ドーク夫人の秘密「読みながらでいいから聞いてくれ」
ナイル・ドークは酷くなった目の隈を擦りながら、エルヴィンの返事を待たずに語りだした。
「おかしな夢ばかり見る。お前たちが犬だったり、愛らしい幼児だったり。あぁそうだ、ヒイズルみたいな服を着てたりもしたな。そうかと思えば靴に車輪がついた縞々のキテレツな服装をしている。リヴァイに至っては頭に翼が生えたり。妙にリアルなのは広々とした学舎で教鞭を取るお前と、掃除夫らしいリヴァイだ。だが、そこは蠢く死者に満ち……だがな、大工みたいなお前も現れるんだ。もういい加減にしてくれ、寝不足だ。マリーに話すと妙に興奮して手帳に何か書き連ねている」
「いい加減にして欲しいのはこちらだよナイル。お前の夢にリヴァイを勝手に出演させるな。いや、俺も嫌だが」
無関心に本のページをめくっていたエルヴィンだったが、それは譲れないとばかりに大きな目でナイルを見据えた。
「俺も好きで見ているんじゃねぇ。お前たち、資金稼ぎで何かおかしな事をやっているんじゃないか? いや、そんな事よりさっきからシャワーの音が聞こえる……誰がいるんだ? まさかこれも夢か?」
エルヴィンは再びナイルを睨んだが、扉のノブを回す音に視線を向けて安堵の息を漏らす。
「薄ら髭、俺が拳で眠らせてやろうか? そうすれば碌でもない夢を見ずにグッスリだ」
ナイルは目を剥いた。いつもは蝋のように白い頬に血を上らせたリヴァイが、タオルで髪を拭きながらエルヴィンの傍にやってきたからだ。
「……どういう事だ?」と困惑するナイルをよそに、この部屋に二人しかいないかのように見つめ合う。
「服をちゃんと着て出てくるなんて、良く分かっているねリヴァイ」
「こいつに見せる肌はねぇよ、エルヴィン」
事もあろうにリヴァイは片目を瞑り、エルヴィンに微笑みかけると、ナイルに視線を向けた。
「とっとと出て行けナイル。邪魔だ」
どこか嬉しそうなその顔を本で隠したエルヴィンが、見せつけるように顔を寄せて……
「うわーーーーっ!」
「何よあなた!」
奇声を上げて上体を起こしたナイルに、マリーが迷惑そうな声で問いかけた。寝室のベッドであり、隣には妻のマリー横たわっている。
「……エルヴィンとリヴァイが!」
「待って」
マリーは枕元から帳面とペンを取り出した。
「いいわよあなた、エルリが何をしていたの?」
——ナイルの悪夢はまだまだ続く。