こんな時もあるそれは気付いた時にはそこにある。そして気付いた時には遅すぎるのだ。
源三郎義忠は溜息をついた。
自らの中に存在するそれ。果てが無くただ呆然とするしかないような。灰色の空と底の真っ黒な海がどこまでも続いているような。どうすることもできず立ち尽くすしかないような、それ。
子どもでいられる時期を終え、物事の理や道理のわかる齢になったころから、それはちょくちょく義忠の元へ訪れた。自分ではどうしようもないのだ。ふと唐突に、その感覚に相対していることに気付く。
誰かに縋りたいような、放っておいてほしいような。誰にも見つからずに消えてしまいたいと思うような、抱きしめてほしいと祈るような。相反する気持ちは自然なまでに共存し、己の中にいつの間にか居座っている。
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