【フェルムコ140字ログ】2023年7月※一つずつ設定や関係性がバラバラです。初告白を何度でも。
◆2023-07-02
『「いい加減認めなさい」』
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「ギルドマスター、俺は普通ですから」
どこが普通だ。従える4体は伝説級。卸す育毛剤は異様に効果が高く、アイテムボックスは容量桁外れ。
つい先日は従魔のフェンリルと結婚した。本人は屋敷で静かに祝うつもりだったようだがなんだかんだで国中の祭りになった。
「普通な訳あるか。いい加減わかれ」
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◆2023-07-03
『笑顔の裏の本音』
不穏。
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「皆、飯だぞー」
何千回と聞いた呼び声。骨の髄まで飼い馴らされてしまった。
だが我らも味のいい魔物を狩り、主を飼い馴らしてきた。もう此奴は己一人で捕えられる程度の獣の味では満たされまい。
我らが毎食の美味さに笑うのは、主だって決して我らから離れられはしないと改めて確認できるからだ。
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◆2023-07-04
『ほろ酔いの失敗』
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本日の幻の酒店、閉店。
「お疲れー。フェルも飲めるジンジャーエール作ったからどうぞ。ハラペナもきかせたぞ」
『美味いな。どれ次は、異世界産の人間の味はどうだ?』
「お前なんで酒なしで酔ってんの……何これ雰囲気酔い? ちょっ服めくるな」
ああこれは、朝までの貸し倉庫代、延滞料かかるな。
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◆2023-07-05
『泣き顔さえも愛しい』
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主の営業スマイルとやらは好かん。
嫌悪や企みを覆い、無い笑みを作る。鼻に届く感情の匂いと言動が合わぬのは不愉快だ。
だが従魔である我らに対しては怒りも笑いも怯えもそのまま向けてくる。それが心地よかった。
我が主に愛を告げた時、大粒の涙を見た。喜びが流す涙があると知れた我は幸せ者だ。
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◆2023-07-06
『出逢いは偶然、じゃあこれは必然?』
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神の計らいってのは幻想だな。神様達の話でそう思う。ネットスーパー欲しさに喚んだでもなし、俺自身が必要なはずもなし、全部偶然。俺がこの世界ですぐ死んでたら俺の存在を知りもしないよな。
ただ流れ着いて、フェルに見つかった。偶然だらけでも今が幸せだから全ては必然って思いたくなるけどさ。
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◆2023-07-07
『「最後に、手を繋いで」』
……寿命ネタはやめとくね。
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従魔ではあるが従順なつもりはない。なのでやめて、の声をもっと、と解釈した。
主が大きく声を上げてきつく眉根を寄せた時。快楽と苦痛の境で息も絶え絶えなその姿を楽しみ、汗ばむ黒髪を存分に呼吸した。
後は望み通り、朝まで手を繋いでやる。言ってはやらんが肉球へ伝うぬくみは我も好きなのだ。
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◆2023-07-08
『「大好きだよ、嘘だけど」』
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スイにねだられてアイスの詰め合わせを買った。
「何が出るかなー……はい、苺味だよ」
『あるじありがとー』
俺のは……チョコミントかぁ。
「はい、フェル」
『なんだ、その味は苦手か?』
「いや、美味いからフェルにあげようと……ってのは完璧嘘だけどよくわかったな」
『お主は顔に出しすぎる』
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ムコさんがミントのキャンディーやアイス苦手って書いてたの、どこだったかめっちゃ探したらブルーレイの冊子でした。
◆2023-07-09
『君に出逢うまでは』
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最近まで三食作る日ばかりじゃなかった。朝食べない日。昼に先輩と外食する日。夜でも惣菜とか冷凍食品とかに頼る日も。
今毎食大量に作るのしんどい時あるけど、俺の飯を待つ人(?)がいるって嬉しいし頑張っちゃうよな。
『おい、まだか』
へいへい、できましたよ。……でもレンジ位は使いたいな。
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◆2023-07-10
『「どうして見てくれないの?」』
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『これの肉は美味いぞ』
「うん」
『これは薬になると聞いたな』
「へー」
『近頃話も上の空で我の顔さえ見んのはどういう了見だ』
「ごめん、俺ら付き合ってるんだなって、夢みたいって思っちゃうとまともに顔見れない……」
『前から不思議だったんだが異世界では大の男が愛らしいのは普通なのか?』
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◆2023-07-11
『唯一のミスは愛したこと』
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異世界に来て早々しくじった。
フェンリル怖さに生姜焼きを分けたら従魔契約?
向こう数十年も?
で、飯係が俺?
せっかく上手いこと城から逃げたのに、俺の人生は?
「――って思ったよ。一瞬」
『今の話、愛とどう繋がるのだ?』
えーっと、”愛とは食い物を分けあうこと”って何の本で読んだんだっけ?
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◆2023-07-12
『全て壊してしまおうか』
やめて。
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『のらりくらりと何年逃れる気だ。いい加減に我の伴侶となるか、国ごと滅ぶか。今ここで選べ』
「何そのラブオアナッシング」
『決めたか』
「ていうか本当にいきなり何? 嘘でしょ、俺フェルから好きとか付き合ってとか言われたことあったか?」
『嘘でしょとは我の台詞だ、耳で聞かねばわからんか』
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◆2023-07-13
『墓場まで持って行こう』
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限定品チョコがまだ残ってるはずとフェルが言う。けどアイテムボックス一覧にないんだよねぇ。
『お主が食ったか』
「お前の勘違いだろ」
もう何年経つ?
アイテムボックスに死蔵してた宝箱の中にチョコ。スイの悪戯を知らずに収めたか。
ま、どうせ疑われたんだしな。フェルに黙って皆で食べちゃお。
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アイテムボックスの中身リストに「チョコ入り宝箱」とか出てくれないのかね?
◆2023-07-14
『雁字搦め(がんじがらめ)』
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「一人で買い物したいんだよ」
作り置きを積まれて留守番か。料理中眺めてそのまま食いたいと言うのに。
不自由なのはこちらもだぞ。従魔になって以来風呂だの野菜だのと。
我の為なのだろうが。……我の為か。そうか。
『わかった、行くがよい』
「急にいい子ちゃんになって何企んでる?」
『噛むぞ』
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◆2023-07-15
『眩しすぎる程の太陽に、僕は目を細めた。』
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「月は太陽に照らされて光るから優しい光なんだよ」
『フェルおじちゃんとあるじー?』
「ん?」
『夜起きたらねー、光るフェルおじちゃんがあるじをギュッてしてねー』
「んん?」
『服着てないあるじ、照らされて笑って嬉しそうなのー』
「ちょっスイちゃんそれ他の人に」
……念話だった焦ったぁ。
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◆2023-07-17
『99%が愛だとしたら』
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ソーラーチャージャーでスマホがカメラに蘇って3年。
「あぁ、残り1%」
『日に当てろ』
「違う。あと少ししか撮れないの」
『? 貸せ』
「俺を撮ってどうすんの」
『我らや奴隷ばかり大事に残しおって。最後くらいお主の絵姿で埋めろ』
ありがとう。……めーっちゃブレてるけど。microSDもあるけど。
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ムコさんオタクだったら多分自分の写真なんか撮らない。
……私もそうです。
◆2023-07-18
『名前も知らない』
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「なんで俺を名前で呼ばないの?」
『知らぬのだ』
「は?」
ムコーダ。そんなかりそめの名に価値はない。見える本名は異世界の字。音も意味も名付け主の思いも、真に理解することはできない。契約した我らはそれを感じている。
人間と違い、此奴の名を知らないことを知っている。それは嬉しくもある。
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◆2023-07-19
『あのね、うん、何でもない』
またかい。
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「あのさ、そろそろ……」
一日終えてフェルにもたれかかる幸せ。ずっとこうしていたい。でもこの季節、もふもふのフェルが暑いと悪いし布団を敷こうかな。
途端、氷魔法をまとった涼やかな風が。
『ああ、掛け布団を出せ』
えー、ここで寝ろってのか?
『なぜ笑う?』
「何でもないよ、おやすみな」
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◆2023-07-21
『有り得ない言葉』
ムコ「ダンジョン? いいねぇ、行こ行こ!」
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「タバサも“料理は愛情”とか言うんだ。どうだろ、一人だと手抜きだったしな」
ムコーダさんが飾り切りの手も止めず言う。愛しのフェル様たちの為に手間隙かけて、そんなに変な話かな。
「どういう意味だい」
「俺は自分が一番だからね」
まあ……何を言うのも勝手だし、聞いて何を思うのも勝手だよ。
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◆2023-07-22
『何もかも閉じ込めてしまおう』
野菜を細かく切って餃子の皮に閉じこめます。即バレます。
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難関ダンジョン最下層はひたすらだだっ広い真っ暗闇だった。耳が痛む程の静寂。並の人間じゃ正気を保てないだろう。
「魔物いないし、フェルが光るし気配察知してくれるし、楽に帰れるかもな」
フェルは黙りこんで動かない。
『……帰る必要あるまい。お主と静かに暮らしたい』
「三泊くらいにして」
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ネットスーパーの画面も灯りになるよね?
◆2023-07-23
『顔が赤く感じるのは、きっと気のせいに違いない。』
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台所の主の後ろ姿を、ふと愛しく思った。
「で、今俺を好きになって即告白? 悔しいよ」
『なぜだ』
「俺、何年お前を好きなのかな。ウダウダ悩んでたのに何だお前のその余裕。もう、こんなはずじゃ……」
主は頬を赤くした。余裕なものか。答えを聞いた今も目が熱いのだぞ。顔に出ん事を祈るのみだ。
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◆2023-07-24
『綿あめみたい』
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二、三度使うかも怪しいのに買っちゃう物、あるよな。この綿飴機とか。
『異世界は妙な物が溢れているな』
「お、スイちゃん上手上手」
『見て見てー、フェルおじちゃんの毛玉ー』
「あーあスイに言われてる。今夜は風呂でフェルの綿飴を綺麗にするか」
『その後は甘い夜か』
「ハイハイ、溶ける夜な」
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◆2023-07-25
『全て壊してしまおうか』
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四角い光で買い物中の主。肩を後ろから引くと、間抜けな声をあげて仰向けに倒れた。
鎖骨の下は思いのほか薄い。前脚にかけた少しの体重でミシリと聞こえそうだ。それでも主は我を信じきり、甘えてるのかと見上げてくる。
これではどんな些細なことで命を失うか。叶うなら此奴の最期は我が、この手で。
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◆2023-07-26
『血のように紅いカクテルを』
お酒か。ゴン爺もおいで。
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「三人で呑みたかったんだよ」
『そうじゃのう、主殿』
爺よ、少しは殺気を隠せ。我を誘ったのは主だ。悪く思うなよ。
「見てー苺とヴィオレットベリーのジュース。綺麗だろー。ゴン爺と俺はジンで割るか。フェルは炭酸かな」
『我にも、同じのを』
酒が不味ければ後で口直しを要求するだけのことだ。
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ヴィオレットベリーを思い出すのに時間かかって、ヴィオレットベリーの名前で文字数とられた。
◆2023-07-27
『そんな台詞似合わない』
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「ちょっと、キレないでくださいよ」
傍らから小さな寝言。もしや我らが出会った夜の夢か。
此奴に敬語を向けられたのはほんの僅かだ。人を下に見ていたが、今ではそんな物言いされても落ち着かぬ。
夜が明けて街で人に会えば、此奴はよそ行きの口を利くだろう。優越感に浸るなというのは無理な話だ。
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◆2023-07-29
『最初から全て見抜いていたよ』
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『お主ははじめから我を好いておったしな』
「怖いとか呆れたとかが、好きと一緒ってんならそうだろうけどさ」
『我の為にあんなに何度も肉を切って味をつけて焼いてくれたらそう思うだろうが』
「金の為ならバイトで面倒な物も色々作ったよ……おい落ち込むなよ。今お前を好きなんだし、いいだろ?」
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◆2023-07-30
『手放したくなかった』
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主のステータスはそこらの人間を超えるが戦いを知らん。
だから魔物を一匹ずつ渡して練習だ。すると「今だ、クソ」と見苦しく喚き、ジタバタしつつ仕留めてみせた。
「はぁ……ありがとな」
レベルを上げるだけで怪我で死ぬ恐れも減らせる。
礼などいい。我らを永く従魔でいさせてくれればそれでいい。
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◆2023-07-31
『そう思っていた筈なのに』
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フェルの大きな瞳に俺が揺れている。出会った時は不安げな顔の俺が映っていた、緑の瞳。
けど契約を断りたいのに押し切られたあの時とは違う。俺達は今夜、互いの望みで夫婦の契りをかわす。
『本当に我でいいのか』
「あの時のお前が聞いたら驚くぞ。強引だったもんな」
『お主こそもう逃げまいな?』
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