生徒は見た 季節外れのボート小屋は校則違反にはもってこいだった。重なり合うオールの隙間に手を入れればお目当ての箱に指が触れた。久しぶりに吸う煙草は舌を痺れさせ、煙が目に染みる。換気のために窓に手をかければ、行儀良く並んだボートに誰かが寝そべっていた。
グレーのヴェストに金ボタン、グレーのスラックス。監督生エルヴィン・スミスだ。模範生の彼がなぜ講義をサボタージュしているのかは分からないが、問題は彼の股に黒髪の頭があったことだ。エルヴィンはその髪を梳きながら、普段からは想像もつかない顔をしている。そう、ひどく人間らしく、いやらしい顔。肺をニコチンで犯しながら魅入っていた俺は、黒髪を鷲掴みにされ、股間から持ち上げられた横顔に煙草を唇から落とした。
——リヴァイ?
学年で十数名しかその資格を得られない優待生だ。そのくせこのボート小屋での校則違反仲間だ。小柄だが腕っ節が良く口が悪い。だが成績優秀。俺は彼のことが……
その時、青い視線が俺を刺した。
勘違いではなく、それほど至近距離ではないのにエルヴィンの目が俺を捉えていた。そして、リヴァイの脇に手を入れ抱えるようにして腰に跨らせると、黒いガウンをバサリと広げてその肩に掛ける。まるで俺に見せないように。ぎこちない動きの後、ゆらゆらと動き出す二人。
ギシギシギシギシ
ちゃぷちゃぷちゃぷ
頭の中を掻き混ぜるその音に劣情を煽られながら、俺はボート小屋を飛び出した。
薄ら笑う監督生、悩ましく首を振る優待生。
埃っぽい床に落ちたままの煙草の事など、もうどうでも良かった。この気持ちと一緒にみんな焼け落ちてしまえばいい。