結婚して「結婚して」
「ああ、いいぜ。いつがいい?」
「…え?」
賢者は伏せかけていた顔を勢いよく上げ、朗らかな笑みを浮かべる男を見た。
「賢者様の誕生日とか六月にするっていうベタなのもいいよな。別に何月でもいいんだろうが、式をあげるなら温かい日がいいか。あーでも、いざとなったらオズがどうにかしてくれそうだな」
「え、えっと…え?」
「みんなも呼ぶか? 北の奴らは分からないが、晶からの誘いなら来てくれるかもしれない」
「え、ちょ」
「料理はネロやシャイロックに頼んで、音楽はラスティカに。衣装に関しては、本当は俺が選んでやりたいが、せっかくなら思い出に残る世界で一つのものにしたいし、クロエに作ってもらうってのもありかと思うんだ」
「ま、待ってください、カイン」
「ん? どした?」
「え、いや、えっと、それは俺が言いたいと言いますか」
「ん? だって今プロポーズしてくれただろ?」
「え!?」
首を傾げて微笑むカインに、口をパクパクさせて困惑している賢者。徐々に赤く染まっていく頬に、カインはより笑みを深めつつ、少し困ったような表情をする。
「本当は俺がしたかったんだけどな」
「…え」
「晶、昨日依頼をこなして疲れているようだったし、それで休むようにと部屋に招いただろ? でも、急に顔を伏せたり顔赤くなってたから、疲れが取れていないなと心配していたんだが、まさかプロポーズで悩んでいたとは思わなかった」
「いや、え?」
「気づいてやれなくてすまない」
「え、いや、ち、違くて!」
首を傾げたカインに、身振り手振りで必死に賢者は説明しようとする。
「そ、それは」
疲れたところに恋人の部屋に招いてもらえて、お菓子や紅茶やいろいろと揃えてもらえて、ひとまずなぜか分からないけどベットに一緒に横になって、緊張してて休めないと思ったけど、いい香りがする中いつのまにか寝てて、起きてからゆっくりしながら他愛のない話をして、こんなのがずっと続けばいいと思って、もはやこのまま死んじゃってもいいと思っちゃったくらいで
「それはいけねぇな」
「…え?」
カインの両手がそっと晶の手を包む。
「とりあえず、俺の想いが晶に伝わっていたようで安心したし、すごく嬉しい。けど、それで死ぬのは許せない。いくら晶だとしてもだ」
「え、え? 死ぬ!?」
「賢者という立場も大事だが、俺はそういう意味で言ってるんじゃない。それはわかるか?」
「え、あ、はあ」
「んー。やっぱり伝わってなかったのか?」