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    AmakAsuka

    @AmakAsuka

    安赤小説を書いています。この二人の立場、性格等の関係で、物語はシリアスに始まることが多いですが、必ずハッピーエンドになります。

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    AmakAsuka

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    Pixivの1000字コンテストに応募した、「ボトルメール」をテーマにした小説です。ハッピーエンド。pixivの方は、コンテスト用に少し縮めてあります。こちらが完全版となります。零くんがこんな危ないことをするか?とも思いますが、パッと浮かんできた光景を書いておきたかった。赤井さん相手なので突飛なことをしてしまう上に今よりももっと若かった零くん、ということで、広い心でお読みいただければ幸いです。

    ##安赤
    ##AMAK

    ボトルメール一、あなたは海の彼方

     僕の中に残っていた、温かいもの。それが粉々に砕かれた瞬間。破片をかき集めて、ボトルに入れ、蓋をした。優しい笑顔、気遣ってくれる声、交わしたいくつもの言葉。かけがえのない親友を失ってからも、なおも心の中から消すことができなかった日々。
    「さよなら、ライ」
     海に流して、すべて忘れよう。それでもこんな風にボトルメールにして、ぷかぷか浮かぶのを眺めているのは、未練にほかならないけれど。
         ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
    「よぉ、シュウ!」
    「トム。しばらくだな。あの件は片付いたのか」
    「ああ、手こずったがな。この前アドバイスもらって助かったよ。さすがは『ライ』だな」
    「それは禁句だ」
    「ハハッ。悪い悪い」
     相変わらず、陽気な奴だ。組織を抜けて以来、俺は前にも増して物騒なオーラを漂わせていると言われるが、こいつは気にならないらしい。
    「トム、これから朝飯か?」
    「ああ。二日分食わねーとな」
    「ん?何を持っているんだ。それは……ボトルメールか」
    「よくわかったな」
    「海藻の切れ端が貼りついてる。事件絡みか?」
     彼はにやりと笑った。
    「お前にとっては、そうかもな」
     押しつけられた瓶に内心驚いているうちに、奴は大量の朝飯を抱えて部屋へ入っていった。何だと言うんだ?
     煙草を咥えたまま、壁にもたれて瓶を眺める。トムは中身を見た上で、俺に見せるのがふさわしいと判断したはずだ。ならば危険物は入っていない。見たところも安全そうだ。
    「しかし、古風なことをするものだな」
     呟きながら蓋を開け、ビニールにくるまれた手紙を手に取った。慎重に、便箋を開いていく。その紙に、見覚えがある気がした。いくつかの文字が、目に飛び込んでくる。
    「!これは……」
    『ライ』『あなたを、愛しています』『B』……なるほどな。
    「君か……」
     俺が潜入を中断し、あの金色の男と離れFBIに戻ってから、間もなく二年になる。こみ上げてくるものがあるが、ここで涙を流すわけにもいくまい。だがここまで見てしまった以上、帰宅してからゆっくり見るなどと、悠長なことも言っていられん。大体、いつ帰れるかもわからんのだからな。
     俺はむさぼるように手紙を読んだ。ジェイムズとジョディがそばを通り、声をかけてきたことには気付いていたが、返事をするどころではなかった。
     読み終えて、手紙を丁寧に畳み、胸のポケットへしまった。トムは太平洋のど真ん中でこれを見つけ、わざわざ持ち帰ってくれたのだ。うまいランチをおごってやろう。


    二、恋の瓶詰め

    『ライへ
     あなたは僕の前から消えてしまいました。どこへ行ったのかな。元いたところへ帰ったのでしょうか。Mで始まる名前は偽名だろうから、もう使っていないのでしょうね。
     この先、あなたの所属場所を探せば簡単に見つかるのかもしれないけど、探したくない気もするんです。今日の僕はどうかしている。いや、あなたに出会ってから、ずっとどうかしていた。
     今からこの手紙にそんな僕を吐き出して、瓶に詰めて海へ流します。それは、この想いを捨てるということなのかな。わからない。ただ、今までと同じように持っているのは、あまりにも辛い。自分が自分でなくなる。
     ああ、胸が苦しいや。きっと途中で瓶が割れて、海の底へ沈んでしまう手紙だろうから、何を書いてもかまいませんよね。今日はVに呼ばれているけど、あと一時間だけ、時間があります。浜辺で待ち合わせなんて、あの人、僕の思考を読んでるのかな。Gはあなたを必ず殺すと言っています。あなたを殺すのは僕ですからね。忘れないで。
     あなたは、なぜあんな嘘をついたんですか?あなたがやったんじゃないってことぐらい、彼の手を見ればわかります。なのに、自分が殺した、なんて。彼を、あなたが。それは、僕にあなたを憎ませるためですか?そうだとしても、その意味がわからないし、あの時はまだ、あなたを憎むことはできなかった。心の底からはね。
     今は違います。あなたが本来のあなたであれば、彼を助けることはできたはずだと、そればかり考えてしまう。あなたは彼を助けるためにあの場に駆けつけたはずだと、僕の中の愚かな僕は、まだそう信じようとしている。
     何を信じればいいのか、わからないんです。だから、あなたを憎いと一瞬でも感じた、そこに僕はしがみついている。
     この場所で信じられるのは、きっと自分だけだ。なのに僕は、あなたを信じようとしてしまった。それだけではなく、……わかっているでしょう?僕はあなたのことが、この世の何よりも大切なんです。自分よりもね。

     この言葉を告げられる日は、きっと来ない。だからここに書いておきます。
     あなたを、愛しています。            B』

     バーボンは、ずいぶんと危ない真似をしたものだ。まあ彼のことだ、この手紙が組織の奴らに拾われたとしても、「ハニートラップですよ」とでも言ってごまかすだろう。そこまでしなければならないほど君を苦しめたことも、いつか謝らなくてはならない。
     同僚が海で拾ってきてくれた手紙を、俺は大事に懐に持ち続けている。彼は間違いなく『こちら側』の人間だ。あの青い瞳が喜びで輝くのを、再び見られる日は来るだろうか。そのためにも、あの組織を倒さなくてはな。


    三、蓋が開いて

     ふと目が覚めると、彼が俺の髪をそっと触っていた。本当にここにいることを確かめるかのように。俺が起きたことに気付いて、微笑んでいる。
    「ふふ」
    「どうした?」
    「僕ね……あなたにボトルメール書いたことがあるんですよ。瓶に入れて海に流すやつ。今思えば、危ないことしたなあって。今頃は海の底だろうけど」
    「ああ……」
     そういえば、言っていなかったな。
    「零くん、ちょっといいか、腕を」
    「ん?何か取る?」
    「ああ。確か……」
     俺は何もまとわずベッドを離れ、少しばかりよろめきながら、クローゼットの奥をごそごそやり始めた。あった。俺の宝物だ。
    「あかい?あった?大丈夫……?」
     半分寝ているような彼の声に応え、振り向く。その手にあるものを見て、カッと青い瞳が見開かれた。
    「なっ……それ、お前っ」
     ガバッと起き上がり、ベッドから降りて飛びかかってくる。
    「おい、危ないぞ」
    「何でっ、いつ、どこでっ」
    「あれから二年というところか。同僚が海のど真ん中で見つけてな。さあ、ベッドへ戻ろう」
    「同僚って……」
     悔しさのあまりか、恥ずかしさのあまりか、俺を布団へ引きずりこんで、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。少々苦しいが、腕の中から返事をしてやる。
    「トムだ。一度会っただろう」
    「……会ったことない人なら良かった」
    「奴は信用していい。自分が追っていた事件絡みかと拾ったこれを、中身を確かめた後、誰にも見せずに俺に渡してくれたよ。その後も、他言していない」
    「それはありがたいですけど……誰にも読まれないつもりで書いたのに。あなた、全部知ってて僕と再会したってことですよね」
    「ああ。ツンツンしてかわいいなと思っていた」
    「やっぱり、憎らしい……」

     組織は壊滅し、俺たちは共に日本で暮らしている。晴れて恋人同士となるまでには、実にいろいろなことがあった。自らの危険を顧みず、想いのたけを綴って海に流した彼は、二年の間にその想いをすっかり拗らせていた。だが、固く閉じられた蓋をひとたび開ければ、花の香りと新緑の輝き、真夏の日差し、秋の彩り、それに凛とした冬の静けさが俺たちを包んだ。彼は四季の全てであり、俺の全てだ。二度と離れはしない。




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    Replies from the creator

    AmakAsuka

    DONEエアブー230528の展示作品です。安赤ワンドロワンライのお題「最後の日」をお借りしました。
    バーボンが、スコッチの最期の言葉を聞くことができていたら、と想像してみました。映画の影響で、幹部を手伝ってくれる構成員も登場させています。その後、ライが組織を抜け、2年後に赤井秀一として日本に戻ってくるまでを書きました。
    これだけで読めますが、6/23からのエアブーで続きを展示します。ハッピーエンドです。
    最後の日「おい。バーボンはどこにいる。誰か知ってるか」
    「今日は〇〇会の取引のために潜ってますぜ」
    「そうか……奴が戻ってきたら、気を付けろ。荒れるぞ」
    「兄貴、心配してやってるんですかい。そりゃあバーボンは、ライとデキてるとかデキてないとか言われてやしたが」
    「んなことはどうでもいい。ライのこととなると逆上するあいつが面倒なだけだ」
    「逆上ですかい?俺には、いつもより冷たく見えやすよ」
    「ウォッカ。赤い星と青い星、どっちが熱いか知ってるか」
    「え。あ、青い方……あー。そういうことですかい」
     真っ赤になって怒っている時よりも、静かに青い目を光らせている時の方が、恐ろしい。裏切者としてライに始末されたスコッチの死以来、バーボンのライを見る目は、氷のように冷たい。
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    AmakAsuka

    DONEPixivの1000字コンテストに応募した、「ボトルメール」をテーマにした小説です。ハッピーエンド。pixivの方は、コンテスト用に少し縮めてあります。こちらが完全版となります。零くんがこんな危ないことをするか?とも思いますが、パッと浮かんできた光景を書いておきたかった。赤井さん相手なので突飛なことをしてしまう上に今よりももっと若かった零くん、ということで、広い心でお読みいただければ幸いです。
    ボトルメール一、あなたは海の彼方

     僕の中に残っていた、温かいもの。それが粉々に砕かれた瞬間。破片をかき集めて、ボトルに入れ、蓋をした。優しい笑顔、気遣ってくれる声、交わしたいくつもの言葉。かけがえのない親友を失ってからも、なおも心の中から消すことができなかった日々。
    「さよなら、ライ」
     海に流して、すべて忘れよう。それでもこんな風にボトルメールにして、ぷかぷか浮かぶのを眺めているのは、未練にほかならないけれど。
         ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
    「よぉ、シュウ!」
    「トム。しばらくだな。あの件は片付いたのか」
    「ああ、手こずったがな。この前アドバイスもらって助かったよ。さすがは『ライ』だな」
    「それは禁句だ」
    「ハハッ。悪い悪い」
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