興味とオオカミ「や、辞めろ。食う…な……!」
必死に声を出すあたしに、その狼はぴく、と動きを止めた。
♢♢♢
時は遡ること数十分前.
お母さんに「おばあちゃんのお見舞いに行ってくれないかしら?」と言われ、あたしルメリは林檎と書物を籠に入れて家を出た。
姉のエメリは外で食料を集めているらしく、珍しく1人での外出となる、(狼に気をつけろと言われたけど、この15年間やはり1度も会ったことが無いんだよな…。本当にいるのか?)
あたしが住んでる周辺の地は、狼が出ると言われてる。
狼は獰猛で狡い動物らしく、人を騙して食むらしい。本当はいないんじゃないかと思いながら森の中へ入っていく。
祖母の家までの道のりは少し険しく、霧も出やすい。正直の所1人で行くのは少し躊躇ったが、こんな個人の恐怖で行かないというのはあまりにも人情に欠けてしまうだろうと思い、1人で祖母の家に行くことを決めた。
ざく、ざく、ざく。
少し荒い地面をどんどん進んで行く。枯葉が私の足を少し引っ張っているみたいで、不気味だ。
ざく、ざく、ざり。
……ざり?
明らかに自分から発した音では無い様な音がした。
ごくりと唾を飲み込み、足を止める。
ざり、ざり、ざり。
やっぱりだ。自分から発した音ではなく、これは_
「気づいた時に走ってれば良かったのに、止まっちゃダメだよ?」
後ろから声が聞こえた。しかもかなり近くで。
自分の鼓動の音が凄まじい。脈動も伝わってくるかのような緊張がする、口ははぁっ、はぁっと呼吸が下手になり、冷や汗がどんどん出てくる。
後ろを向いたら死だ。死の予感がする。その予感を頼りに、少しずつ前に足を運ぶ。
「逃げないでよ、つれないなぁ。もう少しお話しよう?」
ぴと、と顎に手をあてられた。その手は長く、細く、爪が尖っている。
「………あたしに何の用だ。」
この一言を出すのが精一杯だった、体は小刻みに揺れ、唇を噛み締める。
「用?そうだなぁ、特に無いけど。久しぶりに人と出会ったからさ。お話しようと思って。」
「……そうか。あたしは生憎急いでる……ん…だ。」
顎に触れた手を剥がすと、姿が一瞬だけ見えた。否、見えてしまった。
金髪の、浅紅色の目。そしてにより耳が付いていた。
背丈はあたしの十数センチ上と言ったところだろうか、同性っぽい姿をしており、意外と人間らしいのだなと少し関心もしていた。
「ありゃ、見ちゃった?私の姿。」
頭から印象は溢れ出ているのに、口をはくはくと動かせるだけで何も音を出せない。
「や、辞めろ。食う…な……!」
自分に出せる精一杯の声を出すと、狼はぴく、と動きを止めた。
「やだなぁ。そんな野蛮じゃないよ、それに私は人を食べたことが無いもん。」
腕を組んだその狼は、にぱにぱと少し怪しい笑みを浮かべる。
「それに私は君に興味があって話しかけたんだし、食べるとしたらこんな気軽に話しかけてこないでしょ?」
「……言われてみれば?」
その言葉を口にした瞬間、狼はぽかん、と頭にタライをぶつけられたかのような顔をしていた。
「……あははっ!!凄く素直だね!君、そんなんじゃすぐに騙されちゃうよ?」
「あんたが嘘をつく様な性質だとは思わないんだが、違うか?」
「うん、嘘はつかない主義だよ。でもねぇ、こんなすぐ信用してくれる人なんて初めてだから笑っちゃった。」
うん、やっぱり興味深いと小言で言った狼は、次の言葉を口にした。
「ねぇ、名前はなんて言うの?私は璦。」
「ルメリだ。」
「うん、決めた!ルメ姉、これから森の中で沢山話そうよ!勿論食べたりはしないし、お話するだけ。ね?駄目?」
「いいや、乗った。あたしも狼と腹を割って話してみたいからな。」
「それじゃあ決まり!じゃあ明日ね!また会おうルメ姉!」
そう言って狼_璦はパタパタと歩き、霧の中へ溶け込んでいった。