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    ふなはしゆら

    @yura_pontoon

    Twitterに勢いで出したものをこそこそ修正したりしなかったりしてまとめる場所にするつもり。

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    ふなはしゆら

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    以前書いたものを追記・訂正なしで投げます。
    喧嘩して「実家に帰らせていただきます」なフェルムコと、振り回されるお子さん二人。

    夫婦喧嘩は竜も食わない『面白そうだからお前について来てるけどよぉ、本気か?』

     ドラちゃんの問いかけを無視して走る。小さな溜息が俺のつむじをくすぐった。
     俺の頭にはしがみつくドラちゃん。そして腕にはすやすやしているスイ。スイ用の肩掛け鞄は置いてきてしまった。二人を連れて飛び出した土魔法の家は後ろへ遠ざかって、もうすぐ闇に見えなくなる。
     夜の森は月明かりだけじゃ足元の枝も見えづらい。なんだかわかんない鳥っぽい奴の声も響いて不気味だ。それでももう、フェルの元へなんか戻らない。
     さっきフェルと口喧嘩をした。別にあいつには頭を下げてそばにいてもらってるわけじゃない。契約させられた時なんて、無理やりも同然だ。フェルなしでも俺はやっていける。
     ……当面は家に帰れるのかって話だけどさ。フェルならすぐに行き来出来る距離だ。俺の足だとどうだろう。朝から近場のこの森へ狩りに来た。せっかくだから一晩泊まって遊ぶつもりで従業員に家の事をお願いしてある。もし道に迷ったりして何日もかかると皆に迷惑かけるなぁ。
     考え事して走っていたら躓きそうになる。俺にくっついてるドラちゃんとスイのためになんとか持ち堪えた。これでも起きないスイはきっと将来大物になるぞ。
     川が近づいて木々が開けた場所に出た時、ドラちゃんが俺の髪を引いた。

    『来るぜ』

     何が、と口に出す間もなくふわりとした光が俺たちを丸く優しく包んではじけた。フェルの結界? でもいつもより範囲が広いような――
     世界が白くなる。耳を貫き、脳も揺さぶる轟音。目なんか開けていられない。石くれだらけの地面に叩きのめされる。スイが俺の腕から転げていった。目を覚ましたんだろう、スイの声が微かにする。慌てて這って手探りで抱き戻す。
     フェルの雷魔法だ。獲物に放つのをこれまでに何度か見た。それなりに遠くからでも結構な爆風を受けたもんだ。それを、結界越しとはいえ真上から。
     時間としてはほんの僅か。とっくに収まった後もあまりの勢いにもう笑えてくる。さんざん光を受けた目は仰向けになっても星一つ映さない。やっぱあいつはすげぇわ。

    「……あははははっ!」
    『あるじ……?』
    『おい、頭大丈夫かっ! なぁ!? スイ、ポーションだっ!』
    「はは……ぶぇっ!?」

     とたん、スイがポーションを頭にぶっかけてきた。……スイちゃん、仕事が早いね。冷たい雫がいくつも口に入る。
     俺、何やってんだろうな。二人を不安がらせてまでさ。

    「あーあ……はぁ。つかれたぁ。別に頭がおかしくなったんじゃないよドラちゃん。ごめんな、心配かけて」
    『おどかすなよ』
    『あるじ、もう治ったー? ここどこー? フェルおじちゃんは?』
    「うんうん、スイのおかげだよぉ。なんか頭も冷えたし。フェルなぁ。……もう帰ろっか。あいつにはガツンと怒ってやんなきゃな」

     俺がそう言うとドラちゃんがニヤリと眉あたりを上げた。

    『ふーん、フェルのとこに“帰る”って言うんだな』

     あー、うん。もういいや。それで。
     ここまでの道と違って、帰りはドラちゃんが火魔法で行く先何メートルかを照らしてくれた。
     ほんの二十分ぶりぐらいにたどり着いた土魔法の家はドアも窓もなく漫画みたいにバーンと登場できるわけでもないので、わざと靴音を荒げて胸いっぱいに空気を取り込んでから思い切りがなりたてた。

    「フェルーっ!! 雷魔法撃つ奴があるかぁっ!? 結界張りゃいいってもんじゃないんだよっ!!」
    『あれなら流石の強情者とて文句の一つも言いに戻るだろうと踏んだのだ』

     なんとも憎たらしい口ぶりに反して、フェルは俺たちの顔を見て尻尾を揺らしている。ほんと、こういう可愛いとこもあるんだよなぁ。

    『ドラやスイがついておっても夜は危ないのだぞ。お主は心配性なのか怖いもの知らずなのかどちらなのだ。あまり我から遠く離れるでない』
    「へぇ、そりゃどうも。ただ雷こそマジで危なかったがな……なあ、スイ」

     あれ、寝てる。さっきもポンポン跳ねてたじゃん? 俺はスイを丸い形にくぼんだ布団に元のように寝かせて、上から布団をかけた。

    『悪かった』
    「謝るのは雷のことだけか?」
    『フン、さっきのことは謝らんぞ』
    「お前もたいがい強情もんだよ」

     俺の腰をフェルの尻尾が大切そうにくるりと巻く。俺もフェルの綺麗な緑の瞳を縁取る睫毛を、親指でそっとなでた。
     その時、ドラちゃんの芝居がかった咳払いの念話が届いた。

    『お前らの仲が落ち着いたんならそれに越した事はねぇけどよ。俺とスイが寝てる間に揉めやがって、原因は何だったんだ。こんなに俺らを巻き込んでおいてまさか隠しゃしねぇよなぁ?』

     小さな腕を組みながら目を眇める。まあ、そりゃもっともな質問だよな。

    「フェルが俺を想うよりも、俺がフェルを想う方が強いってぬかしたんだよバカフェルが」
    『誰がバカだ』
    『ん……ん? 逆じゃなくてか?』
    「合ってる。フェルが俺を見えないとこで守ってくれてること、俺は何も知らないと思ってるからそんなこと言うんだよ。この間ダンジョンで柄悪いのが絡んできた時もさ――」
    『お主こそ、我がお主の気遣いに気が付いていないと思っておるだろう』
    『ハアァ!? 一生バカップルだか喧嘩ップルだかやってろアホども、俺はスイと寝なおすからよ。夫婦喧嘩を邪魔する奴はフェンリルに食われて死んじまえって言うしな』
    「言わない。なんかめちゃくちゃに混ざってないか、それ」

     ドラちゃんはふらふらと布団まで低空飛行して、すっかり眠り込んだスイのそばで丸くなった。俺だけに念話で『明日、俺とスイのデザートの権利は五つ。いいな』と要求しながら。
     はあ、ちゃっかりしてんなぁ。
     でも面白そうだからーなんて照れ隠し言っちゃって、俺のことを気にかけてついて来てくれたんだよな。

    「わかった。ありがとな、ドラちゃん」

     ドラちゃんは右の翼を一度パタリと動かして、静かに寝息をたてた。
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