ち動けることが露呈するのはまずい。仕方なくひふもちと密着したまま動きを止める。
    「お。俺のもち治してくれたんだな。ありがとう」
    「いいってことよ〜!」
    「しかし、俺と一二三の人形がイチャイチャしてるように配置されてるのは少し照れくさいな」
     ご主人様は俺を持ち上げ、掌に乗せてくれた。そのまま頭や背部、腹部をたくさん撫で回してくれる。
    「…………ッ♡」
     筋張った指が俺の布地を行き来する。
     夢にまで見た光景だ。まさに幸せを形にしたような至福の時間。俺は上げそうになった声や緩んでしまいそうな顔を必死に堪えた。
    「独歩ちん、そろそろダイニングテーブルでブランチにしよ〜ぜ!」
    「そうだな」
     ご主人様は俺をテーブルの上、ひふもちの隣に戻した。ご主人様との戯れに浮かれていた俺は、さっきまで優美な微笑を讃えていたひふもちの顔が険しくなっていることに気付かなかった。
    「…………ライバルがご主人様というのは、なかなか手強そうだね」
    「ん?」
    「ふふ、なんでもないよ」
     
     こうしてあわや破棄されそうになった俺は拾われ、ご主人様と同胞のひふもちに囲まれたもちライフが始まったのだった。
     
     
    「あり〜? もちころあんな風に配置したっけか〜?」
     ⭐︎次回、どぽもちピンチ! ホストの洞察力はあなどれない!
     
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