子供扱いじゃなく、対等に。「お初にお目にかかります、エメリ様。」
ぺこりとお辞儀をするその丁寧な様は、メイドとして馴染んでおり、シルバーホワイトの髪を揺らした。これから、ここの家のメイドとなる。「期間限定」だけれど
ふわりと少しのパニエが仕込まれているクラシカルメイドの服に視線を感じる。恐らく、この視線は今回の「主人」のものなのだろう。そう思うと、ぽてぽてと可愛らしい擬音が飛び交いそうな可愛らしい見目の子が数歩こちらに近づき、ぎこちなくお辞儀をした。
「よ、よろしくおねがいします。えめりです。」
ふわふわとした髪質のツインテールが垂れ下がると、メイド_瑞はエメリという幼子の為に腰を屈ませた。
「ふふ、よろしくお願いしますね。」
そうしてエメリに微笑むと、エメラルドグリーンの瞳が幸せそうに揺れた。敬語を使えるから同年代の子より幾分か精神が達観してると思いきや、笑顔は年相応で、その訴求力に思わず魅入りそうになる。
「…!うん!あのね、けいご…?じゃなくていいんだよ。えめりもね、すいちゃんってよぶね。」
手に持っている幼子には大きい本をきゅっと抱きしめ、少し緊張した様子で話すその子はやっぱり可愛くて、カチューシャが付いているその頭を撫でると、わっ、と驚きながらこっちに視線を合わせてくれるのが更に可愛く見える。
「ふふ、じゃあエメリちゃん、よろしくね。」
△△△
それからと言うものの、毎日毎日が非日常で埋まっていく様だった。
最初に出会った時から大きい本を持っており、絵本なのかな。と思って質問して見ると、すいちゃんにならみせてあげてもいいよ、と言うもので、その場でざっと目を通すと、あまりルビが振ってない小説だった。それも、600ページはある超大作もの。
話を聞くと、「小さい頃からお母さんに本を読んでもらって、そこからどんどんのめり込んでいった。」らしく、いくら遊んでも咎められない年齢の子が、大人しく家で、それも自分の手が何個も入りそうな大きくて分厚い小説を読んでいるのだから、驚きが隠しきれなかった。けれどやはり読めない所は読めないらしく、「すいちゃん、ここってなんてよむの?」「すいちゃん、ここのいみわかんない。」と質問されるのは心地良かった。
元々世話焼きな性分が自分をメイドという天職につかせたのだから、教えたり家事をこなすことは苦では無かったし、何より、前に担当していた子たちよりずっとずっと聞き分けが良かったので、少し物足りないくらいだった。
外に出るのはお母さんに咎められるらしく、希望しても外に出れない訳あり状態なのも吐露してくれた。それからと言うものの、週に一回はこっそりと外出している。ショッピングモールでキラキラと目を輝かせて、「すいちゃん!こっちこっち!」と手を引っ張っていくエメリは、やっぱり年相応の表情で、他の子の「普通」が出来ないこの子は、本でその分知識を付けていただけの等身大の女の子だということもわかった。外出して初めて見るものばかりだと言うのに、おもちゃ等は買わずにお菓子などをねだるこの子は、家にいるより一等眩しく、輝いて見えた。
太陽をそのまま映した様な綺麗なサンシャインオレンジの髪色は、何にも変え難い貴重な部分だと、そう思った。室内で埃をかぶるには勿体なさすぎる。外でこそ輝けるその代物に、思わず陶酔しかけたのも今となっては笑い話に昇華出来る筈だ。
太陽のように、笑顔が眩しいあの子。エメラルドグリーンの色を灯した瞳に、ターコイズブルーの瞳孔が差し色として綺麗に作用するあの子。
気づけば、自然と好きになっていた。
△△△
「やだやだやだ、すいちゃんいっちゃやだ、やだ……。」
目に涙を溜めて、瑞のスカートに縋り付くエメリは、肩を震えさせている。寂しいけれど、「お別れ」の時期になってしまったのだ。
「だって、すいちゃん、えめりといっしょにいてくれるんじゃないの…?」