敵なし「いい店だったなクリプちゃん。まぁ、俺の店の方がイケてるが」
「こどもか…まぁ、お前が店にいるという時点で俺にとって勝敗は決まってるが」
「っなんだよ…やけに素直じゃねぇか」
「酔ってるからな」
「こいつはいつも酔ってもらわなきゃいけねぇな」
夜の街でクリプトとミラージュは美味い酒を呑みいい気分で帰宅する予定だった。
だった、というのも何故だがガラの悪い男たちにミラージュはナンパされたのだ。
隣に恋人のクリプトがいるというのに。
「そこのかわいいお兄さん。俺たちと遊ぼうよ。あ、隣のお兄さんはごめんね、俺たち可愛いこが好きなんだわ」
「俺が可愛いだって?おいおい、確かに俺は男前で魅力的だが残念、もう相手がいるんだ悪いな」
この時点でクリプトの眉間に深い皺が寄っていたのは言うまでもない。
しかし命知らずの男の1人がミラージュに手を伸ばしたところで状況は一変した。
クリプトの長い脚から繰り出される回し蹴りが男を直撃したからだ。
「何すんだよ!」
吹き飛ばされた男は蹴られた腹を抑えて、苦しげにクリプトを睨みつける。
「俺のだって言ってんだ。これ以上俺の機嫌が悪くなる前に消えろ」
クリプトの低い声と鋭い眼光に周りの男たちは一瞬怯んだ様子を見せたが、無謀にもクリプトに向かって攻撃を仕掛けてきた。
クリプトが全員纏めて血祭りにしようとした時だった。
肩を引かれ後ろに下げられたクリプト。
それに驚いていると、目の前に恋人の背中。続いてバキっという嫌な音と共に男たちが次々と地面に崩れ落ちていく。
クリプトが驚いてミラージュを見るとミラージュは拳を軽くぷらぷらとさせながら普段の彼からは考えられもしない冷えた瞳で潰れた男たちを見ていた。
男たちがひっと声を上げて後ずさる。
「おい、俺は愛する人を傷つけられることが世界で一番大嫌いなんだ。この意味、分かるか?次こいつに何かしてみろ、お前ら全員纏めて"かわいい"俺が去勢してやるよ」
ミラージュの怒りに恐怖した男たちは今度こそ悲鳴を上げて散り散りに逃げ去っていった。
ふぅーと息を吐いたミラージュがクリプトを見つめる。
「帰ろうぜダーリン」
その笑顔に先程の冷たさは一切なく、いつもの太陽のように暖かい笑みを魅せるクリプトの恋人ミラージュだった。
「ふはっ」
突然笑い出したクリプトに不思議そうに小首を傾げるミラージュ。
「いや、お前のそういうとこ悪くないな」
「悪くない、じゃなくて?」
挑戦的にミラージュは上目遣いでクリプトを見つめる。
意図のわかったクリプトはやれやれと照れくさそうに頭をかきながら
「ったく、好きだって言ってんだよ」
ぶっきらぼうにそう言ってのけた。
照れ隠しだと勿論わかっているミラージュは満面の笑みでクリプトに抱きつく。
「俺も愛してるぜクリプちゃん。いや、テジュン」
頬にキスをおとされ、唐突に本名で呼ばれたクリプトはというと、スイッチを押され目の前の恋人が欲しくて堪らなくなり、ミラージュの手に指を絡め自分のポケットに纏めてつっこみ歩き出す。
「煽ったお前が悪い」
「ふはっそういうことにしといてやるか」
この2人、敵なしである。