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    オリジナルの百合です。食べられる人は食べてね

    #百合
    Lesbian
    #創作
    creation
    #創作百合
    creation of yuri

    気になるあの子と、あの子の彼女。キャラ設定
    *坂井:大学1年生。百合をこよなく愛する
    *瞳子:大学2年生。坂井のバイト先の先輩
    *黒江:大学2年生。瞳子の同居人


    「あっ!」

    21時、疎らになり始めた客を眺めてグラスを磨いていた瞳子は、突然聞こえたその大きな声に思わず肩をすくめた。
    声の主は坂井─同じホールスタッフとしてバイトをする仲間だった。

    「どうしたの?何かミスっちゃった?」
    「いや……今日、終バスの時間いつもと違ったの思い出して……」

    彼は少し青ざめた顔で時計を眺めていた。“大学から近いから”という理由でここをバイト先に選んだ彼は、電車で1時間半はかかる場所に住んでいるため、終バスを逃すことはこの辺りでどうにか夜を明かさなければいけないことを意味していた。しかもこの近辺はいわゆる住宅街で、漫喫やネカフェなどは存在しないも同然だった。

    「それはやっちゃったねー……泊まれるとこはありそ?」
    「一応友達に連絡してみてはいるんスけど……」

    おそらく軒並み断られているのだろう、動くLINEを見つめる彼の横顔は寂しさを物語っていた。とりあえず待ってみることにしたのだろう、彼は沈んだ面持ちのまま作業を再開した。
    自分がバイトを上がる時も未だどんより顔の彼を不憫に思った瞳子は、ほんの優しさを彼に恵んだ。

    「うちに泊まる?もしよかったら、だけど」
    「……!」

    今までのしょぼくれた顔から一転して目を輝かせた彼は、安堵と心配がないまぜであるといった表情をした。

    「え、でも、悪いし……」
    「いいよ!友達ダメだったんでしょ?ちょっと同居人に確認してみるから待ってね」

    瞳子は慣れた手つきで番号を打ち込む。電話の相手はおよそワンコールで応答した。

    「もしもし、黒江?バイトの子が終バス逃しちゃって帰れなくなったんだって─……」

    坂井は半ば夢心地で“同居人”に電話をする瞳子を眺めていた。

    「いいよって、今から迎えに来るらしいから外出よっか」
    「瞳子サン、ほんとすみません……」

    さて、坂井は瞳子に恋心を抱いている。同居人がいるとはいえ、憧れの瞳子の家に一晩泊めてもらうというスペシャルイベントに彼は胸を期待にふくらませていた。

    ーーー

    「黒江!」
    「お疲れ様、瞳子」

    黒江を見た坂井はその衝撃につま先から頭まで訝しげに見つめてしまう。瞳子の友達なのだから、瞳子と似たような系統の人間が現れると思っていたのだ。それに対し黒江は、ヒールを履いているもののおそらく自分より高い身長で、モデルと言われても納得するくらいのスタイルを持ち、女性ながらイケメンという言葉を体現したような風貌をしていた。

    「あの、初めまして。坂井と言います」
    「橘です。瞳子がお世話になってます」

    低めのハスキーボイスに、声までイケメンなのか、と坂井はもはや感心をしていた。一体どういう関係なのだろう、根掘り葉掘り聞きたい気持ちをぐっと堪え、黒江に笑顔を向けた。しかし心なしか瞳子の顔が、声が、目が甘ったるいように感じられる。これは……?

    「じゃあ、帰ろっか!」

    ーーー

    バイト先から歩いて20分程度でふたりの家に到着した。一見ファミリー向けのマンションのようだが、普通の大学生の瞳子にどこからそんなお金が出ているのだろうか、坂井は不思議に思った。家の中は掃除が行き届いており、ほのかに女の子の甘い匂いが漂っていた。目につく食器は全てペアで、棚には旅行先で撮られたであろう2人の写真が飾られていた。これは、もしかして……?

    「お2人、すごく仲がいいんスね!」

    坂井は賭けに出た。誤魔化されたらクロ、惚気られたら─クロだ。
    さて、坂井は百合を心から愛している。思いがけず飛び込んだ環境に最高の百合が咲いている気配がし、彼のトキメキは既に最高潮だった。

    「高校の時、寮が同室だったの。それから仲良くなってね、へへ、ね黒江」
    「ちょっと瞳子」

    ハイ来た。真っ黒だ。坂井は心で力いっぱいガッツポーズをした。ここから怪しくない程度に関係性に踏み込んでいこう─坂井の戦いが始まった。

    「大学も同じなんスか?瞳子サンは明領でしたよね、すごいなぁ」
    「大学は違うよ、黒江は白峰」

    嬉しそうに話す瞳子に黒江は諦めた顔をし、静かにキッチンに向かった。

    「白峰!看護?えっ、医学部スか?俺医学部の人に初めて会ったス。瞳子サン、将来安泰スね!」

    ガチャン!キッチンから何かが落ちる音がした。黒江は目に見えて動揺している。おそらく進学時に同じようなことを言ったんだろな、坂井は容易に推察した。黒江はどうやらこの発言で彼への敵認定を緩和したようで、会話に加わってきた。

    「瞳子も法曹目指してるから、どっちにしろ安泰だよ」

    今度は瞳子の耳が真っ赤になった。こちらも進学時に同じようなこと言ったんだろな……坂井は菩薩のような心で熱い惚気を聞いた。もう自分のチンケな性欲なんてどうでもいい、今はとにかく2人を応援したかった。

    ーーー

    「お風呂いただきました……」

    おずおずとリビングに戻るとソファーベッドに寝具が用意されていた。今夜の坂井の寝床はどうやらここのようだ。最悪玄関の床でもいいやと思っていた彼には僥倖であった。

    「坂井くんはここで寝てね、おやすみ」

    日付も変わった頃、3人はそれぞれの床についた。

    「……」

    チク、タク、チク、タク

    「……」

    ガサ、ガサ、モゾ、モゾ

    「……」

    坂井は、眠れなかった。
    どれくらい時間が経っただろうか、卒然、瞳子の部屋の扉が開く音が聞こえた。思わず息を潜める。ぺたぺたとフローリングを裸足で歩く音は存外すぐに止み、再度扉が開く音がした。黒江の部屋に行ったのだ、容易に音だけで判断できた。おそらく2人は坂井が既に眠っていると思っているのだろう。半開きの扉から小さな話し声が聞こえてきた。

    「瞳子ちゃん、今日はダメ。自分のお部屋でねんねしようね」
    「やだ、くえちゃんとねんねするの」

    想像以上に甘ったるい恋人同士の話し方に、坂井は飛び起きそうになるのを必死にこらえた。まじかよ、あの南瞳子が、こんな。手で口を押さえ、なんとか息を殺す。バイト先ではあんなにしっかりとした瞳子は、恋人の前ではこうも溶けてしまうのか。漏れる鼻息が坂井の指の間を抜けた。

    「やだ、抱っこ」
    「……ふ、かわいいね、好きだよ」
    「とーこも……くえちゃん大好き」

    位置的に音声しか聞こえないが、それがより彼の想像を掻き立てた。そしてふと思う、これ……バレたら殺されるのでは?
    坂井は自分が死体である暗示をかけつつ、全神経を耳に集中させた。

    ギシ、お外モードの瞳子もかわいいね、チュ、ん、早くぎゅってしたかった、チュ、くえちゃんと一緒じゃなきゃ寝れないの、ん、チュ、チュ、もう眠い?身体あったかいね、ギシ、チュ、好き、すき、チュ、あ、もっと、ダメだよ、チュ、んぅ、坂井くん起きちゃうでしょ、静かにするから、ね……

    あ、よくない。すぐにでもおっ始めそうな雰囲気にたらりと冷や汗をかく。いや、2人とも頭がいいんだから、さすがに他人が泊まってる中ではそういうことはしないだろうと高を括った。が、甘かった。

    「ね、瞳子ちゃん、なんでもうこんなに濡れてるの?」

    ああ、始まってしまった─……
    仄かな嬌声と水音、衣擦れの音が深夜のリビングに響く。
    およそ1時間ほど続いたそれは、坂井の体力をすべて消耗させるのには十分すぎた。瞳子サンがネコなのか、そんなことを考えながら坂井はやっと眠りにつくことができた。


    翌朝、目の下に立派なクマをこしらえた坂井は、黒江の自慢げかつじっとりとした視線に
    (瞳子は私のだから、分かってるな?)
    という強いメッセージを感じながら、地獄のような朝食の時間を過ごした。

    -終-
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