甘やかされる晶♂ネロ晶♂ブラ晶♂
「まぶしい…」
中央の国にある栄光の街に出かけた賢者は、真正面からの強い日の光を手で遮る。
「ほら、これで眩しくないか?」
「あ、ありがとうございます。助かりますー」
「賢者さん。いつも以上にぽやぽやしてんな」
「ぽやぽや…」
呪文を唱えて眩しくないようにしてくれたネロは、いつもよりもゆっくりと歩く賢者の隣にいた。
ぽやぽやという言葉かわいいな。と、賢者は停止している脳で考えながら、道の両脇に並んでいる店を見て回る。
「気分転換にあんたを連れ出してみたが、何か欲しいもんとかあるか?」
「あー、あれとか」
「ん? あー、クッションか。いいな、近くで見てみるか」
「もふもふー」
「もふもふ…」
疲れてんな。とネロは思いながら、若干ふらつく賢者の体を背中から支え、店に連れて行く。
いらっしゃいという言葉を聞きながら、賢者はじっくりとクッションを見ている。
「店主さん、これっていくら?」
水色の両手で抱き抱えられるほどの大きさのクッションを指差し、値段を聞いたネロはそれを購入すると言った。
「一目惚れですか?」
「それはあんたがだろ?」
「ん?」
「これを見た途端、視線を外さなくなっただろ」
「あー」
人のことをちゃんと見てるのさすがだなーと賢者はぼんやりと思う。
店主から受け取ったクッションをネロからもらい、そのまま顔を埋め、ネロにもたれかかった。
ネロは腰に手を回し、負担のないよう支える。
「よっぽど疲れてんだな」
「あぁ」
「休ませてやんな」
「あいよ」
店主とネロの会話が耳に入ってきつつ、ネロの誘導によりまた街を歩き始める。
「ネロ」
「ん?」
「ありがとうございます」
「いいよ」
柔らかい声が体からも伝わって聞こえて、くすぐったいと思っていると、近くでいきなり違う声が聞こえた。
「賢者」
「あ。ありがとうございます」
クッションから顔をあげ、目の前に差し出されたクレープを受け取る。
それと同時に、さらりとクッションが抜き取られた。
「汚すだろうが。買ったのか?」
「あぁ」
「へぇ」
よかったなぁ賢者。と少し雑めに頭を撫でるブラッドリー。
それでも、食べるのを邪魔しないようにといつもよりも力が弱いところがモテる男なんだろうなというのが、もぐもぐしながら抱いた賢者の感想だった。
甘いものが欲しいと独り言のように呟いた賢者の言葉を聞いてクレープを買ってきてくれるブラッドリーは、なんて面倒見の良く出来た男なのだろうかと思うと当時に、面倒だと言わずに快く買ってきてくれたことに関しては少し驚いたということは賢者だけの秘密だ。
「お前何やらかしたんだよ」
「なんで俺だけなんだよ。ミスラやオーエンがいるだろうが」
「そこにどうせお前もいるんだろうが」
「そりゃそうだろ。じゃねぇと、いる意味がねぇ」
「はあ」
ここ数日、北の魔法使いたちとの任務が多かった賢者がこんなにも疲れた様子でいるのはお前たちのせいではないかとネロは問い詰めたが、それの何が悪い、むしろ賢者もよく生きてたな、さすがだ、と褒める様子のブラッドリーに、ネロはため息をつき、賢者はうんうんとわかっているのかいないのかよくわからない様子で頷いた。
「賢者さんの爪の垢でも飲ませてやりてえよ」
「何を賢者からもらうってんだ」
「んー、優しさ?」
「俺に聞くなよ…」
「ふぇお、ふはりほほ、ひゃさひーふぇふを」
「飲み込んでから言え」
「誰も取らねぇよ。たぶん」
「俺を見て言うな、誰が取るか」
クレープ如きに。そう言ったブラッドリーに、さあどうだかなと肩をすくめたネロ。
そんな二人に、クレープを飲み込んだ賢者はもう一度口を開いた。
「二人とも優しいですよ」
面倒見が良くて、人のことをちゃんと見てて、その上見守ってくれる。優しくて、心強いです。
ネロが用意してくれた紅茶を一口飲んで、ふわりと微笑む。
まっすぐ思ったことを伝えてくれる賢者。だからこそ、こういう日に甘やかしてやりたいなと、思う。
ブラッドリーとネロが互いに視線を送り合う。
いや、違うな。むしろ思うがままに行動した結果、甘やかしていることになっているのだ。
「仕方ねぇ、このブラッドリー様が特別優しくしてやるよ」
「だってさ、何がお望みだ? 賢者さん?」
「ライオン!」
「「…は?」」
「もふもふ!」
「「…」」
そこは猫じゃなく? という言葉は、もふもふを求めている賢者の言葉と満面の笑みから察せられ、口にできなかった。
後日、午後の涼しい風が吹いて、暖かい日差しの中、魔法舎から少し離れたところで、水色と白黒のライオンに挟まれて埋もれている(潰れている?)賢者がいたとかなんとか。